二話 入部
ビデオの内容ははっきりと言って人間離れした人たちがボールを蹴っているといううぐらいしか圧巻されて感想が出ない。すごすぎる、すごすぎるんだ。はっきり言おうマイナースポーツをやりたいと思っていたがこれは私には合わない。合わなすぎる。こんな動きできやしないし練習してもこんな風にできるとは到底思わない。
「ビデオどうだった?」
寺野先輩はビデオを見ている間ずっと目を輝かせていた。本当にセパタクローが好きなんだろう。だから僕は言ってしまったんだ。
「僕には無理ですよ」と。
「なんで無理だと思うんだい?」
寺野先輩がやさしく聞いてきた。
「こんなすごい技やれるわけないじゃないですか!」
「君は一度でもセパタクローをやったことがあるかい?」
「?」
「やったことある?」
「ないです」
「じゃあなんで無理っていうんだい?そんなこと言ってたら何にもできなくなっちゃうよ」
一呼吸おいてから寺野先輩は語りだした。
「僕もね最初はセパタクローを見ていてすごいなぁと思ったけどやれるわけないと思ったんだよ」
「はい」
「でもこの高校に入っていろいろ部活動を探していたらこの部活を見つけたんだ。これはもしかしたら神様が与えてくれたチャンスなのかなと思ってね」
「はい」
「だけども最初はやったことなんてないからさ技なんて到底できなかったよ。何度もあきらめたし何度も挫折した」
「・・・はい」
「だけども何回もやり直して何回も思い直していくうちに着実にできるようになっていったんだよ、技が。」
「はい」
「初めてできた技って言ってもサーブなんだけどね。初めてできた時本当にうれしかった。ようやくスタートラインに立てたんだと思ってね」
「はい」
「だからさ、まずスタートラインに立ってみてからでもいいんじゃないのかな技がやれないとか言うのは」
「・・・・・」
「今日時間大丈夫?」
「大丈夫ですけど・・・」
「体育館に行こうか」
「はい」
言われるまま私は体育館に向かった。寺野先輩の手には床に散らばっていたボールがあった。さっきの寺野先輩の言葉、なんだか考えさせられる。
――
「バレー部、使っていいか?このネット!」
「いいぞー!」
「よし」
寺野先輩がすごい笑顔だ。
「雅典君。始めてっていったら上にボールを投げてくれるかい?」
「分かりました」
変な形のボールを渡された。
「今からやる技はローリングアタックっていう技さ」
「投げたら逃げてね。じゃ始めて!」
「いきまーす。ほい」
ボールが宙を舞う。その間に私は少し後ろに下がる。そして次の瞬間
パチッという軽い音がした。見てみると寺野先輩が宙を舞っているではないか。
トンッ
寺野先輩が着地した。僕を見てすごい顔で笑ってる。
「どうだい、雅典君。入部したくなっただろう」
まぁ入部したいとは思わないけど素直にすごいと思った。
「というかさ、入部してくれないとやばいんだよ。今月中にあと四人集めないとさ廃部になっちゃうんだよぉ~。お願いだ!」
さっきまで笑っていた人がもうちょっと泣き出しながら私に入部してくれと土下座している。ここまでされちゃもうこれしか答えがないよな。
「分かりました、入部しますよ。寺野先輩」
「本当に?」
「本当です。先輩に土下座させといて入部しないなんて言ったら、何されるかわかりませんからね」
「よっしゃぁぁあー!!!!」
わけのわからない踊りを始めた。本当に喜怒哀楽が激しい人だなぁ。
「でも、あとの部員はどうするんですか?」
「あっそれは大丈夫。見当はついてるから」
「そうなんですか」
「とりあえず今日は帰ろう。僕は今から顧問にあって入部届をもらってくるから明日来てね」
「分かりました。じゃ、さようなら」
「さよならねぇ~」
こうして僕は入部してしまったんだ。セパタクロー部に。