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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第2部 学園生活編
46/91

第36話 大規模防衛線

あけましておめでとうございます。

今年も本作をよろしくお願いします。

 その日、オークスウッド国立軍施設は酷く混乱していた。

 最初の一報は、久しぶりの休暇で彼氏とのデートを翌日に控えた一人のオペレーターからだった。


「……っ! 東門二十キロのセンサーに魔獣反応を感知! この反応は……! 城砦亀シェルタートルです!」

「すぐに迎撃に当たらせろ!」


 オペレーターの声を聞いた司令官がすぐさま部下に命令を出し、施設は警戒態勢へ入ると同時に正面のモニタに巨大な亀の姿が大写しになる。

 そこへ。


「待って下さい! 東門センサーがさらに反応を複数検知しました!」


 オペレーターの悲鳴じみた声に司令官がモニタを振り返ると、城砦亀の影からさらに数体の魔獣が姿を現したところだった。


城砦亀シェルタートルだけでも厄介だというのに……、紅の獅子(ホット・レグルス)巨大カマキリ(ギガマンティス)、それに暴食ウサギ(カチーナ)まで登場とは……」


 モニタに映し出された紅色の獅子に巨大なカマキリ、そして真っ赤な目と長い耳に鋭い牙、全身を覆う白い毛の巨大なウサギを見て呻くような声を出す司令官だったが、すぐに呆けている場合ではないと何度か頭を振って我に返り、周りに指示を出す。


「全迎撃部隊に通達! 非番の小隊はいつでも出撃できるように待機! 当番の小隊はすぐに東門から出撃! 迎撃に当たれ!」


 司令官の声が響き、施設が俄かに騒がしくなる中、今度は別のオペレーターから悲鳴が上がった。


「そんなっ!!」

「どうした!?」


 すぐさま振り返った司令官は、直後に告げられた報告に思わず喉を鳴らした。


「それが……、北門の二十キロ地点のセンサーでも魔獣を感知しました!」

「なんだと……!? 誤作動じゃないのか!?」

「違います、確かに魔獣の反応です! この反応は女王機蜂クイーンホーネット樹木猿ウッドエイプ! モニタに出します!」


 数瞬後、東門の映像の横に現れた画面には、確かに堅い装甲を背負った女王蜂と、全身が堅い樹皮に覆われた猿の姿が映し出されていた。

 そして事態はさらに最悪な方向へと進んでいく。


「西門でも魔獣を探知! こちらは巨大サソリ(スコーピオン)が三体です!」

「南門のセンサーも魔獣を探知! 鎧砂ミミズ(クロス・ワーム)です!」


 次々とモニタに表示される魔獣たちの姿に、司令官もうめき声を上げる。


「一体何の冗談だ……? 東西南北全方位から魔獣の同時進行だと……!?」


 と、そこへ、司令官のそばに控えていた副官から声が掛けられる。


「どうしますか、司令官? 東門に二個小隊を当たらせるとして……、待機中の部隊も出撃させるとしても……対応し切れませんが……?」


 副官の言葉に、司令官の頭が目まぐるしく回る。


 東門は単体でも厄介な城砦亀に加え、さらに三対の魔獣が、恐らく城砦亀の速度に合わせてだろう、ゆっくりとした足取りで歩を進めてきている。この調子で行けば、東門に到達するのは四方向の中でも一番遅い。

 しかし、城砦亀の背負う巨大な砲塔の射程は長大で、放っておいたら砲撃で防御壁を破壊されるだろう。ゆえに、城砦亀の射程に入る前には倒しておきたい。

 だが、それには最低でも熟練のパイロットが操る対魔獣殲滅兵器(ABER)四機編成のチーム(小隊)が二つは必要になってくる。

 現在、隣国への行商組合キャラバン護衛任務についている小隊を除けば、四つの小隊の半分の戦力が割かれることになり、残りの門の迎撃に一つずつの小隊を当てたとしても、一つ分足りない。

 しかも、それぞれの方角から進行してきている魔獣たちは、本来ならば複数の小隊で迎撃に当たるべき相手だ。


「迎撃システムでの足止めは?」


 そばにいる副官に問い合わせてみるが、彼女の反応は芳しくない。


「恐らくあまり効果が無いでしょうね……。どれも強力な防御機構を持った魔獣ばかりですし……。唯一、北門なら効果は見込めますが……」

「女王機蜂がいる以上、システムを破壊されて終わり、か……」


 こくりと頷く副官に深いため息を漏らす。


行商組合キャラバンの護衛に当たらせているチームを呼び戻すことは?」

「行程が順調ならば、道のりの半分はすでに過ぎています。今から呼び戻したところで間に合いません……」

「そうか…………」


 行商組合キャラバンの護衛に出ているチームですら間に合わないのだから、他国からの救援など期待するだけ無駄だろう。

 そうなると、使えるのは自国の戦力のみ。


 ――できればこの手段だけは使いたくなかったのだが……


 心の内でそう呟いた司令官は、苦渋の決断を下すことにした。


「すまないが、オークスウッド国立軍学校へ繋いでくれ……」

「はっ!」


 見事な敬礼と共に、オペレーターが忙しなくキーを操作して、すぐさま通信を繋げる。


「学園長……、大変申し訳ないのですが…………」


 搾り出すように紡がれた司令官の言葉に、画面の向こうで軍学校の学園長が深々とため息をついた。


『そんな事態になってしまった以上、仕方ありませんね……』

「恩に着ます……」


 深く下げられた司令官の頭に、学園長もまた、目礼で返した。




◆◇◆




 いつも通りに勉学に勤しんでいた軍学校の学生たちは、教壇から慌てたように「各自、とりあえず自習してください!」とだけ告げて教室を飛び出していった教師をぽかんと見送り、ついで騒がしくなる。


 それまで開いていた教科書を仕舞いこむや、友人たちと遊び始めるものと、教師に言われたとおり、真面目に勉強をするものに分かれる中、怪訝そうな顔でアリシアがチームメイトに話しかけた。


「どうしたんやろな? 急に……」

「あんな、泡食って飛び出してく教師(あの人)は初めて見たぜ……」


 すでに教科書を仕舞いこんだアッシュが答え、湊も続く。


「なんだかただ事じゃなさそうだね……」

「もしかしたら、さっきの警報が関係してるかも、です」


 ユーリの言う通り、教師が飛び出していく少し前に、オークスウッド全体に魔獣接近を知らせる警報が響き渡り、ついで防御壁が競りあがっていくのが見えた。


「いつも通りの警報だったら、俺らはただ授業を中止してシェルターに行くだけだけど……」

「だけどその場合、先生から避難指示が出るよね……」

「せやな、ミナトの言う通りやわ……」

「でも、今回はなぜか「自習」という指示だった、です」


 湊たちが引っかかっているのが、教師のその指示だった。


 もちろん、今までにも授業中に魔獣接近警報がなったことは何度もある。

 が、その場合、教師は冷静に「すぐにシェルターへ移動」と告げるのがいつものパターンだった。

 しかし今回は、何度もいうように教師からの指示は「自習」。

 湊たちでなくとも、首を傾げるだろう。


「まさか、国全体を使った訓練ドッキリ……、とかじゃないよな? ほら、こういう場合に俺ら生徒たちがどう行動するかを試す、的な……」

「それは流石にありえへんやろ……。そんなアホみたいなこと、国議会が許すわけあらへんやん……」


 アッシュが出した意見を、アリシアがあっさりと否定し、その意見を出した当の本人も「だよな」とあっさりと引き下がる。


「ミナト先輩。リリア先輩からは何も聞いてない、です?」


 ユーリの問いかけに、湊はゆっくりと首を横に振った。


「今日は元々、学校こっちの授業はないし、あっちの仕事も非番だったみたいだから、たまにはゆっくりと街へ遊びに出かけるとは言ってたけど……」

「あ~っ! 俺もリリアたんと買い物いきてぇ!」

「アッシュ先輩、最低、です」

「なんで!?」


 体をくねらせながら叫んだアッシュの向こう脛を、ユーリが思いっきり蹴り上げた。

 そんな、いつも通りの光景を華麗にスルーして、アリシアが真面目な声で続ける。


「いつもの警報やったら先生たちから出てるはずの避難指示もない……、かといって、訓練かといえばそうでもない……、ちゅうことはなんや知らへんけど、この警報が学校にとって想定外のトラブルっちゅうことやな……」

「きっと今頃、職員会議でもやってる、です」


 少しだけ頬を赤らめ、それでいてどこかすっきりした顔で言うユーリに苦笑を向けた直後のことだった。


 教室に取り付けてあるスピーカーから、校内放送前の音がなり、直後に教師の堰を切ったような声が響いた。


『生徒諸君はすぐさまパイロットスーツを着用の上、ABER格納庫前に集合せよ! 繰り返す! 生徒諸君はすぐさまパイロットスーツを着用の上、ABER格納庫前に集合せよ!』


 ぶつっ、と音を立てて途切れた放送に、「一体何が?」と首を傾げる間もなく、先ほど泡を食って飛び出していった教師が教室に飛び込んでくる。


「お前ら! 放送を聴いただろ! すぐにパイロットスーツに着替えて集合だ! 急げ!」


 その剣幕に圧されるように、生徒たちは互いに顔を見合わせた後、一体どうしたのかと問い合わせる間もなく、とりあえず各自のパイロットスーツが納めてある更衣室へと急いだ。


 そうして普段の制服をロッカーに放り込み、全身にぴったりと張り付くようなパイロットスーツに着替えて集合したところで、湊たちは目の前に設えた壇上に上った人物を見て、大いに驚いた。


『皆さん、急にパイロットスーツに着替えて集合と言われて、大変驚いていることでしょう……。しかし、大変申し訳ありませんが、あまり時間がないので質問等を受け付ける余裕はありません……』


 あくまでも丁寧な口調のまま、拡声器越しにしゃべるその人物は、オークスウッド国立軍学校最高責任者の学園長だった。


『実は先ほど、オークスウッド国立軍施設司令官から直々に、軍学校(我々)への出撃要請が出されました』


 途端に騒がしくなる生徒たちを無視して、学園長の話は続く。


『先ほど発令された警報で知っての通り、現在、魔獣がこの国に近づいてきています。普段ならば、軍がすぐに迎撃するので我々は出撃する必要はないのですが、今回は異例といわなければなりません……。なぜなら、現在、この国に接近中の魔獣は東西南北、それぞれの方角から同時に進行してきているのです……。それも、プロの方たちでさえも、複数のチームで迎撃に当たらなければならないような厄介な相手が、です』


 直後、先ほどとは違う動揺が、生徒たちの間を走り抜ける。


『同時に進行してきている以上、少なくとも足止めが必要となりますが、軍にいる迎撃チームだけでは手が足りません……。そこで軍施設司令官から苦渋の決断として、我々への出撃要請が出されました。この要請に対し、我々はそれを受け入れることを先ほどの職員会議で決定しました。よって、大変申し訳ありませんが、これから皆さんには、ABERに乗って、二つのチームに分かれて迎撃ポイントまで出撃してもらいます。司令官の話では、軍のチームが駆けつけるまでの足止めで構わないとのことですので、さほど危険はないでしょう……。それに、出撃可能な教師はあなた方と一緒に出てもらいますし、残る我々も、全力であなた方をサポートすることをお約束します……。本来ならば、まだ学生である皆さんにこんなことをさせたくはないのですが……、この国を護るために……』


 そこで一度言葉を区切り、拡声器を置いて深々と頭を下げる学園長。


「皆さんの力を貸してください。お願いします……」


 本当はこんな「お願い」をしたくはない、生徒たちにこんな危ないことをさせたくない。

 そんな学園長の気持ちが痛いほど伝わってきた湊が、仲間たちに目を向けると、頼れるチームメイトたちはにやりと笑って見せた。


「まぁ、どうせ俺らもそのうちこういう仕事をしていくわけだしな……」

「せや……。それが少しばかり早ぅなっただけの話や」

「それに、やることもいつもと変わらない、です」

「うん……。そうだね!」


 湊が大きく頷く。

 そして、それは湊のチームだけでなく、生徒たち全員が同じ気持ちらしく、そこかしこから「やってやるぜ!」だとか「足止めなんて生温いし、俺らで倒しちまおうぜ!」だとか、心強い言葉が上がっていた。

 普段は自身の保身を一番に考える、あのリード・ガレナさえも、「ふ、ふん! 軍の無能共にも困ったものだな」と言いながらやる気を見せているほどである。


 そんな生徒たちの反応に、反対意見どころか詰られても仕方がないと覚悟していた学園長の目に涙が滲む。

 そうして、感謝の意を示すように、学園長がもう一度深々と頭を下げたところで、代わりに別の教師が壇上へ上がった。


『君たちの協力、本当に感謝する! が、これは訓練ではない! 実戦だ! 全員、心して掛かるように!』


「はい!」という生徒たちの心強い返事に満足そうに頷き、教師が指示を出す。


『それでは、各自ABERを起動させ、割り当てられた輸送車に搭乗!』


 その指示に、随分と様になってきた敬礼を返し、生徒たちはすぐさまそれぞれの対魔獣殲滅兵器(ABER)の元へと駆けて行った。


 そして、それぞれの機体を起動させてABERごと輸送車に揺られることしばし。

 軍から指示のあった迎撃ポイントに到着した湊たちは、南門から十数キロ離れた地点で突如砂の中から飛び出した、全身を頑強な鎧で覆った巨大なミミズと対峙した。


『相手は鎧砂ミミズ(クロス・ワーム)や! 装甲の上からじゃウチらの攻撃は通用せぇへんから、基本的には装甲の隙間を狙うんがセオリーやな! 狙撃班は奴さんが砂ん中潜らんように牽制を頼むで! それと作戦指示オーダーはあくまでも足止めやさかい、無理は禁物やで!』


 対峙した相手に対して即座に作戦を組み立てたアリシアに返事をし、湊は強く操縦桿を握り締めた。

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