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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第3部 爵位継承編
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第29話 それぞれの想い

 ピタリと体に張り付くようなパイロットスーツに身を包んだリード・ガレナは、普段軍で使っている対魔獣殲滅兵器(ABER)ではなく、軍には登録されていない可変式の新型ABERの中で、操縦桿を握りしめながら、ニヤリと笑っていた。


「ついにこの日が来た……。これがうまくいけば、邪魔なアイツ(・・・)は……」


 狭いコックピットの中で誰に聞かせるでもなく呟いていると、突然通信が入る。


『ガレナ様。まもなく予定ポイントに到着します』

「よし、ポイントに到着し次第、各自散開して魔獣を捜索しろ! 見つけたら、すぐに俺に報告だ!」

『『『了解しました!!』』』


 手早く部下に指示を出すリード。

 ちなみに彼は、部下に自分のことを「隊長」ではなく「ガレナ様」と呼ばせている。

 次期伯爵であり貴族であるということから、そう呼ばせているのだが、そんな彼に対する軍上層部の心象はあまりよくない。

 しかし、彼のバックには厄介なオニキス伯爵がついているという事実に、軍上層部は黙認するしかなかった。


 ともあれ、自分の指示にきちんと従う部下と、これから一人の少女を襲うであろう惨劇を想像して、いやらしい笑みを浮かべながら、リード・ガレナは自身のABERに搭載された、とある装置の残数を確認するのだった。




◆◇◆




 その日、リリア・ガーネット率いるガーネット隊は緊急出撃(スクランブル)の為の待機任務に就いていた。

 ぴったりとボディラインが浮き出て見える、窮屈なパイロットスーツに身を包み、今は全員が思い思いに過ごしていた。

 ちなみに、オークスウッド国立防衛軍のスクランブル待機所には、長時間の待機任務に隊員たちが耐えられるように、漫画や雑誌、ゲームなどの娯楽、仮眠のためのベッドやソファなどが置いてある。


 それはさておき、公爵の娘でもあるリリアは現在、リムレスの眼鏡をかけて公爵宛ての書類に目を通しながら、それでも集中しきれずに、さっきからチラチラと湊の方に視線を向ける。


 一方湊はといえば、ソファに座りながら待機室に常設してある漫画を読みつつも、チラチラとリリアへ視線を送っていた。

 そんな二人の状況に、残るガーネット隊の隊員、ダイン・コランダムとカール・アイドクレースの二人は深いため息をついた。

 二人ももちろん、ここ最近のリリアの異変には気づいていたし、その原因が恐らくは後輩(ミナト)にあるのだろうということは、とっくに気づいていた。

 気づいていて、あえて何も言わずに来たのは、リリアと湊の二人の問題であり、自分たちが口出しするわけにはいかないと判断したのと、いずれ勝手に仲直りしてくれるだろうという算段があったからだ。


 だが、リリアの様子がおかしくなった日から数日間。

 一向に二人の問題が解決していない事態が、ついにダインとカールの口から盛大なため息がはき出たのであった。

 そして二人は目を合わせ、アイコンタクトで会話をする。


「(どう思うよ、カール?)」

「(まったくダメダメだね。いい加減、さっさと仲直りしてもらわないと、こっちが疲れるよ……)」

「(だよなぁ……。俺も、ぶっちゃけこの狭い待機室の中でぎくしゃくされると、ストレスが溜まるわ……)」

「(奇遇だね、僕もだよ……。恐らくミナト(アイツ)が隊長に何かやらかしたんだと、僕は睨んでいるわけだけど……)」

「(俺もそう思うね。隊長が何かしらをやらかしたのなら、すぐに隊長は謝るはずだしな……。……仕方ない、ここは先輩として一肌脱いでやるか……)」

「(それじゃ、僕は隊長の方に回ろうかな)」

「(了解、そっちは任せた)」

「(そっちもね)」


 こうして二人は一瞬の間にアイコンタクトによる会話を終わらせると、すぐさま行動に移すことにした。


「よう、ミナト! ちょっと面貸せや」


 元いた世界(あちら)のひと昔前の不良みたいな言い方でダインが湊を部屋の隅へと引っ張っていき、次いで少し心配そうな表情をするリリアの前に、カールが立つ。


「隊長、少しお聞きしたいことがあるのですが?」

「はい、何でしょうか?」

「単刀直入にお伺いします。隊長は、あいつ(ミナト)と何かあったのですか?」

「ふぇっ!?」


 あまりにも直球な質問に動揺を隠せないリリアが間の抜けた声を出す。


「なな……何がって……」


 普段明朗快活な彼女からはおよそ考えられないほど、その唇からもごもごとした音が漏れ出る。

 そのあからさまな様子に、きらりと眼鏡を光らせながら、カールが問う。


「いったい何があったのか……。よかったら僕に話してくれませんか?」


 内心、「いい加減仲直りしてくれ」と思いながらも、そんなことは微塵も顔に出さないカールの紳士的な態度に、リリアはしばし黙考した後で、ゆっくりと口を開いた。


「実は……」




◆◇◆




「じ……、実は……」


 先輩ダインに突然呼び出され、彼が放つプレッシャーに負けた湊は、数日前にあった出来事を話した。


「…………ということがあったんです」

「そうか……」


 後輩の話を聞き終えたダインは、ゆっくりとため息を吐いた。

 当初の予定では、おそらく何かしらをやらかしたのだろう湊を説教し、すぐにリリアに謝罪をさせようと考えていたのだが、この話を聞いた限りでは、少なくともこの後輩(ミナト)が何かを特別にやらかしたわけでも、悪いわけでもない。

 当然、偶然現場を目の当たりにしてしまったリリアに非があるわけでもない。

 強いて言えば、湊に告白したという軍学校の女生徒(名前までは言わなかった)と、偶然その場を目撃してしまったリリアの真の悪さが原因だろう。

 ならば、この後輩を説教あるいは叱ることは間違っている。

 間違っているのならば、それはやるべきことではない。

 見た目は粗野だが、自分が間違っていたらそれをきちんと認めることができるのは、ダインの美徳ともいえる。


「確認するが、お前はその娘の告白を断ったんだな?」

「はい……」

「で、それを隊長はうっかり目撃してしまったと……」

「そうですね……。ただ、僕が断ったところまで見ていたかどうかは分かりませんが……」


 実際、あの時は湊はリリアに対して背を向けていたし、リリアが走り去ったのも、クーリア・ジェードから聞いた話で、具体的にどこまで目撃されたかは分からない。

 

 湊の話からほぼ状況を正確に理解したダインは、なるほどと納得する。


「(おそらく隊長が目撃したのは、ちょうどミナト(こいつ)が告白されたところまでだな……。隊長は自覚してるかどうかは知らねぇが、少なくともこいつのことが気になっていたところへ、突然女子から告白される場面を目撃して、気が動転したんだろうな……)」


 そう考えたダインは、湊の背中を強めに叩いた。


「痛っ!! 何するんですか!?」

「気にするな。少なくとも今回は、お前にどうこうできる問題じゃねぇんだ。だったら、お前は普段通りに隊長に接してやればいい」

 先輩の無骨な、けれどしっかりと的を射たアドバイスに、湊はこくりと頷いた。




◆◇◆




 リリアの話を聞き終えたカールは、内心で頭を抱えていた。


「(うすうす気づいていたけど、隊長はやっぱりミナト(あいつ)のことを……! しかも本人が自覚してないとか!! というかやっぱり隊長は間が悪すぎる! まさかあいつへの告白シーンを目撃するとか……!)」


 できるだけ心情を顔に出さないように頑張っていると、リリアがコトリと首をかしげた。


「カール……?」


 名前を呼ばれて我に返ったカールは、あわててずれた眼鏡を指で持ち上げる。

 そしてどうしたものか、と一人悩む。

 下手にアドバイスをすれば、純粋な彼女はきっとそのまま行動に移してしまうだろう。

 とはいえ、このままでは部隊全体の空気も悪くなるし、何よりカールもダインももどかしさでどうにかなってしまうだろう。


 一番手っ取り早いのは湊がリリアにさっさと告白してしまうことだが、それを強要することはできない。


「(それに隊長(この人)にはもう一つ、公爵から出された答えを出さなきゃいけないっていう課題もある……)」


 話の流れで、その課題についても聞いたのだが、あいにくカールに出せる答えはなかった。

 二つの大きな悩みを抱えて、いっぱいいっぱいの彼女が出した結論が悩みの一つの原因である湊を避けることで、悩みの一つから逃げることだった。


 そうこうしているうちに、湊との話を終えたダインがカールへ湊の話を伝える。


「今回ばかりは、さすがにミナト(あいつ)がどうこうできる問題じゃねぇな……」

「そうだね。僕も隊長の話を聞いた限り、主な原因は隊長の間の悪さにある」

「てことは、隊長に気持ちを自覚してもらうのが一番手っ取り早いってことか……?」


 ダインの問いに、カールは頷いて返す。


「そう思う。ただ、下手に遠回しに言ったところで、きっと隊長は理解してくれないから……」

「ああ、ここはストレートに隊長に言うしかねぇな」


 そろそろリリアとの付き合いも、それなりに長くなってきた二人はそう結論付ける。

 そして。


「そういうことなら、俺はもう一回ミナト(あいつ)を引き離すか……」

「頼んだ。僕は隊長に話をするよ」


 お互いに頷きあい、再び行動に移す。


「おう、ミナト。ちょっともう一回面貸せや」

「ダイン先輩!? ちょ! いったい何なんですか!?」


 再び一昔前の不良のように呼び出しを食らった湊が、それでも律義についていくのを目の端で追いかけて、カールはリリアの前に立つ。

 そうして少しだけ深呼吸を繰り返すと、ゆっくりと口を開いた。


「隊長……」

「はい?」

「その……、さっきの話ですけど……。ほら、例のシーンを見てしまったっていう……」


 その言葉を聞いた瞬間、僅かに眉をひそめたリリアに、カールは言いにくそうに躊躇う。

 だが、言わなくてはならない。

 彼女自身のためにも、チームのためにも。

 そう覚悟を決めて、カールは再び口を開いた。


「僕が隊長の話を聞いて思ったんですけど……、実は隊長ってアイツ、ミナトのことが好きなんじゃないですか?」

「……? はい、好きですよ?」

「…………?」


 やけにあっさりと認めたリリアに、カールは疑問を抱く。

 が、直後にリリアの口から飛び出した言葉に、思わずがっくりと肩を落とした。


「もちろん、ミナトは大切な家族であり、部隊の隊員でもあります。だから好きですよ。そしてそれは、カール。あなたもですし、ダインもですよ」


 どうやら「好き」の意味をはき違えたらしい。

 そう理解したカールが聞きなおそうとした矢先だった。


 突然、待機室にけたたましく警報の音が鳴り響き、すぐにスピーカーからオペレーターの逼迫した声が流れてきた。


『西門二十キロ地点のセンサーに魔獣反応! 哨戒任務中の部隊は現在、北門にて遭遇した魔獣と戦闘中のため、待機中のガーネット隊に出撃を要請します!』


 瞬間、それまでとぼけたような顔をしていたリリアが、ぐっとその表情を引き締めてその場の全員に声を発する。


「全員、今聞いた通りです! すぐにABERに搭乗して、緊急出撃スクランブルです!」

「「「了解!!」」」


 そして全員すぐさま待機室を飛び出し、格納庫直通の扉をくぐり、それぞれのABERに乗り込む。

 胸部のコクピットハッチからシートに身を滑り込ませ、腰部から伸びたコネクタをアダプタに接続。

 同時に、ABERのメイン起動スイッチを押し込んで、各種計器に灯をともす。


「メイン動力始動! 各部ジェネレーター異常なし! 各種センサー確認! 紫獣石(ビスダイト)パック出力正常!」


 慣れた手つきで次々とセンサーや計器をチェックしていく。

 そして。


対魔獣殲滅兵器(ABER)、起動完了!」


 最後に、ABERの頭部カメラアイに光が灯り、すべての起動シークエンスが完了したところで、リリアはチームに通信をつなげる。


「先ほど、本部から魔獣の情報が送られてきました。相手は、擬態猿(フェイクエイプ)が三体です」

擬態猿(フェイクエイプ)……。確か、地面とか樹とか色んなものに擬態する魔獣だっけ?』


 軍学校時代に習った魔獣の知識から情報を引っ張り出した湊に、リリアは頷く。


「はい。光学カメラでは擬態を見破ることは難しいかもしれませんが、魔獣が相手なので紫獣石(ビスダイト)の反応を追えば、相手の位置はわかります。落ち着いて対処すれば、手強い相手ではありません」


 湊が通信モニタ越しに頷くのを確認して、リリアは命令を出す。


「それではガーネット隊! 全機発進です!」


 リリアの号令に合わせて、それぞれのABERはカタパルトから勢いよく射出されていった。




◆◇◆




 吃驚しました……。

 突然、カールが「私がミナトのことが好き」というものですから。

 でも、カールにそう言われて、不思議と心にストンと何かがはまったような感覚がありました。

 それと同時に、私が今まで抱えていたモヤモヤの正体にも、何となく見当がつきました。

 そして理解したのです。


 私は彼のことが好きなのだと。


 もちろん、カールに告げたような「親愛」という意味での「好き」ではなく、所謂恋愛感情として「好き」だということです。

 自覚してしまえば、簡単な話でした。

 そしてもう、私にミナトを避ける理由はありません。


 そのはずですが、彼への恋愛感情を理解した途端、今度は彼の顔を見るのが恥ずかしくなってしまいました。

 多分、彼の顔を今見れば、きっと私の顔は赤く染まることでしょう。

 今は緊急出撃(スクランブル)なので、隊長として接することで分からなかったと思いますが、きっと任務が終わった後は正面から彼の顔を見ることはできないと思います。


 私の心臓は現在、かなり速く脈打っています。

 これは、緊急出撃(スクランブル)ゆえの緊張感ももちろんあるとは思いますが、それ以上に急に恋愛感情を自覚したことへの動揺なのでしょう。

 本当は動揺を抱えたまま出撃することは危険極まりないのですが、こればかりは仕方ありません。

 そう、あんなタイミングであんな話をしてきたカールが悪いのです。

 だからこの出撃が終わった後で、カールにお仕置きをすることにしましょう。


 そう心に決めて、それでも収まらない動揺を隠すように、私はきつく操縦桿を握りしめました。

今回、少し場面転換が多い気がしますが、これも演出と思ってください。

感想、その他があれば気軽に送ってください。

作者が喜びます。(笑)

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