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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第2部 学園生活編
34/91

第24話 女王機蜂

この小説のヒロイン、「リリア・ガーネット」さんの絵を天心さんと言う方からいただきました!

活動報告に載せてありますので、ぜひご覧ください!

 湊たちの前に現れた黒い甲冑を着込んだ巨大な蜂の魔獣――女王機蜂クイーンホーネットは、どうやら完全に湊たちを獲物と定めたらしく、赤い複眼を四人の対魔獣殲滅兵器(ABER)に向け、いつでも攻撃に移れるようにしながらその場に滞空ホバリングを始める。


『まさか、女王機蜂クイーンホーネットやったとは……。やっかいなのが来よったで……』


 思わずごくり、と喉を鳴らすアリシア。


『授業では、お尻の巨大な針からビームを放つといってた、です』

『たぶん、さっきの一撃がそれなんだろうな……』

「しかも、体を覆うあの装甲はかなり硬くて、マルチミサイルを直撃させてもびくともしない……だっけ?」

『さらに加えるなら、攻撃はビームだけやなくて、あの顎での噛み付きはABERの装甲も砕くんやっけ……。反則やん……』


 授業で習ったことを思い出しながら、改めて目の前の敵の危険さを認識する。

 

『それでどないする? ウチらだけでこいつに勝つ言うんはかなり無理があると思う……。せやけど、逃げるんも難しいやろな……。あのデカイ複眼ですぐに見つかるで?』


 まるで威圧するかのように、じりじりと迫ってくる女王機蜂クイーンホーネットに合わせるように、少しずつ後ろへ下がりながら問いかけてくるアリシア。


「防御優先で救援が駆けつけてくれるまで耐えるのは?」

『先生たちに連絡ができねぇんだ。それができたら苦労はしねぇだろ……』

『ちなみに、他のチームに救援を求めるんも無理やと思うで? さっき、レーダーで確認したんやけど、演習場ここに入ってきた魔獣は他にもおって、しかも最悪なことにそれぞれのチームのとこに向かってたんや……』

『そうなると、他の魔獣とあいつをぶつけて喧嘩してる間に逃げ出すという手も使えない、です』


 強力な魔獣相手に救援を呼ぶ、逃げるという選択肢を選べないこの状況に、けれど湊たちは誰も絶望的な顔をすることはなかった。


『くっくくく……。なんだ、だったら最初からやることは決まってるじゃねぇか』

「そうだね……。「どないする?」なんて聞かなくてもわかってるじゃん……」

『アリシア先輩にしては、珍しいミス、です』

『すまんな、みんな……。よっしゃ! ほんならやることは一つ! あのでっかい蜂を倒すで!』

「分かった!」

『っしゃあっ!』

『了解、です!』


 気合いを入れるように強く返事をして、しっかりとハンドレバーを握りしめる。

 決して油断も慢心もできない、それどころか全力で掛かっても倒せるかどうかも分からない相手だが、不思議と立ち向かう恐怖は湧いてこなかった。


 口で言うには恥ずかしいが、頼れる仲間たちがいるからかもしれない。

 そんなことを考えていた湊の耳に、アリシアからの指示が飛び込んできた。


『まずは距離を取るで! あの顎に噛み付かれたら敵わんし、遠いほうが攻撃も避けやすい! 全員、デカ蜂の手前の地面に狙いをつけるんや! 爆風で土煙を巻き上げて相手の視界を塞ぐで!』


 了解、と鋭く返した湊はすぐさま手元のスイッチを操作すると、ミサイルの照準を魔獣の手前の地面に設定し、いつでも発射できるようにする。

 そのままモニタ越しに仲間の機体に目を向ければ、ユーリとアリシアは湊と同じようにミサイルを、そしてアッシュは狙撃銃を構えているところだった。


 すると、攻撃の気配を察知したのか、女王蜂が湊たちの攻撃に備えて身構える。そして。


『今や!!』


 アリシアが合図を出した瞬間、三機のABERのバックパックから発射されたミサイルが、アッシュの銃から放たれた一筋の光が、狙い違わず女王機蜂の手前の地面を抉り、爆風によって膨大な土煙を巻き上げる。

 同時に、すぐさまABERを全力で後退させる。

 このまま一気に距離を離す、誰もがそう思った矢先だった。


 女王機蜂が、四枚の透明な翅を力強く羽ばたかせる。

 ABERよりもなお巨大な体を空中に浮かばせ、それどころか滞空や高速移動まで可能な、その強靭な翅から生み出された風が、湊たちとの間に漂っていた土煙を、一瞬で吹き散らした。


『なっ……!?』


 驚きで思わず動きが止まってしまったアリシアの機体を見て、巨大な蜂が鋭い顎を開いて「ギチリ」と嗤い、強靭な翅を再び力強く、今度は己を弾丸の如く押し出すために羽ばたかせた。

 巨体からは想像できない程の速度を持って、僅かな間に彼我の距離を詰めた黒い甲冑を着込んだ巨大な蜂は、アリシアの寸前で急停止をすると同時に、六本の節くれ立った足を広げてアリシアの機体を掴もうとする。


「アリシア!!」


 咄嗟に湊が持っていたハルバートで巨大蜂の横っぱらを殴りつける。

 まるで鉄に叩きつけたかのような感触と音に思わず顔をしかめながらも、それでも魔獣の体勢を崩すことに成功して、どうにかアリシアがその場を離脱できたことに胸をなでおろした湊を、今度は獲物と定めた女王機蜂クイーンホーネットが態勢を立て直して、その強靭な顎を開いて迫る。


「嘘だろっ!?」


 叫んだ直後、湊のABERの肩を掠めるように飛んできた光の筋が、女王機蜂の鋭い顎に当たって弾き飛ばし、さらにそれに追い打ちをかけるように横からユーリが、銃を連射モードにして弾をばら撒いた。

 これには、流石の女王機蜂も堪ったものではなかったらしく、嫌がるように鳴き声をあげ、湊から急いで距離を開けた。


「アッシュ、ユーリ。ごめん、助かった……」

『……ったく、油断してんじゃねぇよ。この貸しはそのうちに返してもらうぜ?』

『せやなぁ……。ウチを助けてくれた後で油断せんかったら、ウチもミナトをかっこええ思って、惚れてたかもしれんなぁ……』

『でも、あそこで油断するのがミナト先輩らしい、です』


 自分の失敗を叱責するのではなく、からかうところに仲間たちの気遣いを感じて、思わず顔が綻ぶ。


『おいおい、一応叱られてるのにニヤケてんじゃねぇよ、気持ち悪ぃな!』

『そうやで。気持ち悪いんはエロッシュだけで十分や。ミナトはチームの常識人でいてくれな困るで?』

『俺が気持ち悪いって!?』

『今まで気付いてなかったことに、むしろ驚愕する、です』

『そんなこと言うなら、具体的に俺のどこが気持ち悪いか言ってみろよ!?』

「……行動?」

『一日一善とかいうキショい行動やな』

『存在すべて、です』

『ミナトまで俺を裏切るか!? あとユーリ! てめぇはさらっと俺の存在全てを否定してんじゃねぇ!』


 アッシュが全力でツッコみ、弛緩しかけた空気を、アリシアが手を叩いて引き締める。


『はいはい。アッシュの言い訳は後で聞いたるから、今は目の前の的に集中せぇや』

『あんたが始めたんですよねぇ!?』

『空気が読めん男は嫌われるだけやから、とりあえずアッシュも黙って聞きぃや』


 ぐっ、と言葉を詰まらせるアッシュ。


『ほな、作戦を説明するで。まず、女王機蜂あいつは授業で聞いた通りの硬さと速度を持っとるし、ほかんとこの特徴も聞いてた通りやから、ここは授業で習ったセオリー通りにいくで!

 まずはあいつの翅を壊して地面にたたき落とす。そっから、唯一装甲で守られとらん頭を狙って総攻撃や!』

『でもよ……、その肝心の翅をどうやって壊すんだよ? あんだけ早く動かれたら、俺の狙撃はもちろんだし、お前らの攻撃だって当たらねぇだろ?』

「マルチミサイルじゃ精密な狙いは付けられないし、かといって、あの動き相手に直接攻撃は難しいかな……」

『機動力の差が戦力の決定的な差になってる、です』


 翅を破壊するためのいい作戦が思いつかず、湊たちが頭を悩ませている中、アリシアが「ちっちっち」と指を振ってみせる。


『甘いで、三人とも……。もう忘れたんか? ウチらは一度、あいつに狙撃を当ててるんやで?』


 言われて思い返してみれば、確かに湊が女王機蜂に噛み付かれそうになったとき、アッシュの狙撃が当たっていた。


「でも、何で当たったんだろ……」

『それは俺様の腕前のおかげだろ?』

『まぁ、確かに狙撃に関してはアッシュを信用してもええ。せやけど、当てられたんはそれだけやない。ええか? あいつは知覚外からの攻撃を避けられへんのや』


 なるほど、と納得する男二人と違って、ユーリが「だけど」と反論する。


『それはおかしな話、です。女王機蜂クイーンホーネットの目は複眼、です。そして複眼はほぼ全周囲を見渡すことができる優れ物なので、あいつに死角があるとは思えない、です』

『ええところに気づいたな。確かに複眼にはそういう効果がある。せやけど、障害物を見透かすことはできんやろ?

 せやから、最初にウチらが土煙を巻き上げたとき、あのデカ蜂は風を起こして煙を払ったんとちゃう?』

「障害物っていっても……、どこにそんなものが……?」


 まるで湊たちの作戦が決まるまで待ってやると言わんばかりに、悠々と翅を羽ばたかせてその場に留まる女王機蜂を警戒しながら周囲を見回すが、あるのは森を形作る樹ばかりで、ABERが隠れられそうなものはない。


『そこらへんの樹じゃABERは隠れられねぇし、女王機蜂あいつの砲撃で樹ごとなぎ払われるのがオチだぜ?』


 アッシュのもっともな言葉に、しかしアリシアはにやりと笑う。


『何言うてん? 立派な障害物があるやろ? …………ウチら(・・・)や!』


 途端、驚愕の余りに言葉を失う湊。


『ほんなら作戦を説明するで? まずはウチらであいつを牽制しながら、射線が通るように周りの樹を片づける。まぁ、マルチミサイルを適当にぶっぱなせばええやろ。んで、その間にアッシュは狙撃ポイントに移動して待機。もちろん、残った樹に隠れるんを忘れんといてや?

 準備ができたら、アッシュと女王機蜂クイーンホーネットの間にウチらが割り込んで、射線を隠す。そんで、アッシュの狙撃と同時にウチらが道を開ければ、あいつに攻撃が当たるっちゅわけや

 もしその狙撃で翅を破壊できひんでも、動きは止まるはずやから、その時は至近距離にいるウチらで翅を壊す』


 どや? というアリシアの問いに、直接身の危険がある湊とユーリはもちろん、狙撃を担当するアッシュも答えることはできない。

 しばらくの沈黙のあと、アッシュが迷うように口を開いた。


『…………俺はできねぇ。要はそれは仲間を撃つってことだろ? 俺は同士討ち(フレンドリーファイア)なんてやりたくねぇ!』


 下手をしたら仲間を殺しかねない作戦に異を唱えるアッシュ。

 だが、アリシアにはそれを咎めることはできない。誰であろうと、好き好んで仲間を殺すようなまねなどしたくないのだから。

 我ながら無茶な作戦を考えたものだ、と苦笑しながら、すぐに他の作戦を考えようとした、そのときだった。


「やろう!」

『やる、です!』


 異世界から来た少年と、年下の天才と呼ばれた少女が力強く言い放った。


『お前ら……っ!?』

「やるべきだと思うよ」


「正気か!?」と通信モニタ越しに怒鳴ろうとしたアッシュの機先を制して、湊が強く言う。


「僕らの実力より遥かに上の相手なんだ……。多少の無茶をしない限り、あいつを倒すことはできない。今はなぜか攻撃してこないけど、この状態がいつまでも続くとは限らないから、今はゆっくりと作戦を考えてる場合じゃない……。そもそも、今の僕らに、アリシアが考えた作戦以上のものは提案することはできないんだ……」


 それに、と続ける。


「僕はアッシュの狙撃の腕を信じてるからね……」

『私も、です。アッシュ先輩の腕を信じているからこそ、アリシア先輩もこんな作戦を立てた、です』

『せやな……。ウチかて、アッシュを信じとるんよ? まぁ、アッシュが自信ない言うんやったら、話は別やけどな?』

『お前ら…………』


 仲間たちにこれほど信頼されているのに、今更、無理だとか嫌だとか言えるような性格を、アッシュはしていなかった。


『へっ! 分かったよ! やってやる!』


 強くレバーを握り締めるアッシュに微笑み、アリシアは素早く説明する。


『ほんなら、アッシュはすぐに狙撃ポイントを洗い出して、マップにマーキングするんや。ウチらじゃ狙撃ポイントなんて分からんからな。ただし、こっちからの注文として、ウチらとの高低差があまりない場所で頼むわ。そうやないと、あの複眼にアッシュの位置を発見されるからな!』


 任せとけ! と力強い返事と共に、すぐさま周辺の地形情報を呼び出すアッシュ。


『ミナトとユーリは、アッシュからマーカーが送られてきたら、注意を完全にこっちに向けさせるんや。後はその場所から女王機蜂あいつが動かんようにせなあかんから、波状攻撃で敵を縫いとめるで。ついでに、辺りの樹をどけることも忘れたらあかんで? その後は、ウチが出した合図でアッシュが狙撃して、同時にウチらはその場から退避。これでいけるはずや。何か質問は?』


 最後の問いかけに、しかし三人は首を振り、同時にアッシュから狙撃ポイントがマーキングされた地図が送られてくる。


『どうやら、準備はええみたいやな! ほんなら作戦開始や!』


 その言葉を合図に、湊とアリシア、ユーリがマルチミサイルを一斉に発射し、同時にアッシュが狙撃銃を乱射しながら、一気に後ろへと下がっていく。

 そうして、大量のミサイルと光の弾丸が真っ直ぐに女王機蜂へ向かい、直撃するかと思われた瞬間のことだった。


――ギシャァァアァアアッ!


 突然、女王機蜂が耳障りな咆哮をあげたかと思うと、針の先からビームを発射し、同時に女王機蜂へ向けられたミサイルや光の弾が爆発して、大量の煙と爆風を撒き散らす。


 一体何が、と思いながらも油断なくモニタを見据える湊の目の前で、恐らく視界が遮られることを嫌ったのだろう、蜂の魔獣が再びその翅を力強く羽ばたかせ、煙を払う。

 そうして、煙の向こうに現れた魔獣の姿に、湊たちは思わず絶句した。


 頭以外を固く覆っていた黒い甲冑が、女王機蜂の体を離れ、まるでそれぞれに意思があるかのように女王機蜂の周りを飛び回っている。

 当然、その硬さは健在で、周りにある木々を触れた側から薙ぎ倒している。


『嘘……やろ……? まさか……亜種……やった……んか?』


 アリシアの口からこぼれた一言に、湊がごくり、と喉を鳴らした。

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