第3ラウンド
一瞬空気が止まって、その後女の子3人がいっせいに「え〜〜〜〜〜!きゃ〜横田ぁ!!!」
と声を高めた。ボリュームは車のクラクション×3って感じ。
その後シノブが変な声色で「だ、誰よ?その人」と聞いた。シノブの目はいつになく真剣だ。
いつもの表情豊かな顔からは想像がつかないほど。
それは・・・・・シノブが横田に恋をしてしまってるからだ。
この恋に気付いているのは多分僕だけだろう。なぜ鈍い僕がこの恋に気付けたのか?
その答えは学校でクラスが3つに分けられる「選択授業」とゆうやつにあった。
僕の通う学校では芸術に力をいれてて、美術の時間は1クラスを3グループに分けてるのだ。
1グループ13人でちょうどシノブ、横田、僕の3人は同じグループだ。
1週間ほど前、美術で他人の似顔絵を書く授業があった。ペアにわかれてお互いの顔を
描きあうんだけど13人だから1つだけ3人組ができてしまう。
僕らはその3人だった。
面白いのはここからで、僕は横田を、横田はシノブを、シノブは僕を書くように決められ、
実習が開始された。5分後、シノブは耳のうぶ毛までりんごのように真っ赤になっていた。
あのクラス中にシモネタを(顔色1つ変えずに)連発するシノブが。
横田に描かれ5分で「ちょっと、そうた、あんたが私描いてよ。」
とうつむきながらとても小さな声で僕に言った。
そこで僕は「シノブの恋」を確信したんだ。
横田はそんなこともちろん気付くわけがなく「そんなに俺の絵下手かよ」とブーたれていた。
シノブの質問に横田がお肉で重そうな口を開いた。
「俺、前から誰かに相談のってもらいたかったんだ。」すぐに女の子3人が口をそろえる。
「え〜乗る乗るなんでも言いやあ!!」シノブも必死の笑顔だ。
「あの、名前とかはまだ言えないんだけど・・・」
マサキが口をはさむ「なんやそれ!言えやぁ。」
そして僕「言えないけど、なんやねん?」
横田が落ち着いて言う「とりあえず、その子とは話したこともないんだ。違うクラスだし。」
シノブ撃沈。でもシノブは笑顔を崩さなくて、僕はそれが切なかった。
相沢も口を開いた。「じゃあまずメールから始めてみたら?」
「それができないんだよ〜アドレスなんてどうやって聞けば良いかわかんないし」
横田は泣き出しそうな顔になった。相沢が優しく言う。
「まずその女の子が誰なんか教えてくれへん?そしたら私らも協力しやすいし、ね?」
全員一致でうなずく。緊張のひと時。
なぜ誰かの好きな人を聞く瞬間ってみんなこんなに真剣になるのだろう。
横田を除く6人の目はキラキラしている。悩める横田は言った。
「宮野・・・・7組の宮野さん」
僕らの顔は凍りついた。それは横田の好きな人が違うクラスだったからとか、顔も知らないような奴だったからとかではない。
7組の宮野 と言えば学校どころか他校にも有名などヤンキーだ。
朝は毎日黒塗りのベンツで登校しているし、うわさならたくさん聞いている。
親は広域暴力団の組長だの、付き合っていたホストは大阪湾に沈められただの、実は売れっ子のAV女優だの、そんなうわさは数えあげればキリがない。
僕は顔をあまり見たことがない(怖いから)が髪は500m先からでもわかる派手な金髪だ。
横田なんかが近づける相手では、確かになかった。女の子3人も
「え〜あの子は・・・・あんま知らんけど、厳しくない?」
「関わりないしね〜、ってか怖すぎ!」
[やめとき〜横田、あれは無理ありすぎやって」
などと名前を聞く前とまるで正反対のことを言い出した。
それほどに宮野は回りからマイナスイメージなのだ。
「そう言われると思ったよ。」と横田、「だから誰にも相談できなかったんだ。でもあの子ほんとは絶対に良い子なんだよ。実は僕あの子と家が近くって、帰り道とかたまに見かけるんだけど、その時ね・・・・・・・・」
横田の話はそこから15分くらい続いた。
つづく