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異世界魔獣戦記  作者: がちゃむく
第2部 学園生活編
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第7話 チームメイト

「実力を測るため」という目的で、仮想世界で魔獣との一対一の戦闘を終えて、それぞれの適正からチームメイトの発表があった日から数日後。

 翌日に休日を控えたこの日の夜に、石動湊はクラスメイト兼ルームメイトであり、親友と呼べる域にまで達したアッシュ・ハーライトと一緒に、学校から程近い大衆酒場を訪れていた。


「そんじゃあ、俺らの出会いへの感謝とこれから卒業までよろしくってことで……

 あと、ついでに我らがミナト少年の酒デビューも祝して……乾杯!」

「か……乾杯……」

「乾杯や!」

「乾杯です」


 アッシュのせっかくの音頭に対して、同じテーブルに集った残りの三人は全く揃わないままにグラスを掲げた。


「へいへい、少年少女たち! なんだその、てんでばらばらな返事は!

 そんなんでこの先チームとしてやっていけると思うか!? 俺は思わねぇ!

 というわけでもう一回やっとくか? やっちゃうか?」


 なぜかやたらハイテンションなアッシュへ、三人から面倒くさそうな声が飛んだ。


「アッシュ……うざい……」

「あかんわ……。いくらノリがええトントヤード出身のウチかて、これにはついていけんわ……」

「ハーライト先輩、超絶うざいです……」

「こんな時にだけ息がぴったりとか……

 なんていうか俺、お前らが嫌いだ……」


 まさかの総攻撃に、さっきまでのハイテンションがまるで幻だったかのように項垂れるアッシュ。


「俺ぁよぉ……せっかく同じチームになったんだからよぉ……これからずっと同じチームでやっていくんだからよぉ……楽しくやろうって考えてたのによぉ……」


 しまいには椅子の上に体育座りをして、足の隙間からクッションに指をぐりぐりと押し付けていじけ始めたアッシュを見て、さすがに言いすぎてしまったと反省したのか、湊と湊の目の前に座る、紅茶色のふわふわな髪でやたらと大きく膨らんだ胸が目立つ少女が、それぞれのグラスを慌てて手にとって強く打ち鳴らした。


「アッシュ! 僕らが悪かったから! ほら、かんぱ~~い!」

「せやで! ウチかてホンマは盛り上がるんも大歓迎や! 乾杯!」


 そこで湊と怪しげな関西弁っぽい言葉を喋る少女が、残るもう一人の少女をじっと見つめると、二人の言わんとすることが理解できたのだろう、奇麗な白金色の年下の少女は小さくため息をついてから、半ば自棄気味にグラスを打ちつけた。


 気持ちのいい音が賑やかな店内に響き、それが耳に届いたところでようやくいじけていたアッシュが顔を上げた。


「お前ら……ツンデレとかやるじゃないか」


 いい笑顔で親指を立てながらのたまう少年を思わず殴ってしまった三人を咎める者は誰もいなかった。

 

「さて、気を取り直して……まずは軽く飯を食いながら自己紹介でもしようぜ!」


 さっきまでの痴態をなかったことにして、運ばれてきた料理を取り分けながらアッシュが切り出した。


「まずは言い出しっぺの俺から……

 知ってる奴もいると思うけど、俺はアッシュ・ハーライト。オークスウッドの南地区出身で、チームでは一応狙撃を担当することになる。みんなの背中は俺が守るから安心してくれ!」

「背中を任せた挙句後ろからズドン(フレンドリーファイア)っちゅうのだけは堪忍やで?」

「はっはっは! どこぞのミナト君じゃねぇんだ。その辺は任せてもらおう!

 んでもって、身長体重スリーサイズはもうちょっと俺の好感度が上がってからじゃないと公開できないんでよろしく!

 ちなみにこっちのミナトとはクラスメイト兼ルームメイト兼親友だ! これからはさらにチームメイトって肩書も追加されるがな!

 趣味は一日一善!

 そんな爽やかな俺だけどよろしくな!」

「自分で爽やかとか言うあたり、だいぶこじらせてますね、先輩」

「おっと! 辛口なツッコミありがとよ、チビっ子!」

「チビっ子いうな!」


 チビっ子呼ばわりされて憤慨する年下の少女を適当にあしらいつつ、「今度はお前の番だぜ?」と器用に片目をつぶってみせる。

 男相手に何やってるんだ、と心の中でツッコみつつ、湊はゆっくりといつになっても慣れない自己紹介を始めた。


「えっと……ミナト・イスルギです……。歳は十六で……あとは……アッシュの同室やってます。チームではハルバートが主要武器メインウェポンで、あとはミサイルとかハンドガンで中距離援護とかできたらいいなと思ってます……

 えと……そんなわけでよろしく……」

「イスルギ君、いうたか? 自分、出身はどこなん?」

「ああ、えっと……」


 さすがに異世界です、だなんて言えないとつい口ごもる湊に代わって、なぜかアッシュがその答えを口にする。


「こいつは地図にも載ってないような大陸の外れにある小さな島出身らしいぜ。んでもってその島を出てから寮に入るまでは、羨ましいことに、あのリリアたんと一緒に暮らしていたらしい! このリア充め!!」


 本気で羨ましそうな顔をしながら腕で首を締めあげてくるアッシュを避けつつ、「こっちにもリア充って言葉はあるんだ」とぼんやり考える湊。


「ハーライト君が何でガーネット先生を「リリアたん」って呼ぶんかはこの際気にせんとくとして、そしたらイスルギ君もガーネット先生と一緒に暮らしててドキドキしてたんとちゃうか?

 ガーネット先生ってめっちゃかわええやん? この前も一緒に風呂に入ってんねんけどな? もう肌も白ぉてすべすべで女のウチですら興奮してもうたんよ」


 その時のことを思い出したのだろう、若干頬を赤らめて、うっとりとした顔を浮かべた巨乳少女だったが、アッシュが「あの時か……」と口にした瞬間、その眼を鋭く細める。


「あの時って何で自分知ってんねん?」

「いや、「何で」も何も、あの時は俺らも男湯にいたからな。なぁ、ミナト!

 あと俺のことは気軽にアッシュ様、こいつのことはミナトと呼んでくれ!」


 ゆらり、とまるで幽鬼のような空気をまとわせる関西弁の少女に気づかずに爽やかな笑みを浮かべるアッシュ。一方、湊は彼女の空気が一変したことを敏感に察する。


「ほほぅ……そんで自分らはウチとガーネット先生の話を耳澄ませて聞いっとったんか?」

「いや、僕は体を洗ってたから聞いてないよ?」

「んなっ!? ミナト、てめぇ! 自分ひとり言い逃れかよ!?」

「ほなら、そっちの……エロッシュ君やったか? 自分、あとでたっぷりお仕置きしたるからな? 乙女のあられもない会話を盗み聞きした罰や」

「なんで俺だけ!? というかエロッシュって誰だよ!?」

「アッシュ……どんまい?」

「この裏切り者!?」


 ツッコミ疲れたのか、あるいは「エロッシュ」呼ばわりされたことにダメージを受けたのかは定かではないが、ぐったりと机に突っ伏すアッシュを無視して、今度は紅茶色の髪の少女が立ちあがった。


「ほんなら、今度はウチの番やな?

 ウチはアリシア・ターコイズいいます。歳は秘密……ちゅうわけでもないか。ミナト君とエロッシュと同じ十六や……

 一応、チームでは後方支援をメインにやらせてもらうつもりです

 あと趣味はかわええものならなんでも。男の子でも女の子でもかわええなら、どんと来いや!

 あ、エロッシュは勘弁な!

 ほんでもって、こっちの子……ユーリちゃんの相方やらせてもらってます。ちなみにコンビ名は「オニタコ」で、今はお笑いライブに向けて修行中やねん!

 よろしゅうな?」

「私はアリシアとお笑いコンビ組んだ覚えはない。ルームメイトではあるけど……」

「う~ん……ナイスツッコミにはもう一歩やな。68点や!」


 高いのか低いのか分からない微妙な点数をつけながら、ツッコミをした少女に親指を立ててみせるアリシアに、湊は素直に感心した。


「自己紹介のついでにさらりとボケるとか……さすが……」

「せやろ? ボケとツッコミは数少ないウチの特技やねん

 いやぁ、なんやミナト君とは気ぃ合いそうや! どや? ウチとコンビ組まへんか?」

「謹んでお断りします」

「あいたた! フられてもうた!」


 自分の頭をぺしっと叩きながらも特に気にした様子もないアリシアに、自然と湊たちから笑いが起こる。

 そんな様子を満足そうに頷いて、アリシアは隣の年下の少女の背中を押す。


「ほな、最後は自分の番やで、ユーリ」

「言われなくてもわかってる……

 私はユーラチカ・アゲート、十四歳。皆より年下だけどそこは気にしないで

 名前が呼びづらければユーリでいい……

 戦闘ではイスルギ先輩と同じ前衛……

 出身はリソス帝国の平民街。あと、アリシアみたいな巨乳は滅べばいいと思ってる」

「そないなこと思ってたん!?」


 ルームメイトの本音を聞いてアリシアが驚き、アッシュが無遠慮にユーリを上から下まで眺め回した後、湊がこれまでみたことがないような輝く笑顔を浮かべながら親指を立てた。


「大丈夫だ、ユーリ! お前はそのままでいい! いや、むしろそのままがいい! リリアたんもそうだが、小さな胸にこそ男のロマンが詰まっている!」

「…………ハーライト先輩はやっぱり最低です」

「ごめんなぁ……こればっかりはフォローできひんわぁ……。というか、さらっとウチにケンカ売ってきよったし……したくないなぁ……」

「アッシュ……流石に僕も引くよ……」


 なぜか小さな胸に対して熱弁を語るアッシュに対して、チームメイトたちの反応は冷たいものだった。


 そんな一幕はさておき、一通り自己紹介も終わってそれなりに和やかな空気で食事や酒を楽しんでしばらくしたときのことだった。


「そういえば、何でお前たちは軍学校に入ろうと思ったんだ?」


 湊がもといた世界(あっち)のタコスによく似たものを口の中に詰め込みながら、ふと言った様子のアッシュの質問に、ノリがいいアリシアが真っ先に答えた。


「皆も知ってのとおり、ウチの国のトントヤードは商業国家やねん。せやから、行商組合キャラバンなんかで他所と取引してお金もろうてる。で、まぁ大体想像つくかも知れへんけど、ウチの家も組合に入ってるんや……。せやけどな? 行商組合が他所の国に行くには魔獣対策でABERの防衛部隊を雇わなあかんねん。けど、民間の防衛会社は高いし、かといっておいそれと他所の国の正規軍を要請できるわけでもない。せやから、ウチがパイロットになって、おとんたちの貿易の防衛をしたろ思ってのことや」

「へぇ……意外とちゃんと考えてんだな……」

「そういうエロッシュ君はどないなん?」

「うぐっ……そのネタまだ引っ張るのかよ……。まぁ、いいや。俺はアレだな! やっぱりABERパイロットはモテるからだな! ……と言うのはまぁ、半分冗談だ。ホントはアリシアと似たような理由だな……。ABERのパイロットってのは常に危険と隣り合わせなわけだろ? だからその分給料もいいんだよ。民間、正規軍問わず、な。だからまぁ……俺も少しは両親の役に立とうと思ったんだ」

「ハーライト先輩も意外にまともな理由だったんですね」

「いい加減、名前で呼んでくれていいんだぜ、チビっ子。そういうお前はどうなんだよ? 帝国ならオークスウッド(ここ)と同じような学校くらいあるだろ?」

「先輩こそ、チビっ子いうな!

 私はお二人みたいな立派な理由なんてないです。私は代々家がABERのパイロットだったんで、その流れです。オークスウッド(こっち)を選んだのは、帝国よりもオークスウッドのほうがABERの先進国だからです」

「なるほど……チビっ子が天才少女だった理由はサラブレッドだったからか……」

「そろそろチビっ子いうな! って言うのも疲れてきた、です……」


 同じツッコミを繰り返してきて疲れてきたのか、げんなりとした顔を見せるユーリの頭を撫でながら、アリシアが湊に視線を注いだ。


「ミナト君はなんでなん? わざわざ遠くの国からこっちに来てまで、何でABERに乗ろう思ったん?」

「う~ん……僕の場合は皆と違って少し特殊なんだよ……

 実はこっち(・・・)に来たときに、偶然魔獣との戦闘に巻き込まれてね……。で、危ないところをリリアに助けてもらったんだけど、そのときに彼女が操縦するABERに乗り込んだんだ……。で、それが問題になって軍法裁判にかけられて、本来なら処刑されてもおかしくなかったんだけど、リリアがABERのパイロットになれば機密じゃなくなるって言って上層部を説得してくれたんだ……

 そんなわけで、パイロットになるべく学校に放り込まれたってところかな……

 ……ってあれ? みんなどうしたの?」


 自分が軍学校に入った理由を語った湊は、チームメイトたちのなんだか可哀想なものを見るような目に首を傾げる。


「いや……何と言うかお前……災難だったな……」

「困ったことがあったら、何でもウチらに相談してええからね、ミナト君!」

「ミナト先輩、がんばれ、です」

「よっしゃ! そんじゃ可哀想なミナトのために、皆でもう一回乾杯だ! ミナト、ドンマイ! 乾杯!!」

「「乾杯!」」

「ちょっと待って!? 何で僕慰められてるの!?」


 ツッコミを無視してグラスを打ち合わせる三人に釈然としないものを感じる湊だったが、やがて諦めたようにため息をついたあと、半ば自棄になりながら同じようにグラスを鳴らした。


~おまけ~


天然貧乳ヒロイン「また私の出番が……。それとユーリさん! あなたは私の仲間です! 私はユーリさんと一緒に、ここに巨乳滅亡委員会を設立します! 入会条件は私たちと同じ位の胸であることです!」

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