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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第2部 学園生活編
20/84

第10話 試験終了!

 オークスウッド周辺によく見られる、豊かに生い茂った鮮やかな緑の草原を、できるだけエネルギーの消耗を抑えるためにゆっくりとした速度で移動しながら、湊たちはそれぞれに通信を繋げて雑談をしていた。


「それにしても今回の敵はどんなだろう……?」

『リリア先生は私たちの実力に見合う敵とだけ言った、です』

『せやなぁ。せめて敵の情報がもうちょいあれば、ウチらも対策ができるんやけどなぁ……』

『ミナト。お前、リリアたんと一緒に暮らしてたんだろ? その辺の情報とか教えてもらわなかったのか?』

「確かに一緒に暮らしてたし、一応リリアが保護者になってるけど……。僕だってリリアとの接点なんてここ最近は授業だけだし、それ以前にリリアはそういう不正とかエコ贔屓とか嫌いなのはアッシュも知ってるだろ? いくら僕でも教えてくれるわけないじゃん……」

『ですよねぇ~……』

『まぁ、どないな敵でも、最悪アッシュを囮にして逃げればええねん。気楽にいこか?』

『それは名案、です!』

「アッシュ……君の犠牲は忘れないよ?」

『お前ら酷くね!?』


 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、湊たちはゆっくりと草原を進んでいく。

 もちろん、シミュレーターとはいえ、れっきとした試験でもあるので、それぞれの機体に搭載されている広域センサーの反応を確認するのも忘れているわけではない。

 その証拠に。


――ピピッ!


 アリシアの機体のセンサーが反応を示した瞬間だった。


『みんな、敵さんの反応を捕らえたで! 気ぃ付けぇ!』


 アリシアの警告が届いた直後、それまでの緊張感のかけらもない空気から一変、全員が顔を引き締めてモニタを注視する。


『相手はお一人様や! 速度は……早いで! このままやと、二分ほどでぶつかる! 最大望遠で敵を確認! 敵さんは巨大カマキリ(ギガマンティス)や!』

「ずいぶんと大物をぶつけられたね……」

『それだけ私たちが評価されていると思う、です』

『いやぁ、どうかなぁ……。リリアたんはあれで意外とSなところがあるからなぁ……』

「アッシュ……一応、この通信はリリアも聞いてると思うけど……。後で怒られても知らないよ?」

『それはそれで、我々の間ではご褒美です!』

「うわぁ……」

『寄るな、変態! です!』

『エロッシュのしょうもない性癖はほっとくとして、みんなおしゃべりはそこまでや! そろそろ攻撃射程内やで! フォーメーションはとりあえずスコーピオンや!』

『完全なアウェーな空気だからな。間違って後ろからズドン(フレンドリーファイア)をやらかしても文句は言うなよ、相棒?』

「アッシュなら大丈夫だって信じてるよ?」

『はっ! 殺し文句ありがとよ』

『よっしゃ。ほんなら軽くおさらいや。アッシュはその場で待機して狙撃態勢!』

『おう! 狙い撃つぜ!』

『ウチはいつものように観察と作戦指示、あとは中距離攻撃で牽制したる。ほんで、ミナトとユーリは前線頼むで! 相手の鎌はかなり鋭いから気ぃ付けぇよ!』

「了解!」

『分かった、です!』

『そんなら戦闘開始や!』


 ひと通りの作戦確認が終わると同時に、すぐさま全員が動き出す。


 アッシュは背中に接続された大出力狙撃銃を外し、その場に伏せてタイミングを待つ。

 アリシアは少し移動したところで立ち止まり、周囲の情報や向かってくる魔獣の解析を始める。

 そして湊とユーリは、それぞれの武器を手に左右に広がりながら高機動モードで魔獣との距離を詰めていく。


 上から見たら歪なさそり座の形に似ていることから名付けられた陣形を取りながら、湊は静かに深呼吸をしてから、己の緊張感を誤魔化すためにきつく操縦桿を握りしめた。

 今までの訓練とは違う、これまでの訓練の成果を評価される試験なのだから当たり前だ。

 事実、他の座学の授業でも、湊は始まるまでずっと緊張しっぱなしだった。

 もっとも試験が始まってしまえば、目の前のことで必死になって、緊張感どころではないのだが。

 そしてそれは、今回の試験でも同じことだった。


『来よったで! 進路変わらず、正面からや! まずはウチのミサイルとアッシュの狙撃で牽制するから、その隙にミナトとユーリは接近や!

 アッシュ! タイミング外さんといてや!?』

『誰に言ってんだよ! 任せとけっての!』

『ほんなら行くで! 今や!』


 カウントを省略したアリシアの合図に、しかしチーム全員が見事に反応した。


 わざとロックオンせずに放たれたアリシアのミサイルと、アッシュの狙撃が彼らの狙い通りに足元に着弾し、巨大カマキリ(ギガマンティス)がその俊敏な動きを止める。

 それにタイミングを合わせて、ミナトとユーリが高機動モードで一気に巨大カマキリに接近する。

 当然、近づけさせてなるものかとばかりに、巨大カマキリ(ギガマンティス)は、両腕の鉄すらも切断する鋭い鎌を振り回す。

 固い大地を易々と切り裂くその攻撃を、ミナトとユーリはそれぞれの武器で受け止めず、機体を左右に振って回避する。

 そうして何度か鎌による攻撃を回避して、やがて焦れたように大きく振り上げられた鎌が、けれど湊たちを捕らえることなく地面に深々と突き刺さった瞬間。


「ユーリ!」

『分かってる、です!』


 短いやり取りを交わしながら鎌の間をすり抜けて湊とユーリが一気に接近。

 そのまま巨大カマキリの柔らかい腹を目掛けてハルバートと刃が超振動する剣がつきこまれる。

 誰もがそのままカマキリを倒せる、そう確信した瞬間だった。


――ピピッ!!


 湊とユーリのセンサーから鋭い警告音が鳴り、その直後に二人の背後から巨大な土の塊が唸りを上げて飛んできた。

 センサーがなった瞬間に咄嗟にその場から飛びのいて、土の塊の直撃こそ防いだものの、それでも細かい破片がいくつか当たって湊がバランスを崩す。

 バランスを崩さなかったユーリにフォローされながらどうにか態勢を立て直した湊が、一体何が起こったのかとカマキリに視線を向けると、どうやら地面に突き刺さった鎌を、土を抉りながら強引に引き寄せたらしく、まだ土がぱらぱらと落ちる鎌の片方を胸元に引き寄せて警戒するように、じっと二人のABERを見ながらも、もう片方を大きく振りかぶる巨大カマキリの姿があった。


 そのまま勢いよく鎌が振り下ろされると思った瞬間、湊とユーリを飛び越えてミサイルと一条の光が振り上げられた鎌に直撃し、同時にチームリーダーのアリシアから通信が繋がれた。


『二人とも、いったん下がるんや!』


 その指示に従い、湊とユーリがすぐさまその場を離れて、アリシアの元へ向かう。

 同時に、巨大カマキリ(ギガマンティス)が背中の翅を広げてその場から飛び立とうとする。

 しかし。


『逃がさねぇよ!!』


 そんな言葉と共に放たれた光が、空気を震わせて飛び去ろうとしていた巨大カマキリの翅を射抜き、再び地面に縫い付ける。


『ナイスや、アッシュ! 後で頭に火がつくほど撫で撫でしたるからな!』

『いらねぇよ、そんなご褒美!』


 軽口を叩きながらも、アリシアはすぐさま次の作戦を立てる。


『今のアッシュの攻撃で、敵さんはもう飛ぶことはできん。せやけど、どうも思ったよりも頭がええみたいやな……。まるで人間みたいやわ……』

「人間なら話し合いで解決できそうだけどね……」

『ほんならミナト……。自分、巨大カマキリ(あの子)と話し合ってみるか?』

「遠慮しておく。どう見てもあいつ、「オレサマ、オマエ、マルカジリ」って顔してるもん」

『おお! それいい作戦じゃね? ミナトがあいつに齧られてる間に俺らで一斉攻撃! どうよ?』

「何で僕が餌!? 却下だよ!?」

『アッシュ先輩、もっと真面目にやる、です』

『せやで、アッシュ。そういうのは言いだしっぺがやるもんやで?』

『俺がやるの!?』

『冗談や。ともかく、あの鎌をなんとかせぇへんと、厄介なことには変わらんっちゅうことやな…………

 アッシュ。自分、あの鎌を狙撃で落とせるか?』

『……そうだな……。あいつが鎌を振り上げた瞬間なら、付け根に狙いをつけて落とせそうだけど……』

『ほんなら、決まりやな。作戦としては、まずもう一回ミナトとユーリであいつの攻撃を誘ってもらう。もちろん、ウチもきちっと援護したるさかい、安心しぃ

 そんでアッシュはあいつが鎌を振り上げた瞬間に狙撃して、アレを落とすんや。そんで、その瞬間にミナトとユーリで止め。ええか?』


 アリシアの作戦に三人が頷く。


『ほんなら「サソリの毒尻尾」作戦開始や!』


 奇妙な作戦名に誰もツッコむことなく、それぞれがすぐに行動を開始する。


『行くで!』

「僕もだ!」


 息を合わせて湊とアリシアが、それぞれのミサイルを打ち出すと同時に、再びユーリと湊が高機動モードで一気に巨大カマキリに近づく。

 それに対して「しつこい」とばかりに振り回される鎌を回避しながら、時々ハルバートや剣で斬りつけながら、あるいはアリシアから放たれたミサイルによって、大降りの一撃を使うようにカマキリを煽っていく。

 そしてそれが見事に成功して、巨大カマキリが湊とユーリを纏めてなぎ払おうとその鎌を大きく振り上げた瞬間。


『狙い撃つぜ!!』


 そんなセリフと共にアッシュが放った狙撃が、見事に鎌の付け根に直撃して吹き飛ばす。


『今や!!』


 アリシアの声に後押しされるように、湊とユーリが一気にカマキリに懐に飛び込む。


「でやぁぁぁぁああああああああっ!!」


 湊が吼えながら、両手でハルバートをカマキリの頭に叩き込み、


『ふっ!!!』


 鋭い呼気と共に、ユーリの剣がカマキリの腹につきこまれた。


――きしゃあぁぁぁぁああああああっ!!


 頭を割られ、腹を割かれた巨大カマキリ(ギガマンティス)が紫色の血を吹き出しながら断末魔の叫びを上げ、やがて力尽きて倒れる。

 同時に大量のポリゴン片となって消えていく巨大カマキリの代わりに、全員のモニタに「Congratulations!」という単語が表示された。


 相変わらず微妙にゲーム感が出ているその表示に湊が思わず苦笑していると、どうやら試験の様子を見ていたのだろう、教官機リリアから通信が繋がれた。


『四人とも、試験お疲れ様でした。少し危ない場面もありましたが、十分に及第点を上げられる内容でした。そうですね……、評価「B+」を上げます。途中のおふざけやハーライト訓練生の変態発言がなければ、評価「A」でした』

『俺のせい!?』


 思わずツッコんだアッシュに「冗談です」と返しながら、リリアは話を続ける。


『シミュレーターを使った訓練はこの試験を以って終わりとなります。休暇が明けたら、いよいよ本物のABER(実機)を使った訓練に入ります。皆さん、覚悟しておいてくださいね?

 それでは試験を終了します。シミュレーターを終了させてそのまま、シミュレーター室内で待機していてください』


 そのまま、ぷつりと途切れた通信モニタを少しの間眺め、湊は大きく息を吐き出してからシミュレーターを終了させる。


 そうして壁をスライドさせ、シミュレーターから出てきた湊を、いち早く出てきたチームメイトが出迎える。


「お疲れ」

「おう、相棒もな!」

「やっと全部試験がおわったわ……。ウチも疲れたで……」

「同じく、です」


 それぞれに試験終了を労っていたときだった。


「ガーネット公爵殿! 納得できません! 何故僕がC評価なのですか!?」

「ガレナ訓練生。ここでは先生と呼んでくださいと何度も注意したはずです。これ以上、私を公爵と呼ぶのなら、罰を与えますよ?」

「ぐ……申し訳ありません、ガーネット先生……。それよりも、自分の評価についてです!」

「それならば、講評のときに話したとおりです。確かにあなたのABER操縦技術は高いです。しかし、この訓練はあくまでもチーム。あなたはあまりにもスタンドプレーが過ぎました。これ以上に言うことは何もありません」


 そっけなく言い返され、言葉を失うリード・ガレナを他所に、リリアはシミュレーターの中でも言っていた、休み明け後の訓練について話を進める。


 そうして全ての話が終わり、三々五々に生徒たちがシミュレーター室を出て行く中、一人残ったリード・ガレナの呟きが小さく響いた。


「僕は悪くない……悪いのは僕の言うことを聞かなかったあいつらなのに……どうして……!

 叔父上……」


 人知れず頬を伝ったリード少年の涙が、シミュレーター室の床に落ちてしみこんだ。

~~おまけ~~


リリア「え? この原稿を読めばいいんですか?」

カンペ「お願いします」

リリア「分かりました……。えっと……、試験が終わり、長期休暇に入る湊たち。仲間たちがそれぞれの故郷に戻る中、湊はリリアの誘いで海沿いの別荘へ旅行に行くことになる。嬉し恥ずかしドキドキハプニングを経て二人の距離はやがて……。次回「異世界魔獣戦記」お楽しみに!

 って私一体どうなるんですか!?」

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