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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

世界の片隅で

作者: 翔子
掲載日:2014/09/11

不思議だなぁ。



「何がだ」



そんな返事が返ってきて、口に出していたのだと気が付いた。

くるり体を反転させれば目を開けたアレン。でも完全に開き切っていない目が、まだ睡眠が足りないのだと訴えている。あー目つむりそう。ちょっとかわいい。


「…シェリーメイ」


スルと腰に手が回されて狭いベッドの中、さらに引っ付くことになる。暖かいアレンの体がなんだか幸せでぐりぐりと頭を押し付けた。



「なんでも、ないよー」

「………この口は、そんなこと言うためにあるんじゃねぇだろ」



アレンは、ちぅと啄むようなキスをくれて。そしてばっちり開いた目で促してくる。絶対逃がさないって顔だ。こわー。


でもさっきまで考えていたことは、素直に言えばなんていうか…怒られそうな気がして。怒られないかもしれないけど、ひょっとして呆れられそうな気がして。……考えたくないけど、嫌われるかもしれないし、まさかまさか、ハッ!今気づいた!なんて顔されたら私凹みすぎてきっと床にめり込んじゃう。床と一体化しちゃう。みんながドタバタ踏んでくよー。



「床はやだ」

「……答えになってねぇよ…」

「アレンになら踏まれてもいいけど、他の人はやだ」

「踏まれてぇのか?」

「痛いのやだ」

「………なんだかなァ……」



アレンは腰に回した手で私を持ち上げて、体の上に転がした。私が全体重をかけても呻きもしない。ビクともしない体には我らが盗賊クランのマーク。思わずその最高に素敵なタトゥーにキスをしたら、違うだろ、なんて上から声が降ってきた。正面に顔を向ければ、少し体を起こしたアレンの顔がとっても近い。そのまま、ちゅ、ちゅと可愛いキスを繰り返した。アレンは私の腰と頭に手を置いて、優しく髪を撫でてくれる。それがなんだか優しくて、嬉しくて、暖かくて。心がふわふわ浮きあがる。まるで戯れのようなキスが最高に気持ちよくて、疲れた体と相まって眠ってしまいそう。

…あー、だめ、ねむい…。


んー、と欲求のままに寝てしまいそうになったけど、それを察したアレンは、優しく頭を撫でていた手を止めて、なんてこと、髪の毛を引っ張った。もちろん全然力なんてこもってないんだけど。



「…いたい」

「寝るんじゃねぇよ」

「だってもう夜だよー、ねむいよー」

「俺を起こした奴の名前を知ってるかい、シェリーメイ」

「むー、起こすつもりなんてなかったんだよ、なんで、寝てないの!」

「…………。で、何が不思議なんだ?」



あちゃ、戻っちゃった。



ぺたり、その暖かくて固い胸に顔を付けた。上からはため息が聞こえて、――また、優しく髪を撫でる。



ほら、それ。

とても気持ち良くて、とても好きで、もっとやって、って思うんだけど。

そうやってされるたびに、思うの。不思議だなぁって。


あぁまぶたが降りてきた。眠い…。

でもそのタイミングで、やっぱりアレンは髪を引く。

もー!とがばり体を起こせばアレンは楽しそうに笑った。


私は思わずむくれたけど、再び降ってきた可愛いキスの雨。触れた唇から煙草の匂いが全くしないことに満足を覚え、そしてやっぱり思うのだ。




「…不思議、」

「……だから、何がだ?」













「だって、すぐに終わると思ってた」










アレンはずっと煙草を吸っていて。

私が覚えているアレンはいつもいつも吸っていた。

常に吸っている訳ではない。部屋を煙で溢れさせちゃうこともない。

仲間の中にはもっと一杯吸っている人もいる。けど、なんだか目についた。人のいない場所で静かに燻らすアレンが、恰好良かったから、かな?


でもねーさんたちは言ったのだ。煙草は毒だって。

体を悪くするんだって。

だからあんまり近寄っちゃだめよって。あの空にゆるゆるのぼる煙も毒だっていうから。



「ねーアレンー。アレンが煙草吸うのって、口寂しいからってほんと?」

「誰が言ったんだ」

「えーと、イヴァンとー、レニーと、あと気狂いピエロの人達とか、ねーさんとか。あと新人くん」

「…………、別にそんなんじゃねぇ」

「そうなの?じゃあなんで?」

「習慣だろうな」



その日は宴だったから。

みんなみんなお酒を飲んでた。私もアレンも。

しばらく前までは皆と一緒に飲んでいたのに、ふと気が付くといなくなって。

くるり見渡せば、少し離れたところに数本の酒瓶と煙を吐いているアレン。



お酒を飲んでた。私も、アレンも。



「口寂しいなら、私がちゅーしてあげようと思ってたのになー」

「…はは、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」

「嬉しい?ならする!習慣にしてくれてもいいよ?」



だから煙草ぼっしゅー、と咥えていた煙草に手を伸ばす。指二本で持ててしまう、こんな軽いものの一体何が毒なんだろうと思った。大体、毒だって分かってるのに吸ってるのはなんで?

同じようにしてみれば分かるだろうかと、口に入れようとした。でもその前にアレンに奪われ、あっと思った目の前で灰皿へと押し付けられた。じゅうと音を立てたそれを見ているとお酒のおかげか、大分熱い腕が肩を抱く。



「子供が吸うもんじゃねぇよ」

「む!私子供じゃありませんけど!」

「…あんなこと言う大人はいねぇ」

「じゃあ私レアな大人だね!」

「………」



肩を抱いたせいで近くなっていた距離が一瞬、もっと近づいた。触れた唇はアルコールと煙草の匂い。




「…アレン、髭がいたい」

「ぶっ…………。それは、悪かったな」


もうしねぇよ、なんて言って頭を撫でたから、思わずきょとんとしてしまった。


「え、なんで?1回だけ?習慣にしてもいいって言ったよ!」

「………シェリーメイ、」


何か言われる前にすぐキスをした。なんだか苦い、煙草の味?

それが、何故だか嫌で、消えないかなーと思いながら何度も繰り返した。ちぅと吸い付いて、うふふ、何だか楽しくなってきた。


ちらり見上げたアレンは、どうしてかすごく驚いた顔をしていて、今それを思い出すと笑いが止まらない。








そんな風に始まったから


それに、アレンは私のこと妹としてか見てないと思っていたし


すぐに終わると、思ったのだ。



この楽しい時間は。






ところがどっこい、なんと3年経過しましたー。もちろんチューだけじゃなくてその先もあわあわしながら繰り広げたりしたけど。

しかも終わる気配もないんだなぁこれが。



「あ、でもでも、終わってほしくないのよ?ほんとに。…でも、アレンはずっと妹みたいに思ってるんだって、聞いてたから…」

「誰に」

「えっと?うーんと、イヴァンとー、レニーと、あと気狂いピエロの人達とか、ねーさんとか。あと新人くん」

「(あいつ等余計なことしか言わねぇ)…やっぱ、言わなきゃ分からねぇなぁ」

「えー?」


こてんと首を傾げれば、アレンは髪をすきながらこちらを見た。













好きだ、と言うつもりが、

妹だと思ったことはない、に直前で変わったのは。


自分の節くれだった手と、正反対な白く滑らかな手が見えたから。

こんな体も中身も子供な相手に、本気でそんな思いを伝えていいのか。

お前にはもっと、似合いの相手がいるだろ。例えばあの新人とか。

並んでいれば自分より普通だ。胸の内に増えた黒いものは無視をした。



「…嬉しい、ありがとう。アレン、大好き」



大きな目を更に開いてこちらを覗き込んでくる。その目がキラキラと嬉しそうに輝いているから思わず口元が緩む。


シェリーメイは俺がこのクランに入る前からいた。そりゃあ初めて会った時は、なんだこの小せぇのはなんて思ったもんだ。いつも代表にくっついてちょこまかしてたから余計小さく見えたのかもしれない。なんとなく目で追って、聖絶と名乗る盗賊クランにこんなマスコットがいたのか。そんな風に考えた。

聞けばシェリーメイは3歳の時からここにいるという。なんでだ?そんな思いが顔に出ていたのか、代表は楽しそうに笑った。

シェリーメイ程上手く風を操る者はいない。そう言ったように、シェリーメイはマスコットのようにただそこにいるだけではなかった。誰よりも早く、遠くの情報を伝えてくる。風向き、天候をよみ、最適な計画を立てる。戦闘ではその手に見合う小さなナイフがひゅんひゅんと飛び、それは正確に相手の足を裂き、動きを止めた。



初めて話した日など覚えていない。

以前どんな風に接していたかなんて忘れてしまった。


周りが彼女を妹のように扱い、それを受けて笑うシェリーメイ。

どうしても妹と見ることが出来ず、仲間の過剰なスキンシップにイラついていたなんて、そんな記憶は遥か彼方。


いつから、なんて知らない。

だがシェリーメイを妹と見ていた時期なんて、恐らくなかった。



「だいひょーのことも大好きだけどねー、でも、だいひょーに踏まれるの、やだもん」

「…俺ならいいってか」

「いいよー。好きだもーん」



ふんわり、それこそ花が綻ぶように笑ったシェリーメイが眩しくて目がそらせない。


まっすぐこちらを見て、躊躇いもなく言葉にするシェリーメイ。

その目もその言葉も。嘘や誤魔化しなんか欠片もなくて。

そんな想いをひたむきに、愚直なまでに向けてきたくせに。

あっさり【終り】のことなんて口にしやがって。




終りなんてこねぇよ馬鹿。


言葉にしないまでも、お前に対する扱いは誰よりも特別だって、いい加減気づけ。





「…俺も大概だな…」

「何が?何が?」

「お前も、こんなオッサンに引っかからなくてもいいだろうに」

「おっさん?ってアレンのこと?んー……、発明大好きリーンちゃんに頼んでみる?」

「………相変わらずぶっ飛んだ思考だなァ…」



思わずため息をつけば嬉しそうに笑ったシェリーメイが顔を近づけた。ちゅと可愛らしいリップ音をさせて口付けたのは唇ではなく、顎。というかヒゲ?



「アレン、すき。このヒゲも、顔も体も、サラツヤヘアーも全部好き。大好き」

「サラツヤって」

「えへへ!可愛い!」

「………お前の方が可愛いだろ」

「だって私は女の子だもん」

「だもんってなァ……つーかお前は何でそんなに小せぇんだよ…」

「うーん、頑張って牛乳飲んでたんだけど、全部胸にいっちゃったみたい。身長伸びないし途中で飲むのやめたー」

「あぁそういうこと…ってオイ。お前少しは恥らいってもんをだな…」



とある世界の、とある盗賊団の話。他の団員の話も書くかもです。

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