表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

見えないけど

作者: ろう

ものすごく昔のなので、結構恥ずかしいんですが、テスト投稿として。

こんにちは。今日はもうお帰りですか?・・・・それならちょうどよかった。少し、僕とおしゃべりしませんか?




妹から聞いているとは思いますが、僕は昔からとても視力が弱く、周りの物の輪郭を捉えるのがやっとです。これは生まれつきではなく、僕がとても小さなころははっきりとものが見えていたそうです。(小さな頃のことなので、僕自身がほとんど覚えていないため、ここらのことは両親から聞いたことの受け売りです。)ですが、身体が弱く、ある時風邪をこじらせて寝込んでしまい、その時に視力を落としてしまったそうです。ただの視力の低下なら眼鏡をかければ済む話ですが、僕の場合は眼球ではなく視神経に問題があったようで、眼鏡は掛けてもあまり意味がないのです。なので、このとうり、杖や人に厄介になるしかないのです。

盲導犬ですか?駄目ですね。僕は犬が嫌いなんです。この際言いますと、人間以外の生き物すべてが嫌いです。食用に加工されたものは大丈夫なんですが、生きているやつには近寄るのも嫌です。・・・・・ここまで毛嫌いする理由ですか?そうですね・・・多分、許せないんでしょうね、生きているのに「人型」でないことが。さっき言ったように、僕は輪郭しか分からないので、どうしても形にこだわってしまうんですよ。

あぁ、話がそれましたね。戻しましょう。

実は、僕がまだ正常な視力を持っていたころに、唯一はっきりと覚えていることがあります。

僕の親戚のおじいさんは機械をいじくるのが趣味でして、趣味といっても、おじいさんは凝り性だったものでずいぶんいろんなものを作っていました。

それであるとき、人型のからくりを作ることに成功したということで、家族そろってそのからくり人形を見に行ったことがあります。

とても素晴らしいものでした。人形は召使の衣装を着ておじいさんのいすに座っていて、眠るように目を閉じているのです。耳を澄ませば寝息まで聞こえてくるようでした。やんわりと膝の上で重ねられた手のひらは柔らかく、すべすべとした感触なのだろうと思いました。服の隙間からこぼれる足は見たことがないほど白く、まるで雪のようでした。

僕は、この人形は人の完成された姿なのだと思いました。人型でありながら人間のようで、人間のようでありながら人では決して到達しえないところに存在する人形なのだと理解しました。

つまるところ、僕はその人形に恋をしたわけです。今思えば恥ずかしいことですが、幼い僕の心をとらえるほどの美しさがその人形にはあったのです。


僕が視力を失ったのはそのすぐあとでした。

熱が下がってから、僕の目の異常が知れると、両親が大騒ぎしまして、おじいさんにお前のせいだと言って詰め寄ったそうです。理由はいまだに分かりませんが、混乱していたから仕方のないことだったのではないかと思います。おじいさんもそのことは分かっていて、両親をなだめてお詫びとして僕が気に入ったあのからくりを譲ってくれることになりました。僕が視界になれるまで、介護が必要だったこともありますし、そのことを聞いた僕が泣いて喜んだので両親はしぶしぶ納得して引き下がりました。(妹が生まれた後、冷静になって考え直した両親はおじいさんにちゃんと謝りに行きました。)

それからは、本当に夢のような日々でした。あくまでも僕は輪郭しか見ることができませんが、あのからくりの美しさは記憶と、動きの滑らかさ、触り心地から分かります。

僕がやっと視界に慣れてきたころには妹が生まれました。やはり家族が増えるというのはうれしいものですね。今、つくづくそう思いますよ。まぁ、妹はこの家からいなくなりますが。

家の中はからくりが手助けしてくれますから、安心してください。僕のことは気にせず妹を幸せにしてやってください。今まで山ほど苦労をかけてしまいましたから。


・・・・・いや、本当に気にしないでください。それに、実は、しばらくの間ここを離れることになったんです。からくりの動きが最近悪くなってしまいまして、修理しようにも完全に自作のからくりなので、直しようがないのです。おじいさんも最近物忘れが激しくなりました、とても任せられる状態ではないそうです。仕方ないので別のからくり師に全く別の新しいものを作ってくれるように頼んだのですが、僕が死ぬまで施設にいた方がよほど安い値段が最低でもかかることが分かったので・・・。

いまさらおじいさんのありがたみを噛み締めてしまいましたよ。施設には君たちの結婚式が終わってから行きます。さほど遠くはないので、ぜひ遊びに来てください。

・・・・からくりですか?・・・残念なことですが、あるからくり師に引き取られることとなりました。なんでも中の構造が珍しいようで、高値で引き取ってもらえることになったのです。寂しいことですが、仕方がありません。


長い間つまらない話をしてすいません。もっと時間があるときに話せればよかったのですが。まぁ、結婚式の時に嫌というほど話せるでしょう。お見送りはできませんので、ここでお別れです。では、また。



妹の婿を送り、一息ついた。からくりの手伝いなしで階段の上り下りをしたので、ずいぶんと疲れてしまった。体力はどうということはないのだが、なにぶん精神力を削る。下手に運動するより疲れた気がする。

けれど、このまま眠ってはいけない。風邪をひいてしまうし、何よりまだ一仕事残っている。

唯一迷うことなく足を運べる部屋へと急ぐ。その途中で物置により、工具入れを取り出して、目的の物を探し出しておく。すぐに見つかったが、何故だかほとんどの工具がべたついたり、ぬるぬるしていた。おまけに脂臭かった。できれば綺麗なのが欲しかったが、贅沢は言っていられない。片手で支えるようにそれらを持ち、落とさないよう慎重に歩く。

歩きなれた廊下を過ぎて目的の部屋へとたどり着いた。そのまま部屋へと入らずに、とりあえず深呼吸を繰り返す。早まった動悸を抑えようと頑張ってみた。・・・効果は、あっただろうか。

適当なところで切りをつけ、部屋へと入る。何かが動いた様な気がしたが、ネズミでもいたのだろうと無視することにした。

工具を床に置いて、その中からのこぎりと金づち、ペンチを取り出す。

人形はどこだろうと目を凝らすと、意外と近くにいて少し驚いた。気を取りなおして、取り合えず金づちでたたいてみた。人形は床へと崩れ落ちた。人形が何か言った気がする。でもあり得ないので無視しておく。人形を踏みつけてのこぎりで切ってみた。なかなか切れない。人形が激しく動いて切りづらいのでまた金づちでたたいてみた。動きが鈍ったけれど何だかうるさいので喉も叩いた。やっとおとなしくなった。頑張ってのこぎりで切ってゆく。しばらくすると噴水のように油のようなものが噴出した。目に入ってしまったけれど、大したことはない。ペンチを取り出して、人形の中身を取り出して行く。

からくり師が欲しがっているのはからくりの中身だけだから、こうしてあらかじめ取り出しておけば中身だけ持っていくだろう。最初からからくり師に頼みたかったけれど、両親がこの人形を気味悪く思っていたからどうせ僕の知らない内にからくり師に言って身代わりの「輪郭」でも用意させただろうから、やっぱりこうするしかない。分離していたら両親も何も言えないだろうし。僕のやり方が悪くて中身が傷ついたとしても、優秀なからくり師だから直せるだろうから心配いらない。これで万事解決だ。


そうこうしているうちに、中身と輪郭の分離が終わった。中身をかき集めて、そこらにあった布切れに包んでおく。輪郭はついた油を出来る限り綺麗に拭きとって、隣の部屋へと運んでおいた。

やり遂げた達成感と疲労感が押し寄せる。ついでに眠気も付いてきたので風呂に入って今日はもう寝ることにしよう。


そう言えば、人形が何か言っていた。・・・確か、「お兄ちゃん」、だったかなぁ・・・?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ