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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第2部 学園生活編
39/91

第29話 リード・ガレナ救出作戦

「くそっ! 何で僕がこんな目に!!」


 目の端に涙を浮かべながら、苛立ちや不安を誤魔化す意味も込めて罵倒を吐き出す。


「僕はちゃんとやっている! なのに追試をやらされて! しかも、魔獣が出た途端にチームの奴ら(馬鹿ども)は逃げやがった!

 僕の言うことも聞かずに! 僕がやれと言ったことは絶対に何が何でもやるのが筋だろうに! とっとと尻尾を巻いて逃げやがって!!」


 それに、と内壁透過モニタ越しに、まるで嬲るようにゆっくりと迫りくる紅色の獅子の姿をした魔獣を睨みつける。


「こいつもこいつだ! どうせなら逃げたあの馬鹿どもを追いかければいいものを! 何で僕を狙うんだ!

 くそっ! こっちに来るんじゃない!!」


 口汚く罵りながら、ハンドレバーのスイッチを思いっきり押しこんで、弾丸を魔獣に向かってばら撒く。

 吐き出された弾丸は一直線に魔獣へ向い、一斉に顔面と思われる場所へ襲い掛かり、着弾した端から炸裂してその視界を奪う。


「はぁ……はぁ……」


 荒い息を吐きながらも、リード・ガレナが機体の態勢を立て直しながら、正面を見据えるその先で、ゆっくりと魔獣の顔を覆っていた煙が晴れていく。

 やがて、完全に視界を取り戻した紅の獅子は、傷一つ付いていないその顔でガレナ少年のABERを見つける。

 その顔が、まるでにたりと哂っているように見えて、リード・ガレナの怒りをさらに助長する。


「くそっ! お前もか! お前も僕を笑うのか!! 何なんだよ! 魔獣のくせに! 僕を笑うな! 僕を見下すな!!」


 顔を真っ赤にしながら叫び、でたらめに手元のスイッチを押す。

 その度に、マルチミサイルが、光の弾丸が、一斉に魔獣へ向って飛んでいく。

 碌に照準を合わせていなかったのにも関わらず、自動的に補正された照準のおかげで、そのすべてが魔獣へと向かい、しかしあまりダメージを与えた様子はなく、紅の獅子は一歩、また一歩と、ゆっくりとその距離を詰めてくる。


 世界中に生息する魔獣の中ではかなり小さい部類に入るとはいえ、それでも対魔獣殲滅兵器(ABER)よりも巨大な体躯が威圧するようにゆっくりと迫ってくる様は、かなり恐怖心を煽られる。

 事実、ABER越しとはいえ、直接対峙しているリード・ガレナは、その姿に圧倒されて恐慌状態に陥り、狭い操縦席コクピットの中で喚き散らしながら、ミサイルの発射ボタンを押し、ハンドレバーのトリガーを引く。

 本来ならば、入力された信号に従って、ミサイルや銃弾が飛んでいくはずなのだが、あいにくついさっきでたらめにスイッチを押したときに、残っていたミサイルも銃弾も全てを撃ちつくしてしまっていたため、モニタにそれぞれの武装の絵が残弾ゼロを示す文字とともに、赤く点滅を繰り返すのみだった。


「くそっ! なんだよ! ふざけんなよ!」


 ついには自分の愛機すらも罵倒しながらもう一度スイッチを押すが、やはり結果は同じ。そして、その間にもゆっくりと紅の獅子が近づいてきている。

 恐らくそう遠くない内に、あの鋭い爪と、ギラリと光る牙で蹂躙されるだろう。

 思わずそんな未来を想像してしまったガレナは、目の端に涙を浮かべる。


「そんなことはあり得ない! 僕はリード・ガレナだ! ガレナ家の長男で、ドレアス・オニキス伯爵の甥だ!

 こんなところで死んでいい人間じゃないし、叔父上との約束のためにも死ぬわけにはいかないんだ!!」


 強がりを吐き出し、内壁透過モニタに大きく映し出された魔獣を睨みつける。


 それに対する紅の獅子は、もはやガレナには反撃の手段が残されていないことが分かっているのだろう。あえてゆっくりと歩を進め、ガレナのABERの少し手前で立ち止まると、まるで見せつけるかのように殊更ゆっくりと腕を振り上げた。

 太陽の光を反射して、ギラリと光る爪を前に、ガレナは思わず目を瞑る。


「っ!?」


 そうして、少年がそのすぐあとに来るであろう衝撃と痛みに備え、魔獣がその強靭な腕を振り下そうとした時だった。


 突如、空気を切り裂く音を立てながら一条の光が飛来し、獅子の爪に直撃。魔獣の腕を弾いた。

 いつまでもやってこない衝撃にガレナが恐る恐る目を開けると、紅の獅子はガレナではなく、別の方向を睨み付けていた。


「なんだ……?」


 不思議に思うガレナに通信が繋げられる。


『間に合った!』

『割とぎりぎりだったけどな!』

『やっぱり軍の救援は間に合うてへんか……』

『もうちょっと遅かったらやばかった、です』


 通信モニタに映し出されたのは、ミナト・イスルギ、アッシュ・ハーライト、アリシア・ターコイズ、ユーラチカ・アゲートの四人だった。


「お前ら……どうして……?」


 思わぬ人物たちの登場に、呆然としながら呟くガレナと魔獣の間に機体を割り込ませながら湊が答える。


『リリアからあんたのチームメイトたちが、あんたを置いて戻ってきたことを聞いた。それでリリアは一人ででも出撃しようとしてたから、僕らが代わりに来たんだ』

『正直に言えば、ウチらはあんたが好きやあらへん。せやけど、助けられるクラスメイトを助けんと放っておいて死んでもうたら、寝覚めが悪いんよ』

『ま、お前がここで死んだらリリアたんが悲しむからな……。俺は彼女のそんな顔を見たくないから来たってだけだ……』

『私もアッシュ先輩と同じ、です。別にあなたがどうなっても私は関係ないですが、ガーネット先生の悲しむ顔は見たくない、です』

「お前ら! 何なんだよ!? 僕を助けに来たのか馬鹿にしに来たのかどっちだよ!?」


 散々な言われようにツッコみつつも、ガレナはどこかほっとしたような顔を見せる。


『ま、何にしてもまずはここを切り抜けてからや! 相手は紅の獅子(ホット・レグルス)や! 弱い言うても油断できへんで!』

 了解! と力強く返事をする湊たちに、ガレナが慌てたように口を挟む。


「ちょっと待て! 僕に指示をするんじゃ……」

『おっと……、忘れるとこやった。あんたも生き残りたいんやったら、ウチらの作戦に従ってもらうで?

 それともウチらの作戦に従うほどの度胸もあらへんか? まぁ、そない器小さいんやったら、無理もないやろ……』

「んなっ!? 貴様…………!!」


 アリシアのあからさまな挑発に、ガレナは顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせた後、「ふん」と鼻を鳴らした。


「そ……そこまで言うのならいいだろう……。貴様の言う作戦とやらを聞いてやる! ただし、勘違いするなよ? これはあくまでもこの場を切り抜けるための一時的な処置であって、決して貴様らに従属するという意味ではない!」

『ツンデレだね』

『ツンデレだな』

『ツンデレやん』

『ツンデレ、です』

「う、うるさい!!」


 ツッコみながら、ガレナはしっかりとハンドレバーを握りしめながら前を見据える。

 しかし、体の震えがいつの間にか止まり、心を支配していた恐怖心が薄れていたことには気付くことはなかった。




◆◇◆




「ターコイズ訓練生より通信が来ました! どうやら、間に合ったようです!」

「そうですか……。よかったです……」


 軍学校内にある、訓練用のABERの動向がチェックできる管制室でその報告を聞いたリリアは、ほっと胸を撫で下ろした。


「ただ、現場には魔獣の反応が検出されています。紅の獅子(ホット・レグルス)なので、女王機蜂クイーンホーネットの亜種との戦闘経験を持つ彼らにとっては、さほど大きな脅威になるとは思えませんが……」

「油断はできません。確かに紅の獅子(ホット・レグルス)女王機蜂クイーンホーネットよりも脅威度は低いですが、イスルギ訓練生たちは紅の獅子(ホット・レグルス)との戦闘経験はありませんし、そばにはエナジーパックの残量も心もとないガレナ訓練生がいますから……。彼らに絶対に油断しないように伝えてください

 軍の救援部隊はどうなっていますか?」

「それが……まだ出撃できていないようです」

「では、もう一度……いえ、私から直接長官にお話します」


 手元の携帯端末を取り出し、リリアの軍人としての上司である長官に通話を繋げる。


「…………どうも、お久しぶりです」

『ガーネット中尉か……。最近は軍学校そちらに掛かりきりで、あまりこっちに顔を出してないから、君の部下たちも寂しがっておるよ?』

「申し訳ありません、長官。最近は試験も近くて何かと教職こっちを優先しなければならなかったので……」

『構わんさ……。それよりも本題に入ろうか? お互い、あまり長話をしている場合ではないだろう?』

「ええ、そうですね。すでにこちらからは救援要請が出されていますが、状況はどうなっていますか?」

『すでにブリーフィングは済ませて、今は出撃待機中だ。そうだな……、あと五分もあれば出撃ができると思うが……』

「もう少し何とかなりませんか? 一応、こちらからすでに救援が駆けつけましたが、彼らもまた学生ですし……」

『ふむ…………、未来の兵士たちをここで失うわけにもいかない、か……。分かった。全力で急がせよう……。そうだな……、こちらの救援が駆けつけるまで、五分。それまでどうにか持ちこたえて欲しい……』

「ありがとうございます……」

『なに……、構わんよ。他ならぬ君の頼みでもあるしな……』


 最後におどけるように言った長官にもう一度頭を下げてから通信を切ったリリアは、すぐさま声を張り上げた。


「軍の救援が駆けつけるまで五分です! それまでイスルギ訓練生たちが耐えられるよう、こちらも全力でバックアップします!」


 了解、と返してすぐさま作業に掛かるオペレーターたちの横で、モニタ一杯に映し出された湊たちに目を向ける。


「どうか……無茶をしないでくださいね……」


 祈るようなその言葉は、けれど湊たちには届かずに周りの喧騒に飲み込まれた。





◆◇◆





『皆! 聞いた通りや! 軍の救援が来るまで五分! それまで全員で全力で持ちこたえるで!』

『五分か……、それなら何とか……』


 それを聞いて胸を撫で下ろしたガレナは、しかし次の瞬間、湊たちの口から飛び出した言葉に思わず目をむいた。


『……というのが、学校からの指示やけど……、甘すぎる思わん?』

『まぁ、五分間何もするなって言われてるようなもんだからな……。正直に言って、性にあわねぇな……』

『五分も待ってたら退屈、です』

「大人しくあいつから逃げ回れとは言われてないし……。別にあいつを倒してしまっても構わないでしょ……」

『はぁっ!? ちょっと待てお前ら!! せっかく五分後には軍の救援が来てくれるんだろう!? なんで戦う気なんだよ!? せっかく軍が助けに来てくれるというのに、正気か!?』


 正気を疑うガレナに、アリシアがため息をつく。


『あんなぁ……、ウチらと違うて、自分は紫獣石ビスダイトのエネルギーパックの残量が心許ないんとちゃうん? そんな自分を抱えたまま五分もあいつから逃げ切れると思うてるん?』

『隠れたりすればいいだろ!?』

『あいつはすでにウチらの攻撃を喰らって怒ってるんよ? そんなやつがウチらを黙って見逃してくれる思うてるん?』

『それはお前らが攻撃したからだろ!?』

「自分はミサイルとか全部撃ち尽くしておいてそれはないでしょ……。それに、アッシュが狙撃を当てなかったら、今頃お前はあいつに殺されてたんだよ?」

『ぐっ……それは……』


 横から口を挟んだ湊に、ガレナは口を噤む。


『ともかく、や。どちらにしても撤退戦や遅延戦闘みたいな消耗戦は、自分がおる以上推奨できへん。それやったら、短期決戦で一気にケリつけたほうがましや。それとも、自分は魔獣が怖くて戦えへんとでも言うんか? 泣き虫ガレナ君?』

『ぐっ……、そ……そんなわけないだろ!? というか誰が泣き虫だ!』

『ま、安心してええよ? ちゃんと勝算あって言うてるんよ。言うても、自分の協力が必要やけど……。むしろ、自分の協力がなければ勝てへんけど……』

『…………ふ、ふん! いいだろう。そこまで言うのならその作戦とやら、聞いてやる』


 見事な話術に嵌められたガレナに苦笑しながらも、アリシアは全員へ手早く作戦を説明していく。

 そして。


『そしたら作戦開始や!』


 その言葉を合図に、全員が一斉に動く。


 ユーリと湊が銃弾を魔獣にばら撒いて気を逸らしている間に、アリシアがガレナに標準装備の大型ナイフを手渡し、アッシュは狙撃位置に移動する。

 当然、紅の獅子(ホット・レグルス)も、黙ってやられるわけではなく、銃弾を物ともせずに湊たちへ接近し、その鋭い爪を振りかざす。

 それを湊がハルバートで受け止めている間に、アッシュの狙撃が魔獣の横っ腹に叩き込まれ、バランスを崩したところへ、さらにユーリが湊が受け止めていた腕を切り飛ばし、同時にアリシアがミサイルを放つ。

 それを魔獣が咄嗟にその頑丈な鬣で防いだ瞬間。


『うわぁあぁぁぁあああああああああぁああっ!!』


 叫びながらガレナが大型ナイフを獅子の目に突き立てた。

 深々と眼球を抉られた魔獣が、苦悶の叫びを上げながら激しく頭を振り回してガレナを振り落とそうとする。

 それを、ガレナが歯を食いしばって必死に耐えているところへ、再び横っ腹にアッシュの狙撃と湊のミサイルが直撃し、思いっきりバランスを崩した魔獣は、どうと地面に倒れこむ。


『今や!!』


 アリシアが合図を出した直後、湊がハルバートを叩きつけ、同時にナイフを引き抜いたガレナが、魔獣の急所へ思いっきり突き立てた。

 しかし、急所への一撃が浅かったのか、魔獣がまだ暴れようとする。

 そこへ。


『しぶとい、です!』


 止めとばかりに、ユーリが刃を獅子の頭に突き立てた直後、激しい血飛沫と断末魔を上げ、紅の獅子は力尽きた。


「…………はぁ……はぁ……………、勝っ…………た…………」


 戦闘終了と同時にエネルギーを使いきって真っ暗になったABERの操縦席の中で呟いたガレナは、不思議な充足感を覚えていた。

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