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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第2部 学園生活編
18/91

第8話 交渉決裂

 ヤマアラシに似た巨大な魔獣が背中から無数に突き出している針を逆立てる。


『針飛ばし、来るで!!』


 戦場全体を見回せる小高い場所に陣取ったアリシアから鋭い警告が飛び、魔獣の目の前にいた湊とユーリがすぐさまスラスターを全力噴射してその場から離脱する。

 それから時を待たずして、巨大ヤマアラシの背中の針が金属がこすれあうような耳障りな音を立てたかと思うと、一斉に付け根から炎をまき散らしながら背中から飛び出した。

 一瞬だけ見当違いな方向へ飛んだそれらは、しかしすぐにまるでセンサーでも搭載されているかのように軌道修正して、湊達が乗るABERへと殺到する。


「このっ!!」


 まるでミサイルのごとく飛来する針を睨み付けた湊は手早く手元のスイッチを押し込んだ。その直後、湊の機体の背中に装着されたポッドから大量の小型ミサイルが射出され、今まさに湊達めがけて降り注ごうとしていた針の雨へ殺到する。ろくにロックオンせずとも、火器管制システムの自動照準機能のおかげでまっすぐに目標へ向かって飛翔したミサイルは、空中でヤマアラシの針と衝突、盛大に爆発する。

 爆炎と爆風に吹き飛ばされる針に安堵しながらふと横を見れば、年下の天才少女(ユーリ)も同じように小型ミサイルで迎撃したらしく、彼女の機体の近くで爆発の跡が見て取れた。


 何はともあれ、無事に窮地を脱出できた、と湊が安堵のため息をついた瞬間。濛々と立ち込める煙を突き破ってヤマアラシが射出した第二弾が降りかかる。


「っ!?」


 完全に油断していたために、その場からの離脱も次のミサイルでの迎撃もできず、湊が思わず目を瞑った直後、後方から飛来した一条の光が、大量の針を薙ぎ払った。


『よう、相棒! ぼけっとしてんじゃねぇよ!』


 相方を叱咤しながらも、的確に針を射抜いていくアッシュの技量の高さに舌を巻きつつ、「ごめん」と一言謝ってからすぐさま魔獣に向き直る。


『二回目のミサイル針がおわったで! ウチ上から援護したるから、ミナトとユーリで止めや! エロッシュ君は、ウチと一緒に二人の援護や!』

『そのネタまだ引っ張るの!?』


 若干賞味期限切れ気味のボケとツッコミをしつつ、アリシアはミサイルで足止めを、アッシュが狙撃で目くらましと誘導の的確な援護が入る。


『ミナト先輩、横をお願いします、です! 私は首を落とす、です!』

『了解!』


 指示を出してすぐさま飛び出したユーリに返事をして、湊も後へ続く。

 やられてなるものか、と反撃を試みる巨大ヤマアラシだったが、上からはミサイルが降り続けていて針を飛ばせず、かといって二機のロボットを迎撃するために構えようにも、そのロボットの後ろから狙撃が飛んできているため、ろくに動くことすらできない。

 そうこうしているうちに、あっという間に接近を果たした湊が、針に覆われていない柔らかい腹へ、ハルバートを思いっきり突き入れた。


――きしゃぁあぁあぁぁぁぁああああああっ!!


 血を吹き出し、苦しそうに悲鳴を上げるヤマアラシが湊を振り払おうと首を振り上げた、まさにその瞬間。


『チェックメイト、です!』


 その一瞬のスキを逃さなかったユーリが、刃が超振動して鋼鉄もやすやすと切り裂く剣で、巨大ヤマアラシの無防備な首を容赦なく切り落とした。


 綺麗に首と胴体を分断されたヤマアラシが、断末魔の声を上げることなく倒れ、そのままポリゴン片となって砕けるのを見て、今度こそ湊が大きくため息をつき、同時ににぎやかなファンファーレとともにモニタに「Congratulation!!」と表示される。

 まるでゲームのようで思わず苦笑する湊達へ、これまでの先頭の様子を見ていたリリアから通信が入る。


『四人とも、お疲れさまでした。まだまだ危なっかしいところはありますが、とりあえず合格点は上げられるレベルです。試験本番は油断しなければ(・・・・・・・)恐らく大丈夫でしょう

 では、今日はこれにて終了です』


 最後に、その特徴的な深い柘榴石色(カーバンクル)の瞳に意味ありげな色を含ませながら微笑みかけてきたリリアに憮然とした顔を返した湊は、大きく息を吐きだすと、慣れた手つきでシミュレーターを終了させた。


 妙に疲れた体に鞭を打って、のそのそとパイロットスーツとシートを接続しているコネクタを外し、スイッチを操作して壁をスライドさせて外へ這い出る。


「先輩、お疲れ様です」

「なんや、自分……。まるでゾンビみたいやで?」

「そんなに疲れたのか? 情けねぇな……

 チビっ子だってこんなにぴんぴんしてるのによ……」

「チビっ子いうな! エロッシュ先輩!」

「チビっ子こそ、いい加減賞味期限切れなんだよ、その呼び方!」

「そんなことあらへんよ? だって、ウチかて使ぉてるやん」

「それはお前らだけだからな!? なぁ、相棒!」


 訓練直後だというのに元気な仲間たちに湊は思わず苦笑して、それからアッシュの肩に優しく手を乗せる。


「どんまい、エロッシュ!」

「裏切ったなぁ!? 父さんと同じで俺を裏切ったんだ!!」


 どこかで聞き覚えのあるセリフを残してシミュレーター室から走り出したアッシュだったが、それからすぐにまた戻ってくる。


「なんや? なんで戻ってきたん?」

「いや……だって、まだリリアたんの授業終わってねぇもん……。リリアたんの妙に艶めかしいパイロットスーツ姿を最後に目に焼き付けるまで俺は帰らん!」

「うわぁ……」

「やっぱりエロッシュやな……」

「先輩……マジで引きます、です……」


 力説するアッシュに、さすがのチームメイトたちも体ごと引いた。


 そうこうしているうちに、教官機のシミュレーターから姿を現したリリアが、何となくそれぞれのチームごとに固まる生徒たちの前へやってくると、いつの間にか手に持っていたプリントをぱらぱらとめくり始めた。

 どうやら先ほどシミュレーター訓練の結果を見ているらしい。


 意外に教師らしいその姿に湊が感心する中、最後までプリントをめくり終えたリリアは、満足そうに頷いて顔をあげる。


「皆さん、まずは訓練お疲れ様です

 大分チーム内の連携も取れてきて、危なげなく魔獣の撃破ができるようになってきましたね。もっとも、一部のチームはもっと連携が必要ですが……」


 最後に付け加えられた言葉に、とある生徒が険しい顔をして人知れず奥歯を強く噛み締める。


 一方、そんな生徒がいたことに気づく由もないリリアは訓練全体の講評をした後、今後の連絡事項を伝えていく。


「さて、皆さんもご存じでしょうが、もうすぐ前期の試験があります。この、対魔獣殲滅兵器操縦習熟訓練の試験は、ここ最近皆さんがやっている訓練と同じ、チームでの対魔獣戦闘です。ただし、訓練とは違って難易度を高めに設定します。また、各チームごとに異なる魔獣を設定します。どの魔獣が当たるかは当日のお楽しみということです。そんなわけで、皆さんはどの魔獣と当たっても慌てないように、今のうちからしっかりと訓練しておくことをお勧めします

 以上です。解散してください」


 その言葉を合図に、どやどやとシミュレーター室から出ていく生徒たちの流れに乗って、部屋から出ようとした湊たちに一人の少年が素早く歩み寄ってきた。


「なぁ、ちょっと話があるんだが……」




◆◇◆




 クソ!

 何でだ!?

 何でこうも上手くいかない!?

 俺は上手くやってるのに……チームの奴らが上手く機能しないせいでここ最近の成績はボロボロだ!

 チームがミスをする。俺が苛立つ。叱りつける。まるで俺の内心の焦りを具現化したようにまたチームがミスをする。

 いつまでも続く悪循環だ。

 他の凡人たちだって上手くやってるってのに……。何で俺だけ……。


 このチームを組むまでは全て順調だった。

 幼いころから叔父上に買ってもらったABERのシミュレーターで操縦訓練をしてきたから、初めてシミュレーターに触る奴らに比べて俺は成績も優秀だった。

 高機動訓練だって最初こそ、家のシミュレーターに搭載されてなかった重圧のせいでもたつきこそしたものの、それを隠れて努力した結果、何とか成績を維持できた。


 なのに、チームを組むようになってから、すべては上手くいかなくなった。

 俺が指示を飛ばしても、俺の期待に沿うような結果を奴らが残すことができない。

 チームの一人が言った。俺の指示の仕方が悪いのだと。

 じゃあお前がやってみろと、次の授業で任せてみたら、焦るばかりでまともな指示すらできず、俺のチームは弱小な魔獣相手に即座に全滅した。

 所詮、こいつらはその程度なのだ。

 俺ならもっと上手くやれる。俺ならもっと上手く操縦もできる。

 いっそ、俺が四人いるチームを結成できれば楽だが、そんなことは不可能だ。

 他の授業を担当する講師みたいに、金で買収できれば早く解決もできるが、相手はリリア・ガーネット。

 公爵家の跡取りだから金に困ってないし、何より彼女は高潔だから、たとえ彼女が金に困っていたところで、俺の買収を受けることはない。

 仕方がないので、チームメイトの変更を要請してみたのだが……。


「このチーム編成は、各人の能力や性格、特性などを考慮して他の講師の人たちと厳正に決めた結果です。変更は認められません」


 まさに一蹴だった。

 仕方なく、俺のチームの奴らにせめて俺の指示通りに動けるようにと訓練を課してはいるが……、どうやらあいつらはやる気がないみたいで、始めの方こそ真面目にしていたが、ここ最近はそれをしている様子もない。


 クソ! これだから馬鹿どもは……!

 叔父上のためにも俺はこんなところで足踏みをしている時間などないのに……!!


 今日も魔獣相手に惨敗して、苛立ちながらシミュレーターから出て、リリア・ガーネットの講評を受けた俺の視界に、ふと、あの忌々しいミナト・イスルギとアッシュ・ハーライトの姿が映る。


 ……そういえば奴らのチームメンバーは……。


 妙案を思いついた俺は、すぐにそれを実行することにした。




◆◇◆




 聞き覚えのある声に振り返った湊たちの視線の先にいたのは、リード・ガレナだった。

 普段の彼の、高圧的な喋り方ではないことに内心で驚きながら、それでも警戒を忘れずにアッシュが応える。


「何だよ、金持ちで成績優秀なリード・ガレナ様?」


 皮肉をたっぷりと込めたそのセリフに、リードが言葉に詰まる。

 その瞬間、アッシュへミナトたちから非難が飛んだ。


「アッシュ……出会い頭にいきなりそれは酷いよ……」

「いきなり嫌味は最低やって、ウチも思うで?」

「アッシュ先輩……やっぱり変態、です」

「いきなりチームメイトからブーイング!? あれ!? 俺アウェー!?

 つか、ちびっ子の最後のは関係ないからね!?」


 まさかのチームメイトからのバッシングにツッコむアッシュ。

 一方、突然目の前で始まったコントを、一瞬唖然として口をパクパクさせたリード少年が強制的に中断させる。


「お前ら! 俺の話を聞け!」


 どこぞの変形する戦闘機アニメに出てきそうなセリフを叫んだリード・ガレナに、やっぱりいつもの高圧的な態度の彼とは違うものを感じ取って、湊たちが注目する。

 そんな彼らの空気を敏感に察したリード少年は、慌てたように腕を組んで、できるだけいつもの調子で話を切り出した。


「ふ、ふん! どうやら貴様たちは愚民にしては調子がいいみたいだな?」

「そういうお前は随分と調子が悪いみたいだな?」


 すかさず茶々を入れたアッシュを皆で睨んで黙らせながら、代わりに湊が応じる。


「それで? 僕らに話しって?」

「ふん! この俺が用があるのはそこのお前たちではない」


 そういってリード・ガレナは湊とアッシュから視線を逸らして、ユーリへ視線を向ける。


「ユーラチカ・アゲート……貴様に俺たちのチームに入る権利をやろう」

「んなっ!?」

「はっ!?」

「えっ!?」

「…………?」


 困惑する湊たちの反応に少しずついつもの調子を取り戻しながら、リード少年の話は続く。


「もちろん、ただとは言わない。ユーラチカ・アゲートが抜ける代わりに俺のチームから一人、貴様たちの好きな奴をくれてやる……。所謂トレードと言うやつだ……

 さらにそれだけではないぞ? このトレードに応じるのならば、貴様ら一人につき、1……いや、10G(グロス)やろう……

 どうだ?」


 10Gといえば、こちらの世界に来たばかりの湊がガーネット家にまだ滞在していたころに、服を買いに街へ出かけたときにリリアから渡された札束の10倍であり、贅沢をしなければ一家族が一月を暮らすのに十分な金額である。


 その破格の金額と待遇に湊たちはさぞや驚き、食いついてくるだろうというリード・ガレナの思惑は、しかし次の瞬間、目の前の湊たちから返ってきた答えに敢え無く砕かれる。


「え? 嫌ですけど?」

「んなっ!?」


 ぴたりと同時に返ってきたその言葉に、リードは思わず目をむく。


「何故だ!? 貴様らにとって10Gは破格だろう!?

 小遣いをためた程度では一生お目にかかれないはずだ!?

 たった一人トレードするだけでそれが手に入るのだぞ!? それをふいに……」

「リード……」


 湊が捲くし立てるリードの言葉を遮る。


「僕らは例え君から100Gや1000G詰まれたところで、ユーリを売ったりはしない

 彼女は俺たちの大切な仲間なんだ……

 だから諦めてくれ……」


 そのまま踵を返して、シミュレーター室を出て行く湊たちを、リード・ガレナはただ呆然と見送るしかなかった。


「なんでだ……

 叔父上のためにも……俺は……こんなところで……!!」


 誰もいなくなったシミュレーター室に、リード少年の言葉が溶けて消えた。

~おまけ ガーネット邸にて~


リリア「ミナトたちも中々上手くなってきましたね! これなら試験も大丈夫でしょう♪ さてさて、ミナトたちにはどんな魔獣をぶつけてあげましょうか……。簡単に突破されてもつまらないですし……だからといってあまり難しすぎても可哀想だし……。流石に城砦亀はやりすぎですよね? まずはクイーンホーネット……いえ、ギガマンティスあたりから……。ふふふ、楽しみですね♪」

駄メイド「お嬢様がなにやら物騒なことを呟いていらっしゃいます……。疲れていらっしゃるのでしょうか?」


次回、試験開始!






感想とかあると泣いて喜びます

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