093
「大丈夫ですか?」
頭を冷やすと言い張る光太郎に付き合って少し早目に
玄関から外に出た。
雪がハラハラと舞ってきて
「お~~ホワイトクリスマスじゃん~」と光太郎が叫んだ。
「お酒…弱いならあんまり飲まない方が……」
思わず口から出てしまった。
「飲みたい気分なんだって~~飲んで~飲んで~~忘れたいことだってあるさ。」
傷心中なんだ……。
「そうですか…傷心中なんですね。」
「傷心中?あ…そうとも…言えるかな~」
その間も子供のように光太郎は雪と戯れている。
「痛…っ…」
背中に衝撃が…ふり向くと光太郎がクスクス笑っている。
「ひど~~い!!雪ぶつけたんだ~~」
私も急いで雪玉を丸めて優しく光太郎めがけて投げた。
それを光太郎は手でキャッチしてまたゲラゲラ笑った。
「俺…死ぬかな……。」
「え?今…なんて言いました?」
「いや…なんでもないよ……」
光太郎は雪の中にあおむけになって寝転んだ。
「マジに死にますって……
飲んでるんですから……」私は焦って光太郎の手を引っ張ったけど
光太郎はゲラゲラ笑うばかりで
ちっとも起きやしない。
「ふざけないでくださいよ。」
私はもう一度思いっきり光太郎を起こすと
反動で光太郎の体の上に乗ってしまった。
「ウゲッ……」私の重みで光太郎は大げさに苦しがったから
「ごめんなさい~」慌てて起き上がろうとした私を
光太郎の手が強く阻止した。
「ちょ…こうた…ろーさん?」
私の頬と自分の頬を合わせて
「めっちゃあったけ~~
一人だと寒いのに なんで二人だとあったかいのかな…」
私はまた心臓が壊れるかと思うくらいのドキドキ感と
秋杜に対する後ろめたさにもさらにドキドキ感
「光太郎さん いい加減にしてくださいね。」
「このまま俺を殺していいよ春湖……。」
光太郎が目を閉じた。
ルイトだ……
端正な顔付き…まつげが長くて 鼻が高い
思わず見とれていた。
車の灯りが近づいてきたから慌てて起き上がった。
「タクシー来たわ。」
私は慌てて玄関のチャイムを鳴らして
「光太郎さんの救助お願いします~~」と叫んだ。
慌てて課長と幸子さん美子さんのご主人が出てきて
雪の中から光太郎を救助した。
「ごめんね~春湖ちゃん」課長が言った。
「いいえ~それじゃ帰ります~~」
タクシーに乗ろうとしたら 光太郎が近づいてきて
「明日にする…」と言った。
「え?」
「死ぬの……」光太郎は暗い目をしてそうつぶやいた。
「じゃあね…春湖ちゃん……」
光太郎は男性軍に支えられながら家に戻っていった。
「お客さん…いいですか?」タクシーの運転手に声をかけられて
慌てて我に返った。
明日・・・死ぬって・・・・
冗談だよね……。
暗い目をしていた 光太郎が忘れられなかった。