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   その三

「なにサ。セーアは〈鍵〉なんだからしたいようにすればいいジャン。これまでの〈鍵〉もそうだったんだし」

「ロウは、ほかの〈鍵〉に会ったことあるの?」

「は? あるワケないジャン。興味ないし~。けど、〈鍵〉が来たらお城がサ、光るからわかるってワケ。あの方がサ、大事な大事な〈鍵〉を護るために結界を張ってるのサ」

「けっかい?」

「透明な壁みたいなモン。あれがあっちゃ、どんな力を持った化け物でも侵入することはできないネ。ま、あの方がいるのに、侵入しようって馬鹿はいないだろうけど。霧の一族が束になったって勝てっこないし~。ま、どうせすぐに結界はなくなっちゃうだろうけどォ」


 肩をすくめたロウは、セリアの膝の上に乗っていた葉っぱをとると、宙に放った。

 とたん、ボッと火がつき、あっという間に燃え消えた。


「ぁ……」

「この世界では、葉っぱ一枚でも油断しないことォ~。特に黒樹(サ・フェ)の葉っぱは危険なの! あのまま放っておいたら精気を吸い取られて死んでたし。ま、干からびていく姿を観察するのも愉しそうだけど……ッタ」

「愉しくないでやんす!」


 音も立てずに現れたウィズは、容赦なくロウの頭を叩いた。ばっちり聞こえていたのだろう。

 ロウはちょっとむくれたように唇を尖らせた。


「ほんっと温厚になっちゃって。昔みたいな凶暴な姐さんのほうがカッコイイのにサ~」


 ぶつぶつと不満を漏らすロウを放って、ウィズはセリアに収穫物を渡した。

 彩り豊かな木の実は、拳よりもやや小さく、灰色の枝にいくつも付いていた。


「ささ、名物のホウの実ざんす。あぶって食べるといっそう甘さが引き立つって本に書いてあったざんす」


 言うや否や、指先に炎を宿したウィズが、実を軽くあぶった。

 艶のある青い表皮が、黒くなっていく。ふんわりと漂う甘い香りは、まるで花の蜜のようだった。

 ウィズは丁寧に皮を剥くと、セリアに差し出した。礼を言ってから受け取ったセリアは、小さくかじった。


「……甘い!」


 青い皮の中は、黄金色の果肉が隠れていた。

 水気をたっぷりと含んだそれは、口に含んだ瞬間に溶け消え、甘さが広がった。

 林檎の爽やかな甘さとも違う、糖蜜をたっぷりとかけたかのような甘さが疲れた体を癒してくれるようだった。

 空腹だったセリアは、それを二個、三個と夢中で食べていたが、お腹がいっぱいになって緊張の糸が切れたのか、いつの間にか眠ってしまったようだった。

 それこそ夢を見ないくらいぐっすりと。

 体は思ったより休息を必要としていたのだろう。


 瞼の裏を突き刺す眩しさにセリアが目を開けると、太陽を覆っていた雲が消えて、晴れ渡った空が覗いていた。

 セリアが体を起こすと、掌に柔らかな感触が伝わった。下を向くと、いつの間にか毛皮が敷かれていた。きっとウィズが、むき出しの地面で寝ているセリアのためにどこからか持ってきた毛皮を敷いてくれたのだろう。


「目ぇ覚めたでやんすか」

「お、おはよう」


 そばから聞こえた声にびっくりしたセリアは、手を心臓の上にやった。少しばかり鼓動が速くなっていた。


「はい、おはようざんす」


 ウィズは昨日、ロウが座っていたところとは反対の場所に座っていた。

 いろいろ遭ったというのに、疲れを感じさせない笑顔を浮かべながら言った。


「もう安全ざんす」

「安全……?」


 ウィズの言葉の意味がわからなくて、セリアは小首を傾げた。


「太陽が姿をみせれば、光を厭う闇の住人は穴の中へ帰っていくざんす」


 穴とは、あのいっぱいあった穴のことなのだろうか。

 きっとそこが彼らの家なのだ。

 セリアは立ち上がると、地面に広がっていた斑点模様の毛皮を拾い上げ、軽く叩いて汚れを落とすとウィズに差し出した。


「あの、毛皮、ありがとう。あと、ごめんなさい……。わたし、途中で寝ちゃって……」


 食べかけのホウの実は、ウィズたちが片付けてくれたようだった。


「姫さんにとって大変な一日だったざんす」


 ウィズは毛皮を受け取るとにやぁっと笑い、そのまま近くの木の枝に引っかけた。


「わちしは姫さんのお世話をするのがなによりも楽しいざんす。主殿に仕えているっていっても、〈鍵〉がいなければわちしのやることはないざんす。だからこうして姫さんのお世話をできることはわちしの唯一の仕事ざすんすから、ちっとも気にすることないざんす」


 ウィズの気遣いに、セリアもほっと安堵の笑みを浮かべた。


「目的地まであと少しでやんすよ!」


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