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3.ギルドに登録しようとして嘘試験のドラゴン倒して伝説の勇者の再来になるまで。

 窓の外から柔らかな日差しとちゅんちゅんと小鳥のさえずる声。朝だな。


「う~~ん、よく寝たぜ」


 俺は簡素な木のベッドの上で上半身を起こす。

 ……ん、なんだ? なんか、毛布にテントが張ってンぞ?

 俺は薄い毛布をめくってみた。


「ぎええええええええええ!! なんじゃこりゃあああああああああぁぁ!?」


 お、俺の股間に棒が! ギンギンにいきり勃つ棒があああああぁ!?


『なんですかうるさいですねぇ朝っぱらから……おや? おやおや! これはこれは……ムフフ、なんともご立派なモノをお持ちで!』

「うるせーバカ! この身体作ったのはテメーだろうが! なんだよコレ!?」


『なんだよって、ナニですがナニか?』

「これがナニかってことじゃなくて、なんでその……こんなガチガチ(小声)になってンだよ!?」


『知らないんですか? やれやれ、処女バージンはこれだから。それは朝勃ちという現象ですよ。健康な男性だったら当たり前に起きるものです』


 は、話には聞いちゃあいたが、これがその……朝勃ち(小声)だっていうのかよ……!

 い、痛いくらいパンパンになって……。だ、大丈夫なのかコレ?


「いきなり破裂したりとかしねーだろうな!?」

『ぶひゃひゃひゃひゃひゃ! するわけないじゃないっすか~~! ひょっとして処女バージンジョークっすか? マジウケルんですけどwww』


 こっちゃ真剣なのに草生やしてンじゃねーよ! クッソむかつくぜ!


「あのぅ~、大きな声が聞こえたんですけど、どうなさいましたか?」


 部屋の戸を開けて入ってきたのは、この家の家主であるパンジィだ。

 パンジィの奴は、ベッドの上で局部を丸出しにしている俺を見るなり、目を丸くして口元に手を当て、それでいて、すそそそそそー! っと滑るような動きで俺に近づいてきた。


「申し訳ございませんトラウメさま! 私としたことが気が回らず……。今、お鎮め致しますので……」


 そういって俺の股間の朝勃ちに手を添え、口をあーんと――


「だあああああああああああぁぁ!! なにすんだテメェ!?」


 思わず俺は反射的にパンジィを突き飛ばしていた。


「きゃあっ! と、トラウメさま……?」

「い、いきなり何するつもりだ!?」


「な、なにとは? 私はただ、トラウメさまの憤りを口を使ってお慰めしようと……」

「こっ、こんなもん口に入れたばっちぃだろうがッ!? おしっこが出るところなんだぞ!?」

「え、えっと……?」


 なぜか困惑しているパンジィ。困惑してンのはこっちもだっつーの!


「いーから出てけっ! ほら出てけって!」

「あっ、あの、私、助けて頂いたお礼をしたくって――!」


 俺はパンジィの手をとって立ち上がらせると、背中をぐいぐいと押して部屋の外に追い出した。

 バタン! と戸を閉めて、その戸に背を預けて溜息を一つ。


「は~っ、ったく。アタマ沸いてンじゃねェか!? アイツ!」

『いやはや……処女バージン恐るべし、といったところですか』


「あン!? なんか言ったかコラ!?」

『いえいえ滅相もございません。でも折角なんですから大人しくヌイてもらえばよかったじゃないですか? その股間のソレ、そのままだと不便ですよ?』


「ぬ、ヌクってお前……。ありえねーよ! 女同士なんだぞ!?」

『身体は男なんだから無問題モーマンタイですよ』


「心は女だっつーの!!」

『そーゆうもんですか? まあ、でも身体は男ですからね。いつか思い知るときが来ますよ~?』


 なんでコイツこんな余裕なんだ……。


「クソッ。とりあえずトイレだトイレ」


 部屋を出て、昨日場所を教えられたトイレで、洋式に似た形の便座に座る。

 そしてふと、気付く。


「……なあ、これ、どうやっておしっこするんだ?」

『だから言ったじゃないですか? ヌイてもらうべきだったって』

「……」


 結局俺は、朝勃ちが自然に収まるまでの間、無意味に便座を温め続けたのだった……。



「冒険者ギルドだァ?」

「はい。もしかして、ご存じなかったのですか?」


 俺はパンジィの作った朝飯を食べながら、こいつの話を聞いていた。


「Bランクのベテラン冒険者ですら討伐困難なゴブリンリーダーをあんなに簡単に倒すものですから、てっきり高名なAランク冒険者の方かと思ったのですが……」


 まさか、冒険者ギルドをご存じなかったなんて、とパンジィは驚いている。

 そりゃ知るわけねーだろうが。俺は昨日こっちの世界に転生してきたばっかなンだからよ。


「冒険者をなさるのであれば、冒険者ギルドには登録しておいた方が何かと便利ですよ? 依頼をこなせば報酬も手に入りますし」

「なるほどな」


 確かに、魔王を討伐することだけが目的とは言っても、その道中には路銀が必要だわな。


「分かった。その冒険者ギルドってのはどこにある?」

「はい、この町にも支部があるので、後でご案内します。実は、私も一応、冒険者なんですよ。まだ最低のFランクですけど……。昨日は森で、依頼の薬草集めをしていたんです。それが、まさかあんなにたくさんのゴブリンに襲われるなんて……。本当に、助けていただいてありがとうございました!」


 パンジィは頭を下げた。昨日から何回目だこれ。

 なんつーか、絵にかいたような真面目ちゃんだな。マジで俺の周りにはいなかったタイプだわ。


 俺の周りの連中なんて、深夜に学校の窓ガラスを粉砕して回る馬鹿とか、盗んだバイクで走りだして行き先もわからず迷子になって補導されるような阿呆しかいなかったからな。


「いや、昨日も言ったけどよ、俺大したことしてねーからマジで。だからあんま気にすンなって」

「うう……なんて謙虚でお優しいお方なのでしょう……。トラウメさまは冒険者の鑑です! 尊敬します!」


 キラキラと目を輝かせ、感涙を流すパンジィ。

 ったく、いちいちこそばゆくなるようなこと言いやがって! 調子狂うぜンとによォ……。



 ってなわけで、俺はパンジィの案内で冒険者ギルドの支部にやってきた。


「受付で冒険者として登録したい旨を伝えれば、簡単な試験が出題されます。それをクリアすれば晴れて冒険者の仲間入りです」


 パンジィの言うとおり、俺は受付の厳ついオッサンに向かって言った。


「おうオッサン、冒険者になりてーンだけど?」

「あン? なんだニーチャン? 礼儀をママの腹ンなかに置いてきちまったか?」


「うるせーぞタコハゲ。黙ってさっさと登録証出せや。二度と故郷のママに会えなくなってもしらねーぞ?」

「クソガキが……。分かっちゃいると思うが、登録証を獲得するためにはギルドの出す試験に合格する必要がある。お前にクリアできるかな?」


「楽勝だろンなもん。試験でも何でもさっさと出せや」

「言ったな? 吐いた唾飲まんようにしとけよ? ……いいか、こっから東に徒歩で3日ほど行ったところに竜の住む山がある。そこにいるドラゴンを倒してこい」


「へえ、ドラゴンか。いよいよファンタジーっぽくなってきたな。そいつをシメれば冒険者になれンだな?」

「ああそうだ。もし本当に倒せたら好きなランクの冒険者登録証をやるよ」


 なんだこのオッサン? ニヤニヤしやがって、気持ちわりぃな。たかがドラゴンだろ? RPGじゃ割と序盤の方に出てきたりしてたから、楽勝だろ。

 俺は受付を離れてパンジィの所へ戻った。


「トラウメさま、試験の方はどのようなものが出題されましたか?」

「ああ。竜の住む山のドラゴンを倒してこいってよ」


「どっっっ! ドラゴン!?!? そんな、いくら何でもむちゃくちゃですよ! ドラゴンを一人で倒すだなんて、一国の英雄レベルとも言われるAランクの冒険者でも無謀です! それこそ、伝説のSランク冒険者でも無い限りは……」


 パンジィは慌てすぎて目を白黒、手足をじたばたしてやがる。

 おおげさだなー。まあ、コイツは真面目だからな。(意味不明)


「まあ、なんとかなンだろ。そんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

「えっ? ちょっと、トラウメさま? いくらなんでも無茶ですよぉ~~っ」


 俺は悲鳴のような声を上げるパンジィを無視して冒険者ギルドを飛び出した。



 すばやさ:Sの俺にしてみたら、歩いて3日の距離なんて半日の半分もあれば十分だった。しかも、たいりょく:Sだから疲れ知らずだ。


「着いたな。ここが竜の住む山か」


 麓の村で聞いた話じゃ、この山のドラゴンは毎年生け贄を要求する悪いドラゴンらしい。悪い奴なら問答無用でぶっ飛ばしても問題ないわな。


『さてさて、初めてのドラゴン退治ですね~。ちゃんとペイント玉とこんがり焼けた肉は持ちましたか?』

「ペイント玉はねーけど弁当なら麓の村で手に入れたぜ」

『そいつは重畳。それじゃ、竜の住む山でピクニックと洒落込みましょうか』


 ゆっくりまったり、山から見える絶景を眺めつつ、俺は竜の住む山を登る。

 いやー、ピクニックなんて何年ぶりだ? 昔は親父とおふくろと、兄貴とよく一緒に近くの公園とかで弁当広げたっけな。あの頃の俺はもっと無邪気で目が輝いてて、まさかこんな底辺ヤンキーになるなんて夢にも思ってなかっただろうな。

 俺は干し肉の挟まったパンを囓りながら、少しだけ感傷的な気分に浸った。


『それにしても、なかなか姿を見せないっすねー、ドラゴン』

「ほんとに居ンのか?」


『居るには居ますよ。でも警戒してるのかもしれないですねー。生け贄を差し出すとき以外にこの山に登る人間なんていないでしょうからね』

「たった一人にビビッて出てこないとか、ドラゴンてのも大したことねーなー。俺なんて敵対グループのたまり場に一人でカチ込んで全員ボコボコにしてやったことあるぜ!」


『うーわ出ましたよヤンキーの武勇伝。それぐらいしか自慢できることないんですか?』

「ねーよバカヤロー! 小6で反抗期に突入して以降こっち、喧嘩以外で他人とコミュニケーションとったことねーんだよ!」


「うわー(ドン引き)。どんだけトンガってんですか。ウニかなにかですか?」

「うるせーうるせー! もうこの話はやめだやめ!」


 俺は干し肉サンドイッチを口に詰め込むと立ち上がった。


「さっさとドラゴン倒して帰るぞ!!」


《誰を倒すというのだ、小僧》


 大気を震わせる、地響きのような声。


『この声は……!』

「おいでなすったかァ!?」


《我こそは魔竜王ドラムス。矮小な人間よ、その魂に我が名を刻め》


「はんっ、なぁにが魔竜王ドラムスだ! 俺なんか逆神のドラムスメって言われてンだぜ!」

『何を威張ってんでしょうかねこの人?』

「つーかどこにいやがんだ!? 姿を見せやがれ!」


《ここだ》


 バサァッ!

 辺り一帯に暗い影が落ちる!


「上か!」


《愚かな人間よ。我が灼熱の吐息で灰燼と化せ――!》


「タイガー昇竜アッパーカットォォー!!!」(対空迎撃技:→↓↘+P)

《グギャアアアアアアアアア!!!》

「ドラゴン、討ち取ったり!」

《(ちーん)》

『まあ、そうなるな』



「ま、まさか本当にドラゴンを倒してくるなんて……! しかもたった半日で!?」


 俺が持ってきたドラゴンの首を見て、冒険者ギルド受付のオヤジはえらく驚いていた。

 まさかこの俺があんな簡単なお使いもできないと思ってやがったのか?

 自慢じゃないが俺は、飛竜ヘルカイトを初見で討伐した女だぜ……!


『なにそれすごい』

「さすがですトラウメさま! まさか本当にお一人でドラゴンを倒してしまうなんて!」


「ま、ざっとこんなもんよ。どーだオッサン? 登録証を寄こす気になったか?」

「……ああ、負けたぜ。ニーチャン、あんたもしかしたら、あの伝説の勇者・サイトーの再来かもな……」


 フッとニヒルに笑うと、受付のオヤジは紐で巻いた羊皮紙? を投げて寄こした。


「そいつはSランクの冒険者登録証だ。あの魔竜王ドラムスを倒したあんたにゃその資格は十分だろうぜ」

「Sランク冒険者……! この世にたった7人しかいない伝説の冒険者たち……その8人目にトラウメさまがっ……!」


「俺が知る限り、未登録からいきなりSランクになったのは、伝説の勇者・サイトーだけだ。本当にたまげたぜ」

「ふーん。伝説の勇者ねぇ。まあ、魔王を倒そうってんだから、勇者ぐらいにはなっとかねーとな」


「まっ、魔王を倒すだって!? おいニーチャン、いくら何でもそいつは……いや、もしかしたらニーチャンなら、本当に魔王を倒せるかもしれねーな……!」

「ああっ、すごいです、すごすぎますトラウメさま! トラウメさまは勇者さまだったんですね!」

「は? いや、別に勇者だったワケじゃ……」


 ――がやがやがや。

 あん? なんか外が騒がしい……


「おいここだ! 勇者様がいらっしゃるって言うのは!」

「魔王を倒すんだって!? スゲェ! 人類の希望がこの町で見つかったってのか!」

「トラウメという名前らしいぞ!」

「うおーっ! 勇者トラウメ、バンザーーーイ!!」

「バンザーイ! バンザーイ!」


 ……おい、なんか変なことになってきてねーか?


「トラウメ様! あっ、握手してください!」

「サインください!」

「上腕二頭筋触ってもいいですか!?」

「ああ、トラウメさまの赤ちゃん産みたい……」


 最後のやつパンジィじゃねーか!? あほか! しっかりしろ! 俺は女……いや、今は男だったぜ!


『勇者トラウメの伝説は、今この時より、この町から始まるのだ! 乞うご期待!!』


「「「勇者トラウメーっ! と、とーっ、トラアアーッ!! トラアアーッ!!」」」


 あーもうウルセーッ! 誰が勇者だバカヤロウ! テメェらアタマ沸いてンじゃねェか!?

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