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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第3部 爵位継承編
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第36話 ロールアウト

「ついてきなさい」


 ガーネット公爵にそういわれ、戸惑いながらもついていった湊がたどり着いたのは、そのままガーネット邸の地下にある侯爵専用のリニア地下鉄に乗せられ、わずか五分ばかりで到着した駅に直結された研究所だった。

 今は避難命令が出されているため、ほとんど人影が見当たらないが、普段は様々な分野の研究者や技術者たちが数百人規模で働いている、ガーネット公爵専用の研究施設である。


 その研究施設の無人ゲートを通り抜け(なぜか湊の携帯端末でも通り抜けられた)、公爵の案内で進むことしばし、湊の目の前に現れたのは、巨大な鋼鉄製の扉だった。


「ここだ。入りなさい」


 扉の脇にあるセンサーに自身の端末を読み取らせて扉のロックを解除したガーネット公爵に入るように促された湊が、ゆっくりと扉の中へと足を踏み入れる。

 しかし。


「……? 真っ暗ですけど?」


 一寸先も見えないほどの闇に湊が首を傾げていると、湊に続いて入ってきた公爵が何かを操作した、その瞬間。

 暗闇に慣れていた目を刺すように天井から光が降り注いで思わず目を閉じた湊は、それから少しして光に慣れたところで、ゆっくりと目を開ける。


「これは……っ!?」


 湊の目の前には、鋼鉄の巨人が佇んでいた。

 白銀を基調として所々に青や赤のラインが入った、どこか女性的な印象を受けるシルエット。

 更に両肩には巨大な二枚の羽のようなものが取り付けられている。

 頭部もヘルメット状で、目にあたる部分に細いスリットが入っている。

 腰の部分に剣を装備していることもあり、全体的には女騎士のような印象を受ける。


 そんな鋼鉄の巨人を湊が見上げていると、後ろからチャールズが声を掛けてきた。


「これは元々、リリアに与える予定だった新型の対魔獣殲滅兵器(ABER)だ。現行機よりも装甲を薄くすることで機体の軽量化に成功し、その最高速度は現行機の実に三倍となっている。もちろん装甲を薄くしたのだから、防御力も従来より劣っている。いわゆる回避型となるわけだ。詳しい内容などは、君の端末に送っておいた。操縦席コクピットに取り付けた読み込み装置に、端末をセットすれば、あとはプログラムがサポートしてくれるだろう」


 その言葉に湊が改めて目の前のABERに視線を向けると、確かに軍に配備されているABERに比べて、全体的にシルエットがすっきりしている。

 そんな湊に、公爵はどこからか取り出したパイロットスーツを湊に差し出す。


「さぁ、時間がない。早く出撃をしなさい」


 ひとつ頷いた湊は公爵からパイロットスーツを受け取ると、すぐさま着替えるために更衣室へと走った。

 そうして、いつもと変わらないパイロットスーツに身を包んだ湊は、整備員の人に促されるままに搭乗タラップを駆け上り、そのまま狭いコクピットに身を滑り込ませ、公爵に言われたとおりに端末を読み込み装置にセットする。

 その直後、鳴動するような低い音とともに、各種計器やセンサーが一斉に目を覚まし、それから少しして内壁透過モニタも起動して外の様子を映し出し、それと同時にモニタの正面に機体名と起動完了を告げる文字が浮かび上がった。


Aura(アウラ)……? それがこの機体の名前……」


 湊が機体名を口に出したと同時に、恐らくABERのカメラアイに光が灯ったことを確認したのだろう、チャールズの声がタイミングよく聞こえてきた。


『無事に起動できたようだな、ミナト君』

「はい」

『すでに確認できたと思うが、その機体の名はアウラという。この世界に一つしかない(ワンオフの)機体だ。大切に扱ってくれたまえ』

「……善処します」


 どことなくプレッシャーを感じた湊が、頬を引きつらせながら返事をすると、チャールズは一瞬だけにやりと意地の悪い笑みを浮かべた後、すぐに真剣なまなざしになって部下へと指示を送る。


『よし、そのまま出撃シークエンスに入る! 射出場所は東門! 許可はすでに取ってあるから軍のリニアカタパルトに接続してかまわない!』


 上の指示にテキパキと従い、湊が乗った新型のABERはあっという間に射出口へ向けて運ばれていく。


『リニアカタパルトのルート接続完了! 出力正常!』

『アウラ、各ジェネレータ、各プログラム異常なし! 紫獣石(ビスダイト)パック、出力正常! 全システムオールグリーン!』


 オペレーターたちの声と同時に、コクピットの内壁透過モニタにもいくつもの表示が現れては消え、システムチェックを済ませていく。

 そうしてすべてのチェックが終了すると同時に、ABERを乗せた台の動きも止まり、湊の目の前に射出口がぽっかりと姿を現した。


『進路クリア! 射出タイミングをパイロットに委譲します! アウラ、発進どうぞ!』

「了解!」


 オペレーターに鋭く返事をした湊は、操縦桿(ハンドレバー)を強く握った後、モニタに映し出された公爵に視線を向ける。

 当然公爵からは湊の姿など見えないはずだが、しかし公爵はまるで見えているかのように湊へと頷き返した。

 それを確認した湊は、そっと目を閉じて深呼吸をする。

 そして。


「ミナト・イスルギ! アウラ! 出ます!」


 宣言すると同時に、湊は勢いよく操縦桿を押し込み、直後に襲い掛かってきた強烈な荷重圧に歯を食いしばって耐えながら、モニタを鋭くにらみつけた。




◆◇◆




 オークスウッドの東門から勢いよく射出された湊は、新型のABER「アウラ」を素早く操作して高機動モードへと移行させると、地図に表示された光点を目指してひたすら機体を走らせながら、内心で首を捻っていた。


「(確かにアウラは今までの機体よりも速い……。速いんだけど……)」


 チャールズが「最高速度は現行機の三倍」と言っていたが、そこまで速いようには感じられなかった。


「体感的には、1.5倍くらいかな……? このままだと、リリアのところに着くのに十五分はかかっちゃう……」


 湊がそう呟いた時だった。

 内壁透過モニタの端に表示されていた機体状況を示すモニタが突然拡大されたかと思うと、アウラに装備されている肩のパーツが緑色に点滅し、その横に操作手順が表示されていた。


「何だろ、これ……?」


 首を傾げながらも、手順に従って操作していく。


「えっと……? 右手の横に設置してあるレバーを一番前にスライドさせて、ボタンを押すっと……」


 そうして手順道理に操作をした瞬間だった。

 突然、何かがスライドする音がしたかと思うと、その直後に機体が急加速を始めたのだ。


「っ!?」


 どうやら、アウラに装備されている肩のパーツが背後に移動し、紫獣石(ビスダイト)エネルギーを勢いよく後方へ噴出したらしく、機体が勢いよく前へ押し出された。

 いきなり襲い掛かってきたそれまで以上の荷重圧に、湊はただ耐えるしかなかった。

 ただ、その代償に見合った成果はあり、歯を食いしばって耐えながらちらりと地図に表示された光点と自分の位置を示す光の距離が、みるみる縮まっていくのが分かった。


「これなら……!」


 距離が縮まる速度と自分とリリアたちを示す光点の位置から、戦闘現場に到着するまで残り五分程度と判断した湊は、今のうちにと自分が乗る機体に搭載されている武装の確認をする。


「えっと……、標準装備が腰の剣とマルチミサイル、あとは牽制用のハンドガンか……」


 少し心もとないかな、と考えたところで、湊の思考を読んだかのように、再びプログラムが一枚のウィンドウを表示させる。


「ん……? 肩のパーツの使い方?」


 プログラムが表示させた説明書を読んでいくうちに、湊の顔は驚きへと変わっていく。

 そして、最後まで読み切ったところで、湊はぽつりとつぶやいた。


「まったく……。チャールズさんもすごいものを造ったな……」


 湊は、新型のABERのアウラの凄すぎる性能に、ただただ驚くしかなかった。


 そうこうしているうちにも、湊とリリアたちの距離はどんどんと近づいていき、モニタの向こう側にはもう城塞亀(シェルタートル)の姿と仲間たちの姿が見えてきていた。

 どうやら戦闘に間に合ったらしく、リリアたちは対魔獣殲滅兵器(ABER)よりもなお大きな城塞亀相手に果敢に立ち向かっている。


「よかった。間に合った!」


 そして湊がホッと胸をなでおろそうとした時だった。

 リリアの乗る機体が突然、穴にはまってバランスを崩すのが見えたかと思うと、城塞亀がリリアの機体へと天辺の砲口を向けるのが見えた。


 その瞬間、湊の脳がスパークし高と思うと、とっさに機体を操作して飛び出す。


「リリア!」


 叫びながら仲間たちを一足飛びに越えた湊は、そのままバランスを崩して地面に倒れているリリアの前に立つと、先ほどの説明書通りにレバーを操作する。

 すると、それまでアウラの背後に回っていた肩のパーツが一瞬の間に、今度は前面に移動し、左右のパーツが合わさって一枚の巨大な盾のようになる。

 それを確認した湊がそのまま盾を地面に設置させると同時に盾から杭が地面に打ち込まれ、しっかりと固定された。


『ミナト!?』


 リリアがここにいないはずの人物の名を叫ぶ。

 しかし、そんなリリアのことなどお構いなしに、状況は進んでいく。


 まるで湊の準備ができるのを待っていたかのように、巨大な城塞亀の主砲が煌めき、膨大なエネルギーを放射した。

 このまま直撃すれば、いくら盾があるとはいえ、湊は機体もろとも蒸発してしまう。

 そんな未来を予測したリリアが思わず手を伸ばそうとしたが、湊はリリアを振り返ることなく、落ち着いた様子で前を見つめる。

 そして。


「シールドモード! エネルギー全開!!」


 湊が叫ぶと同時に、盾の一部が音を立てて展開され、そのまま内部に組み込まれた回路を伝って紫獣石から供給されたエネルギーが盾全体を覆いつくす。

 その直後、城塞亀から放たれたエネルギーがアウラの盾にぶつかる。

 思わず目を瞑ったリリアは、しかし訪れるはずの膨大な熱量が一切自分に届いていないことに気づき、ゆっくりと目を開ける。

 するとそこには、しっかりと地面に接地された盾を支え、城塞亀の主砲の一撃を防ぎ続ける、それまで見たことのない機体の姿があった。


『ミナト……なのですか?』


 少女からの問いに、湊は通信モニタ越しにゆっくりと頷いて見せる。


「よかった、間に合って」


 城塞亀からの光を防ぎながら笑って見せた湊は、すぐに状況を確認する。


「リリア、どこかケガはない? 機体の状況は? 他のみんなは?」

『えっと……私にもABERにも問題はありません。他のみんなも無事です』


 少年からの矢継ぎ早な質問に、リリアは戸惑いながらも律義に答えた。


「よかった」


 そう言って微笑んで見せた湊は、やがて城塞亀が放つ主砲のエネルギーが弱まってきていることに気づくと、いまだに通信モニタの向こうで戸惑いを隠せないリリアに言う。


「もうすぐ城塞亀(アイツ)の主砲が途切れる。そうしたら、僕はすぐにアイツに近づいて一気に首を落とすよ。リリアたちは援護してほしい」

『おい、ミナト』


 リリアが何か言うよりも早く別の通信モニタが開かれ、先輩のダインが割り込んでくる。

 その顔は、怒っているというよりもむしろ挑発的に笑っているように見える。


『いきなり出てきていうじゃねぇか。やれるのか?』


 先輩からの挑発とも取れるその言葉に、湊は確信をもって頷き返した。


「はい。この機体……アウラならできます!」


 湊の言葉に、ニヤリと笑ったダインはカールにも通信をつなげる。


『面白い! おい、カール! 俺たちはミナトの援護だ!』

『言われなくても分かっているさ! ミナト、しくじるなよ!』


 もう一人の先輩からの言葉にも頷き返した湊は、城塞亀の主砲が止まったことを確認すると、三度レバーを操作する。

 すると今度は、盾のように一枚になっていたそれぞれが再び別れ、そのままアウラの両腕にスライドし、まるで手甲と剣が一体になったような形になり、刃の部分からエネルギーが放出される。


「ブレードモード!」


 短く叫びながら一気に飛び出した湊は、そのまま高機動モードで城塞亀へと接近する。

 当然、近づけてなるものかと、城塞亀も甲羅の針山から大量の砲弾を撃つが、あるいはダインの狙撃に阻まれ、あるいはカールのミサイルに撃墜され、あるいはアウラの速度に追いつけずに地面を抉る。


 頼もしい先輩たちの援護を嬉しく思いながら城塞亀に一気に接近した湊は、勢いそのままに城塞亀の首へと左右のブレードを振りかざした。

 そして数瞬の後に、城塞亀の首が音を立てて地面へと落ちた。

大変お待たせいたしました。

新型のお披露目です。

第3章が始まってからずっと構想していた機体です。

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