表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/43

   その八

「さて、幼子よ、我に何を望む? 望みがあって我を起こしたのであろう」


 子供らしい高めの声。

 けれど口調は重々しく、威厳があった。

 子供と侮りがたい雰囲気に圧されて、慌てて平伏したセリアは、乾いた口の中を潤すように唾を飲み込んだ。緊張に心臓の鼓動を速めながら、言葉をゆっくりと紡いだ。


「わたしは住んでいた世界を破壊してしまいました。けれど、新しく世界をつくりたいんです」

「……なるほど」


 セリアを見据えたあと、思案深く目を閉じた子供は、わずかに時間をおいてからすっと瞼を開けた。深淵を宿す黄金の双眸が、優雅に弧を描く。


()の君にいいように操作されたか」


 くくっと愉しげに笑った子供は、顔を上げよと命じた。促されるまま面を上げたセリアの表情は強ばっていた。


「そなたの過去を見せてもらった。確かに我が力を持ってすれば、世界の構築など容易いこと」

「! 本当ですか!」

「だが、我は本来人の世に関知はせぬ」

「……神さまは救ってくれる存在ではないんですか?」

「ふむ、異な事を。そなたが身に染みてわかっているはずであろう。我が眠っていようといまいと世界は動き、誕生と終焉が繰り返される。ただそれだけのこと。そなたたちは『神』という存在に救いを求めるが、我が役目は永劫変わらぬ。ただ生きている者たちを見守ることだけだ」

「見守るだけ……? でも、だって……神さまがつくった世界を神さまが壊したって……」


 それでは理に合わない。


「そう。ただ一度――あまりに愚かな人間の振る舞いを憂い、すべてを消滅させた。そして〈鍵〉に世界を託し、我は眠りに就いた」

「なぜ?」

「そなたは質問ばかりだな」

「ぁ……」


 セリアはかぁっと頬を赤らめた。


「まあ、よい。飽いたのだ。繰り返される蛮行に。我と違う〈鍵〉ならば、違う世界を創れると思っていた……だが、結局は変わらぬか。所詮、人よ……。そなたは、どのような世界を望む? グルグリッドに見せてもらったのであろう。過去に()った世界を」

「はい……」


 セリアはゆっくりと口を開いた。


「わたしは……わたしは、父さんと母さんがいて……朝があって夜がある世界……常世の地のような世界をつくりたいです」


 子供が眉を上げた。


「それだけか? 世界の覇者となれるぞ」

「いいえ! そんな……そんなたいそうな望みは抱きません。わたしはただあのイ=バールに住んでいた人たちが幸せに暮らしている姿がみたいだけ。わたしが殺してしまった命を、新たな世界で新しい人生を送らせてあげたいんです。奴隷も支配者もいない、助け合って笑い合って……そんな世界がいいの」


 それはセリアがずっと心の片隅に思い描いていたことだ。

 最初はイ=バールを再び戻そうかとも思ったが、それでは腐敗の地の住人が不幸のままであった。

 だからこそセリアはちょうど中間である常世の地を望んだのだ。

 幸せに見える度合でいえば、遙かに天なる地のような世界が相応しかったのかもしれないが、グルグリッドの(トゥ)(ーワ)でみた天なる地のような世界はどれも楽しそうではなかった。安穏とした生活をそのまま享受している彼らは、やることも見いだせずどこかつまらなそうにみえたのだ。

 けれど、円鏡に映った常世の地や働いている者たちの姿を見たとき、セリアは晴れやかな顔に視線を奪われてのだ。

 義務的に仕事をこにしていた清き(ヴィーラ)とはまた違った表情。己の仕事に誇りを持っているかのような姿に強く惹かれたのだ。


「ふむ、よいだろう。特別にそなたの願いを叶えよう」

「! ありがとうございます!」


 パッと華やいだセリア表情が、神の次の台詞で少し沈んだ。


「そなたも新しく人生をやり直すとよい」

「新しく……?」

「家族のそばにいたいのであろう?」


 不思議そうな顔で彼が訊ねた。


「は、い……」


 返すセリアは、なんとなく歯切れが悪かった。

 それはずっとセリアが望んでいたこと。ここは喜ぶべきところなのに……。

 グルグリッドやウィズ、ロウ……それにあの青年とも別れなければならないのだろうか。

 ふっと青年の悲しげな顔を思い出した。


『我が君、やはり貴女も私から離れてゆくのですね』


 その言葉をどこで聞いたのだろうか。ぐるぐると思い出していくうちに、意識が混濁としていく。


「ま……って」


 神さまに、まだ言わなければならないことがある。

 まだ訊きたいことがあるのだ。

 しかし無情にも意識は沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ