094
後ろ髪を引かれる思いで家路についた。
暗くて寒い家
本当は一緒にクリスマスをしてるんだったリビング
たのしかった時間から一気に現実に落とされた。
秋杜にメールをしたかったけど
できなかった。
大人なんだもん私…秋杜を信じるって言ったんだもん
今さら 幼稚なこと言ってらんない
秋杜を信じるっていったんだもんね……。
顔だけ洗って…布団をかぶった。
『明日 死ぬ』光太郎の言葉を思い出した。
冗談だよね……
ずい分飲んでたし…きっと私のことさえ忘れてるだろうし
でも暗い目をしてた。
香澄っていうマネージャーが 光太郎の彼女で・・・
そしてマネージャーで
恋人だった……だけど…香澄は光太郎のそばを離れてしまって
光太郎は傷心中なんだな~
とりあえずあそこには人がたくさんいるから大丈夫だろう
私だって本当は隣に 秋杜が寝てる予定だったのに
今夜もその夢は果たせずに・・・
一人寂しく目を閉じる。
朝になっていつものように出勤する。
やっぱり秋杜は帰って来なかった。
いいやその分 今夜しっかり甘えよう
クリスマスの準備しててくれるって言ってたし……
気持ち切り替えて・・・
私は家を後にした。
朝 課長に会って 昨日の御礼を言った。
「あれから光太郎さんどうでした?」
「なんかあったのかな…もともとナイーブな奴だったから…
様子はおかしいんだよな。」
「やっぱり…普通じゃないですよね。
昨日……」言いかけて言葉をのんだ。
「ん?」
「あ…いえ……。」
冗談だったら…心配かけるだけだったけど
「目を離さない方がいいですよ…。」とだけ言った。
「おばさんに言っておくよ。
だけど…そういえば…今日からおばさんは…旅行だったはずだな……。
いっちゃんからねーさんたちに
メールしてもらうよ。」
課長はそう言った。
私は少しホッとした。
もしかしたら…なんてあったら困るもの
いつものように仕事をこなし 口角あげすぎで痛くなりだした閉店時だった。
「すみません……」
サングラスをかけて帽子を深くかぶったヒゲの生えた男性が立っていた。
「いらっしゃいませ……。」
「何時までですか?」
「七時までですが……。」あと20分くらいだった。
「店じゃなくて春湖が終わるの何時?」
「え?」
サングラスを外した男性は 光太郎だった。
「これから付き合ってよ。」
「だって…私用事あるんですけど……。」
さすがモデルだった。
変装してるつもりなんだろうけど…オーラーが違う。
きのうのこきたないっていうか
ワイルドな光太郎が 雑誌にのっているモデルに変わっていた。
「今夜だけ…付き合ってよ……。
東口の改札の前で待ってるから……。30分な……。」
それだけ言うと店の外に消えてしまった。
「あ…困るよ…だって…秋杜が…待ってるのに……。」
ロッカールームで着替えて 秋杜に嘘をつくことにした。
『ミーティングになって……』
電話をしたけどまた出ない……。
家にかけても電話にでなかった……。
あれ……
『急きょミーティングになって帰りが遅くなるけど…
用意してくれてるならごめんね。帰ったらやろうね。
お腹すいてたら先に食べててね。』メールした。
なんで電話に出ないのかな……
とりあえず化粧直しをして…光太郎の待つ改札口に向かう。
秋杜…何してんのかな……
不安が胸を一杯にしていく……。