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社長もニコニコ顔だった。
いつしかみんな真っ赤な顔になって たのしい時間を過ごした。
「あんたね 春湖ちゃんにつがしてばっかだけど あんたも注いであげなさいよ。」
美子さんが私のグラスにビールを注いでくれた。
「あ すみません~」
「27歳のあんたが こんな量でそのありさまなのに
成人したばかりの春湖ちゃんは余裕な表情よ。」
「俺は酒に…飲まれるタイプ~~かんぱ~~い」
光太郎の声に仕方ないので乾杯をした。
「春湖ちゃん~今日は泊まって行けばいいじゃない。
明日の勤務は?お泊まりセットならここに揃ってるし~」
「あ…いえいえ大丈夫です。
タクシーにでも乗りますから。」
慌てて断るけど そうしたいなって気もした。
「それじゃあ ゆっくりしていきなさい。」
社長が笑顔で私に言ってくれた。
「ありがとうございます。」
しばらくして気がついたら光太郎がいなくなっていた。
あれ…もう寝ちゃったのかな……
少し残念だった…サインとか写メとかほしかったなと
ミーハー気分・・・・。
時計を見るともう十時を回っていたから 秋杜に連絡するのに
テラスに出て 電話をかけてみたけど……
電源が入ってないとか言われて…
今度は家電にしたけど出なかった。
高校生なのに遅くないか・・・・
「・・・香澄……なんで勝手に……何とか言えよ……」
隣から声が聞こえてきて私は驚いた。
「俺…おまえがいないと……朝起きれないし…仕事もいけない……」
うずくまって光太郎が誰かに電話してるようだった。
「戻って来い……悪いとこは…直すからさ……香澄……」
香澄って人はマネージャで恋人なんだってわかった。
光太郎の声がとても甘くて…そして切ない声だったから
私が去ろうとした時うずくまっていた光太郎が横にゴロンと倒れた。
「キャー…」
「大丈夫ですか?」私が様子を覗き込むと 光太郎の嗚咽が聞こえた。
「う…うう……」
電話をしてたと思ったけど光太郎は電話を持っていなかった。
体が嗚咽と一緒に揺れてる
男の人も泣くんだ……
多分 これが光太郎だから…泣き姿もめっちゃセクシーだけど
普通のおっさんとかだったら
ちょっとひいちゃうかもしれない……。
「大丈夫ですか?」
私が光太郎の体を掴んだ時だった 光太郎は体を起こして
私の太ももに顔を乗せた。
「こ…光太郎さん!?」
腿が濡れてるのは光太郎の涙
子供が母にすがるように光太郎は私のふとももに顔を伏せて
体を嗚咽と一緒に揺らした。
不思議な感覚が私を包んだ。
思わず揺れる光太郎の背中を静かになだめていた。
光太郎が子供のように見せて 私が母になった気分
しばらく静かな時間が過ぎて 光太郎の嗚咽は寝息に変わっていた。
「寝たんですか?よく寝ますね……」
私は光太郎を静かに離して しびれた足を必死に立たせた。
「一世さ~~ん」
リビングの一世さんを呼んだ。
「あら 春湖ちゃん何してたの?」
「光太郎さんが……」
床にうつぶせの光太郎を見て 一世さんが驚いていた。
「どんだけ眠たいのかしらね~ここの王子さまは……
ほっといてこっちに来なさい。」
王子さまか……
うちの王子は
今頃 どこで何をしてるんだろう……
私が他の男の人に ちょっと胸ときめかせたのバレたら
怒り狂うんだろうな~~~
携帯が鳴って 飛びあがった。
「あ…秋杜だ……」急いで受信箱を開く
『今日は泊まってくる。明日のクリスマスは俺が夕飯作って待ってるから
ごめんな。』
体が一気に冷たくなった気がした。
バカ……
光太郎じゃないけど…なんか泣きたい気分に変わっていった。
光太郎がいきなり起き上がって
「春湖ちゃん…泣きそうな顔してどうしたんだ~」と
私を覗き込んだ。
「そんな泣きそうななんてないですよ。」
必死にこらえた。
「俺は…ないてばっかだ……。
泣くことをこらえる強さもないんだから まったく情けないよな~~
さぁ~~春湖 一緒に飲もう!!」
光太郎はそう言うと私の手をぐいぐいと引っ張って
リビングに戻っていく。