表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幽霊バスはどこへいく

作者: 新辺カコ

 あら、おじさんどうしたの。キョロキョロしちゃって。え? ああ、お席ね。座れなくって困ってるのね。

ふふ、大丈夫よ。もうすぐ座れるわ。

 え、何故かって? うん、あたしにはわかるの。あたしの隣に座ってる人、きっと次にこのバスがとまったとき降りるわ。


 あら、とまったわ。……ほーら、あたしの言ったとおりでしょ。おじさん、ここに座ればいいわ。


 ね、ね。おじさんはどこまでいくの? へえ、〇〇病院に? ずいぶん遠くまでいくのねえ。奥さんのお見舞いにいくの。そうなの……。奥さんはずっと病気で入院してるのね。


   ガタン……。バスが揺れた。


 ずいぶんお席があいたわね。え? お嬢ちゃんはどこに行くのか、ですって? お嬢ちゃんだなんて、しっつれーい。ちゃんとキミ子って名前があるのよ、あたし。ぷん、だ。

え? ちっちゃいのにやけに古めかしい名前だねって? いやだ、あたし見た目ほど子どもじゃないわ。


 あ、またとまったわ。このバス、とまるたびにガタンって揺れるの、好きじゃないわ。……ねーぇ、奥さんのお見舞いには、はじめていくの? え、違うの。へえ、しょっちゅう。優しいね。おじさん。


   また、バスが揺れた。


 おじさんは、このバスには乗ったことないの? そう。いつものバスをのがしちゃったのね。それでこのバスに乗ったの。そうなの……。


 ね、おじさん、気づかない? このバス、降ります、ってボタンがないでしょ。でも、毎回とまって、毎回一人以上降りる人がいるわよね。乗るときに気づいた? 行き先表示も、なかったでしょ。あ、それは気づいてたんだ。やっぱり変だなって思ってたのね。


 ほら、まわりをよく見てよ。だぁれもいなくなっちゃったよね。乗ってるのは、あたしと、おじさんだけ。運転手さんは、べつだけど。みいんな、降りたの。あら、またとまったわ。


   ドアが開いた。目的地まではまだ程遠く、降りるわけにはいかなかった。しばらく後、ゆらり……人影が動き、バスから降りた。


 おじさん、何を怯えているの? え? なんでバスが動くのかって。いやだ。お客さんが乗ってるからに決まってるじゃない。


   バスは走る。運転手のいなくなったバスは、ゆっくりと走ってゆく。生き物のように、意思をもって。揺れ蠢くバスの中、妻の顔が浮かぶ。すまない。今日は見舞いに行くことは出来ないかもしれない。眼を閉じ、ため息をつくと同時にバスが揺れた。


 バイバイ、おじさん。バスがいっぱいになるまでずっとそこにいてね。




停まることのないバスは走りつづける。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] じわりじわりとした怖さがありますね! 自分が書き上げたホラー小説の『食人館』には、こういった要素が足りていなかったんだと思います(笑) 次にホラー小説を書く機会が出来たら、是非とも参考にさせ…
2012/01/14 22:21 退会済み
管理
[良い点] おじさん、がバスから降りるとき、を考えると停留所に奥様が出迎えていそうな気がしました。 [一言] 最近はバスの広告もきらびやかなパチンコ店のものとなって風情が失われているなーとか思ってまし…
[一言] 何か世にも奇妙な物語で見たような気がするお話ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ