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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第2部 学園生活編
30/91

第20話 告白

 すっきりと晴れた青い空に、ところどころぽっかりと浮かぶ白い雲。

 いよいよ開催されるオークスウッド国立軍学校の学園祭にとっては、絶好の天気ともいえるこの日。

 寮の自室で着替えを済ませた湊は、鏡の前に映る自分の顔の、学園祭にふさわしくない暗く沈んだような表情に思わず苦笑した。


「……こんな顔してちゃ駄目だ……」


 鏡に向って呟いた湊は大きく息を吸うと、強く頬を叩いた。

 その瞬間、乾いた音が部屋の中に響く。


「っ~~~~!?」


 想定以上の痛みに思わず悶絶した湊がじんわりと熱を持つ頬のまま部屋を出ると、すでに共有スペースのリビングにいた親友のアッシュ・ハーライトが出迎えてくれた。


「よう、相棒……ってどうした、頬を赤く腫らして……?」

「ああ……ちょっと気合を入れようかなって思ってさ……」

「なんだ。てっきり俺は相棒が特殊な趣味に目覚めたのかと思ったぜ?」

「そんなわけないだろ……って、なんだか懐かしい気がするな……」

「……? 何が?」

「いや、確か最初のころにも同じようなやり取りをしたような記憶があったから……」

「あぁ……。そういえばそんなこともあったっけ……」

「あの頃のアッシュは女の子にモテようとして、「趣味は一日一善」とかいってたよね。結果は出なかったけど……」

「やかましい!」


 そのまま、会話を続けながら食堂に向かった二人は、すでに食事を終えて優雅にコーヒーを飲むアリシア・ターコイズと、その横で大量の皿を積み重ねているユーラチカ・アゲートが座る席に同席する。


「なんや二人して、ずいぶんとお寝坊さんやな……って、ミナト? どないしたん、その頬?」

「あぐっ……両方に真っ赤な紅葉、です。むぐむぐ……」

「ああ、これは……」


 部屋でアッシュにしたのと同じ説明を繰り返そうとした湊の前に、アッシュが悪戯っぽい笑みを浮かべながら言葉を割り込ませた。


「今朝早くにミナトが女湯を覗こうとして、朝風呂してた女子に見つかったんだ」

「アッシュ!?」


 驚く湊に、アッシュが目で訴えてくる。


(日ごろの恨みだ! たまには俺の苦労も思い知れ!)


 にやり、と笑みを浮かべるアッシュだったが、次の瞬間に女子二人から放たれた言葉で、見事にその目論見は崩された。


「そんなわけあらへんやろ? エロッシュじゃあるまいし……」

「エロッシュ先輩。嘘はよくない、です。むぐあぐ……」

「俺の信用ゼロ!?」

「そんなん今更やろ? 信頼と安心のミナトに対して、不信とエロのアッシュやねんから」

「嫌なキャッチフレーズだな!?」

「むぐむぐむごごご……」

「チビっ子はまず喋るか食べるかどっちかにしろよ!?」

「あぐ……むぐ……はむ……」

「チビっ子発言に対するツッコミすら放棄して躊躇なく食べる方を選びやがった!?」

「というかアッシュ、さっきから自分うるさいで? 他の人の迷惑にもなるやろ?」

「誰のせいですかねぇ!?」

「誰のせいかと言われれば、最初にいらないボケを挟んだアッシュ先輩のせい、です」

「ぐぬ……事実なだけに反論できない」

「まぁ、そう言うわけやからしっかり反省するんやで?」

「お前らもな!」


 そう叫んで突っ伏すアッシュ、それを冷ややかな目で見ながらもボケ倒すアリシア、毒を吐きながらも食事を続けるユーリ。

 その、三人の態度があまりにもいつも通りすぎ、湊は思わずくすりと笑いを漏らした。


「お? やっと笑ったか!」

「なんや、やっとかいな?」

「ミナト先輩も鈍い、です」


 三人それぞれの反応に、湊はことりと首をかしげ、やがてその意味に気付いて大きく目を見開いた。


「まさか……みんな……?」

「まぁ、せっかくの学園祭だからな。あんまり暗い顔してたら楽しめないだろ?」

「せやで? アッシュの唐突なボケに合わせるんは、大変やったんやからな?」

「ぶっちゃけアッシュ先輩への罵詈雑言は本音だらけだった、です。あと、このカレーのお変わりを持ってくる、です」

「なんで俺が!?」

「私は別にアッシュ先輩がとは言ってない、です。そう捉えたのなら、それはアッシュ先輩の早とちり、です」

「せやな。確かにユーリは「誰が」とは言っとらへんかったなぁ」

「確かに……。つまりアッシュは少なくともユーリにそう扱われることを望んでいると?」

「うわぁ……。それは流石に引くで、アッシュ……」

「10G支払ってもいいので慎んでお断りする、です」

「そんな願望一切ないからね!? あとチビっ子は嫌いすぎだよ!?」

「むっ!? チビっ子言うな、です!」


 ユーリに思いっきり脛を蹴りあげられたアッシュが悶絶する様子を、湊とアリシアは苦笑とともに見守った。




◆◇◆




『さあ今年もやってまいりました! オークスウッド国立軍学校学園祭の伝統行事! 障害やトラップ、ライバルたちの妨害を乗り越えてゴールを目指す、ABERシミュレーター超障害物レース! 間もなく始まります!』


 学園祭が始まってしばらくした午後のとある時間。

 生徒たちが作った軽食で腹を満たした一般客たちが詰めかけた特設観覧ステージに威勢のいい声が響き渡った。


『ルールは簡単! スタート地点からゴール地点まで、いくつか設置されたチェックポイントを経由しながら目指してもらいます! もちろん、コースの途中には様々な障害物やトラップが仕掛けられていますし、チェックポイントでは先生方から課題が出されるので、それをクリアしなければなりません! さらに、道中でほかの参加者たちへの妨害も認められているため、コース難易度はかなり跳ね上がっています! そして! それらすべての試練を乗り越えて見事優勝したチームには、学園長から特別褒賞として金一封が贈られるとのことです!』


 実況をきいたアリシアが、通信モニタ越しにぺろりと自分の唇をなめる。


『学園長の金一封っちゅうやつがなんぼのもんかは知らへんけど、もらえるもんはもらっとく。それがトントヤード魂や!』

『優勝したらそのお金でたくさん食べてやる、です』


 早くも優勝賞金で大量の食べ物に囲まれているところを想像したのだろう、ユーリが可愛らしい唇の端からじゅるりと涎を垂らすのを見て、アッシュが呆れた声をあげた。


『おいおい、お前らもう優勝したつもりか? 二人ともがめついなぁ。なぁ、ミナト?』

「僕にその話をふられても困るかな。というわけでノーコメントで!」

『……友人が裏切り者の件について……』


 異世界の家族のことを吹っ切れたといえば嘘になるが、それでも朝の寮の食堂での一幕や、ここに至るまでの仲間たちの変わらぬ態度に大分気が楽になった湊が、いつも通りにアッシュと軽口を叩き合っていると、通信モニタの向こうからアリシアの咳払いが聞こえてきた。


『さて、実況が各チームの紹介に入っとる今のうちに軽く作戦を説明するで? ちゃんと聞いといてや? 特にアッシュ!』

『何で俺を名指しなんだよってツッコみたいけど、時間がないようだし、とりあえず今は無視するぜ』

『あんがとな? それで作戦やけど、とりあえず全体的にバランスが取れたミナトが先頭、機動力のあるユーリと分析に長けたウチがその後ろ、そんで後方警戒と後ろからの援護射撃担当がアッシュ。ここまではええか?』


 無言で頷くチームメイトたちに満足そうな顔を浮かべたアリシアは、そのまま説明を続けていく。


『チェックポイントの課題と運営が設置したトラップは未知数やから、正直出たとこ勝負や。せやけど、あまり慎重になりすぎてもあかんから、とりあえずトラップに関してはウチがすべて見つけるように努力する。ミナトも、前や左右に異常があったらすぐに知らせること!

 ほんで、このレースで一番気ぃ付けなあかんのは、他のチームからの妨害や。とりあえず戦闘になって足を止めるんは一番避けたいから、戦闘は最低限に、可能なら避けていくこと。ええか?』

「わかった!」

『おう!』

『です!』


 三者三様の返事に、アリシアもまた軽くうなずき、正面を見据える。


『ちょうど、外では出場チームの紹介も終わったようやし、そろそろスタートや! 全員気張りぃや!』


 アリシアの言葉通り、実況の「それではレーススタートです!」という言葉があり、同時に目の前にシグナルが表示される。

 そして、そのシグナルが赤から黄、青へと変わった瞬間、湊たちはフットペダルを強く踏みしめて前へと飛び出した。

 そのまま、アリシアの作戦通りにチームの先頭を走りながら、ちらりと他のチームの様子を見ると、どうやらスタートのタイミングはほぼ一緒だったらしく、全チームがほぼ横並びの状態で走っていた。


『まずは全員横並びか……っと、早速始まったみたいだぜ?』


 アッシュの言葉通り、スタート直後に横のほうから大きな爆発音と武器同士がぶつかる音が響いてきた。


『潰しあいでもなんでも好きにしたらええねん。それよりも、どうやらあのカラフル(うるさい色の)チームはどうやら速度に特化したチームみたいやな』


 湊が視線を前に向けると、確かに赤・青・黄・紫と目立つにも程があるカラーリングを施したチームが「わはははははは!」と高笑いを残しながら前方を爆走していた。


「追いかけなくていいの?」

『問題あらへん。あいつらはほっとけば自滅するはずや。それまではせいぜいトラップ避けとして利用したろ』


 アリシアがそういった側から、先行していたカラフルチームが突然地面ごと吹き飛ばされ、直後にリタイアの文字が躍った。


『やっぱり罠があったか……』

『馬鹿ばっか、です』

「どうする、アリシア? 今ならあいつらの通った場所は安全だと思うけど……?」

『いや、逆に危ないわ……。ここはあそこを避けて通るで!』

『何でだよ? 一度作動したトラップなら安全だろ?』

『いや、ウチなら絶対に同じ場所にまだまだトラップを埋めといて、そこを安全だと思って通ってきよったアホどもをなぎ払うで』


 なるほど、と納得した先頭の湊が進路を変更して、大爆発があった場所を離れるように通過していく。

 その横で、湊たちと併走していたほかのチームが爆発跡地を通過し、次の瞬間、再び地面が大爆発して、そのチームを大量の土砂と共に吹き飛ばしていた。


『どうやらこのレースの主催者はアリシア先輩並に性格が悪い、です』

『ほほぅ、ユーリはウチのことそないな風に思うとったんか。これは後でお仕置きせなあかんな?』

『薮蛇だった、です。とりあえずアッシュ先輩バリアを発動させる、です』

『残念だったな、チビっ子。そう毎度お前の言うようにやられてたまるか』

『アリシア先輩、この間アッシュ先輩がいないときにアリシア先輩のパイロットスーツを盗もうとした、です』

『濡れ衣にも程があるよ!?』

『エロッシュは後で死刑やな!』

『アッシュ先輩バリア、発動成功、です』


 レース中にも関わらず、相変わらず緊張感の欠片もないチームメイトたちに、湊はただ苦笑するしかなかった。




◆◇◆




 それからしばらくしてレースも終わり(残念ながら優勝は逃してしまった)、すっかり日が暮れて暗くなったグラウンドの中央ではキャンプファイアーが組まれ、その周りで陽気に流れる音楽に乗って踊ったり、遊びに来てくれた家族たちと一緒に、打ち上げられた花火に歓声をあげたりと、生徒たちが思い思いに祭りの余韻に浸る中、異世界から来た少年石動湊は、校舎の屋上からぼんやりとその様子を眺めていた。


 と、そこへ屋上の扉を開けて、美しいシルバーブロンドを背中まで垂らし、その特徴的な深い柘榴石色(カーバンクル)の瞳に、どこか不安そうな、それでいて何かを決心したような色を浮かべたリリア・ガーネットが姿を現した。

 夜空に開く光の大輪と重なって、どこか幻想的な印象を受ける。


「ミナト……、ハーライト訓練生たちはどうしたんですか?」

「……アッシュたちは自分たちの家族と一緒だよ……。僕はほら……、家族に会えないから……」

「…………そうですか……」


 ぽつり、と呟き、そのままミナトの隣まで歩み寄ってきたリリアは、躊躇うように何度か口をパクパクさせた後、やがて自分を落ち着かせるように息を大きく吸い込んだ。


「ミナト……。単刀直入に言いましょう……」

「……どうしたの、リリア?」

「あなたは何者ですか?」

「…………えっ?」


 突然の質問に、戸惑いを隠せない湊へ、リリアは畳み掛けるように続ける。


「本当は、ミナトに失礼なのでこんなことしたくなかったのですが、あなたが軍法会議にかけられたあの日。上層部はあなたの身辺調査を命令しました。あなたが今までどこにいて、何をしていて、あの日、私と出会うまでどうやって来たのか……。それを調べさせていました

 そして先日、私の元にその調査報告書が来たのですが……、結果はアンノウン。不明でした……」


 そんなことをされていたとは知らず、大きく目を見開く湊へ、リリアの追求は続く。


「あなたが地図にも載っていないような、小さな島国からやってきたというのは嘘です。あの日、あの場所に至るまでの足跡が一切不明でしたから……。けれど、あなたがそういった理由は分かります。突然知らないところに放り込まれて、不安だったのでしょう……。怖かったのでしょう……

 ……ですが、せめて私のことは信用して欲しいです。頼りないかもしれませんが、私はあなたの保護者であり、少なくとも私はあなたの家族のつもりです……。だから、あなたが何を想い、何に悩んでいるのか知りたいのです……」


 心からの想いを乗せて、少女は口を開く。


「話して……くれませんか…………?」


 夜空に咲く光の花には目もくれず、その瞳に不安と悲しみを浮かべながら問いかける少女を、湊は黙したまましばらく見つめた後、ゆっくりと口を開いた。


「分かった……。全部話すよ……」

「ありがとうございます……」


 なぜかお礼を言うリリアの深い柘榴石色(カーバンクル)の瞳を正面から見据え、湊は告白する。


「僕は…………異世界から来たんだ……」

~~おまけ~~


どこぞのメイド「これは……!? お嬢様が覚悟を決めたような顔で屋上へと向かい、さらに学園祭の終わりの夜と花火と言う絶好のシチュエーションに加え、タイトルも「告白」! これは間違いない! きっとお嬢様はお客様に今宵…………って思った私のドキドキを返せ!! 告白といったら普通は甘酸っぱい青春の一こまでしょう!? このタイトル詐欺!!」

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