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四話 勧誘

「おーい!ありきたりの動きしかできないサッカー少年の諸君!!!!」

寺野先輩はサッカー部の部室に着くとそんなことをいきなり叫んだ。もちろんのごとくサッカー部の部員がこちらをすごい速さで向き、そして何にかはこちらを睨みつけてきている。

「おい、お前ら何なんだ?」

「あっ、あの・・・・」

思わず言葉が出てしまった。しかし何と説明すればいいのだろうか?

「いいよ川又君。僕が説明するから」と言って寺野先輩は次のように説明した。

「僕はセパタクロー部部長の寺野竜也です。君たちはサッカー部として全国を目指しているが結局は全国に行く前に県内予選で振り落されることでしょう。しかしそんな惨めな結果を皆さんに味わってほしくありません。今セパタクロー部に入ればそんな高校部活動生活も華やかなものとなり自分の努力次第では全国制覇も夢ではありません。そんなうまい話があるかと思うかもしれませんが事実は小説より奇なりです。ぜひ一度素晴らしく美しいスポーツ、セパタクローをやるためにセパタクロー部にお越しください。こんな非効率的でまるで勝てない練習なんてしません。効率的で勝てる練習をします。もし皆さんがこの馬鹿な部長に洗脳されていなけばセパタクロー部に入部したくなるはずです!どうぞみなさんよろしくお願いします」

この人何言ってんだろう。なぜだろうサッカー部の空気が冷たくなってきた。

「おい、セパタクロー部の部長さん。さすがにそれは言い過ぎだろう」

やっぱし部員は怒っている。寺野先輩何やってんだよぉ。

「んっ、何か言い過ぎたことがあるかい?僕はまだ言い足りないぐらいなんだけど」

「部長が馬鹿だっていうのはまぁ認めてやってもさ、俺らだって必死に練習してんだよ。非効率的でも負けるとは限らないだろ!!」

うん。正論とは言えないけど一般論だな。ここまで来るとさすがの寺野先輩も・・・・ん?どうしてあんなに冷静な顔で笑っているんだ?

「君、ジャージの色からして一年生だね」

「そうですけど」

「今君は非効率的でも負けるとは限らないと言っていたね」

「そうですよ」

「じゃあ試合には勝っているのかい?」

「それは・・・・」

そして寺野先輩が満面の笑みになってこう言った。大きく口を開け空気を吸い込んだ後に。

「結局はね結果なんだよ。たとえがんばって練習したって勝つとは限らない。もちろん負けるとも言えないけども効率的に練習してきたチームに対しては、負けが多くなるだろう」

「・・・・」

「だから僕はこう言いたいんだ。指導者がしっかりしていれば基本的にはチームは勝ちに行けると。もちろんそのチームに努力や熱意がある事が大前提だが君らにはその努力や熱意があると思えるんだ」

「・・・・何が言いたいんですか?」

「君たちの才能をこんなところで隠させているなんて僕は許せない。だけども残念なことに指導者が変わることはないだろう。それならば似たようなスポーツ、セパタクローで全国大会を目指してほしいんだ!もちろん僕だって立派な指導者だとは言えないだろ。だけどもこのサッカー部の長谷部部長よりはましな指導が出来るだろうね」

なぜだろう。こんな大それた話だったっけ?むしろこれで部員が獲得できるならすごいよ。だってこいつ等サッカーがやりたくて来てるんだからセパタクロー部に入部するはずがないだろ。何考えてんだ寺野先輩は。

「おい寺野。俺がいない間にずいぶん語ってくれたもんじゃないか」

「おぉ久しいな長谷部。お前がこの部活を窮地に追いやってると聞いてそれはいけないと思ってやってきてやったんだよ」

「それは御心配ありがとう。だけどもそれは余計な世話だ。むしろお前のほうが部員がいなくてやばいんじゃないのか?」

「心配ありがとう長谷部。それならここの部員の何人かをセパタクロー部に回してくれないか?」

「・・・・・?」

長谷部先輩が困ってる。というか固まってる。話が理解できてないんだ。まぁいきなりこんな話を理解しろというほうがおかしいのか。

「おい、聞いてんのか長谷部?」

「お、おう。当たり前だろ」

嘘つけ。

「だから部員よこせよ」

「そんなこと言われてもなあ・・・・。おいお前ら誰かセパタクロー部に行きたい奴はいるか?挙手しろ」

少しの沈黙の後、長谷部先輩は転部をするかという質問を投げかけた。無論誰も手を上げようとしない。

「・・・・っというわけだ寺野。うちにはお前らのところに渡す部員なんてこれっぽちもいない。分かったらさっさと暗い部室に帰れ!」

長谷部先輩の言い方には多少イラつきを覚えたがたぶん、長谷部先輩のほうが正論なんだろう。

「なんだよ。人がこれだけ困っているというのに冷たい人たちだなぁ。スポーツマンシップのかけらもない人たちだよ!」

あなたが言うな、寺野先輩。

「何とでもいうがいい。さっさと帰れ、帰れ」

そういうと寺野先輩と私は追い払われるような感じでサッカー部部室を後にした。

「なんだよあいつら。おかしいよね川又君?」

「どっこいどっこいです」

「?」

はぁ、とため息をもらしながら歩く寺野先輩とその横を歩く私。たぶん遠目から見てみれば哀愁漂うその背中に誰もがかわいそうな人たちと思ってくれただろう。・・・何を言っているんだ?寺野先輩が移ったのか?

「あ、あの!!」

後ろから大きな叫び声が聞こえた。寺野先輩は「ぎぇっ!」っと声をあげジャンプしている。そして動揺を隠すように下を向いて冷静な顔を作った後、

「どうしましたか?」っとその叫んだ主に問いかけた。切り替えに関してはこの世に寺野先輩よりすごい人はいないだろう。

「あの自分サッカー部の部員なんですけど・・・・」

「うん」

「転部しても、いいですか!」

いきなりの言葉で私も衝撃を受けた。まさか転部をしてしまう人が来るとは・・・・。

寺野先輩は冷静な顔うっすらとした笑顔をしながら固まっていた。

「あれ?ダメなんですか」

「あっ、大丈夫です。今寺野先輩フリーズ状態だから」

「そうなんですか」

一分間沈黙を破り寺野先輩は私の肩をつかみ泣きながら「うぅ・・・・。こりゃあ夢なのかい、川又君・・・・・?」

私はつかまれた肩を外し背中をさすりながら「本当ですよ。現実世界ですよ寺野先輩」とだけ言っておいた。

「あの、大丈夫ですか?」

さすがにびっくりしたんだろうこの人も。すごい顔をしている。

そして寺野先輩は「大丈夫、大丈夫・・・・・」と言いながら笑いながら泣いている。悪魔みたいな笑い声だ。

ようやく先輩が正気を取り戻してきた。一度「あめんぼあやういあいうえお」という早口言葉を唱えた後寺野先輩は「とりあえず部室に来てよ」といい私と転部を希望した人の襟元をつかみセパタクロー部部室へと向かった。たぶんこの先もこういう感じで運ばれるんだろう。

・・・・

・・・

・・

「ここがわが部室だ!」

部室の中に入り仁王立ちをしている。昨日とは違って部室は電気がついており昨日よりも中の様子が詳しく見ることができる。人数にあわず運動器具やロッカーが多いな。

「それで君の名前は?」

やっぱし笑顔で聞いていいる。

「富士宮太一です。サッカー部では補欠でした」

「うん。で、なんでセパタクロー部に転部しようと思ったの?」

そこが一番知りたい。まさかさっきの話で転部したいとは思わないとおもうが・・・・。

「いやなんか楽しそうかなぁって」

「たのしそう?」

思わず口が出てしまった?どこでそんな楽しそうという考えが生まれたのだろうか?

「はい、楽しそうと思ったんです」

「どの辺が楽しそうと思ったの?」

「サッカー部だと何やっても何も言われないんですよね補欠って。でも自分サッカーが好きだからってことで入部してたからずっと我慢してたんですけど最近このまま何もせず、何も言われないまま三年間ココに籍を置くのはどうかなぁって思うようになってきたんですよ。だから少しでも、自分ぐらいの力でいいならば。自分を使ってくれる部活があるならばそこへ転部しようと思った矢先にあの話をきいて転部しようと思ったんです」

「でも楽しそうとは思ってないじゃん。逃げじゃないの?」

「逃げなんてとんでもない。自分はそこでいろいろと学んで自分の実力を上げてからまたサッカーをやろうと思っているんです。それに・・・」

「それに?」

「さっき寺野さんが話していた時の表情がすごく楽しそうでなんか自分も、楽しくなってきたんですよ」

「楽しくねぇ・・・」

あまり納得はいかなかったがたぶん寺野先輩には、きっと人の心を動かす力があるのかもしれない。それはすごく適当な言葉だけどもなぜだか心が動いてしまうんだ。

「まぁいいじゃないか、入部してくれるんだから」

そういいながらお茶を飲んでいる。いつお茶を入れたのか。というかちゃんと私たちの分のお茶も用意されている。何者だこの人?

「さっ、次いくよ次。次はバレー部だ!!」

またすごい笑顔。富士宮君の顔もすっごい笑顔。何だこいつ等。なんでこんなに笑っているんだ?

というかまだほかの部活のところに行くのか・・・・・・。胃が痛くなってきた。


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