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めっちゃ緊張の中 社長室へ
「平野です。失礼いたします。」
敬語なんて緊張しまくりで…うまく使えるのか……。
社長は立派な机でパソコンとにらめっこしていた。
思わず一瞬で見渡した社長室
すげ~~ぇ~
「平野くんだね?
朝礼でも話させてもらったけど……」
そう言って私に封筒を手渡した。
「お客様がわざわざ私宛に 匿名で手紙をくれたんだよ。
お客様の声にも うちの受付は評判がいいんだけれど……」
私は社長からもらった手紙に思わず見いっていた。
あ…もしかしたら
読みながら そうじゃないかお客とのやりとりを思い出した。
さっき手にしてたはずの袋がないと 少し歩くのが不自由だった
年配の女性だった。
私は女性をイスに座らせて 歩いてきたはずのところのフロアーに
問い合わせをしたけど 結局出てこない。
明日遊びにくる 孫のために地方から出てきて
なかなか会えない孫に少し早い クリスマスプレゼントだったと
寂しそうに言った。私は気の毒になって
曖昧だったトイレの階数をちょうど昼休みに入る時間だったから
ダッシュで下から駆け回って
八階の穴場のトイレでやっとその紙袋を見つけた。
あんまり人が出入りしない穴場は 急な腹痛な時にいい場所だった。
ちょうどトイレ掃除に入っていた清掃係の人が
一番奥のトイレにかかっていた袋を見つけてくれていた。
私はその袋の中を覗いて お客の言っていたものと確認して
急いでお客のもとに戻ったけど
今度はもういいですって言って 今帰っていったと…
明日来る孫のために わざわざ地方から出てきたのに…そう思うと
いくら自宅に送り届けると言っても間に合わないから・・・
私は袋を持って 追いかけたら
駅に上がるエスカレーターの前の前で お客を見つけて
なんとか渡すことができた。
とても喜んでくれて…いいことしたんだ~ってうれしくなったけど
結局ご飯を食べ損ねたことを思い出した。
孫に直接渡すことができて 本当にうれしかった
手紙には感謝の気持ちが一杯書かれていて
私は思わず感激して泣いてしまった。
「いい経験をしたね。
なかなか一生懸命してもむくわれないことの方が多いけれど
平野くんはいいお客様と出会ったということだね。
こうして形に残してくれて…自分のしたことが
こんなにお客様のためになったという誠意ある応対を
これからも進んで頑張ってほしい。」
社長はそう言うと優しく微笑んだ。
「ありがとうございます。」
私はその手紙を握りしめて…とても幸せな気分になった。
頑張ろう・・・!!
たまにクレームをぶつけられてへこむことも多いけど…
こうして喜んでくれる人もいるんだ
その人たちのために頑張ろう
私はそう誓って 社長室を後にした。
「どうだった?」先輩がニコニコして近づいてきた。
「緊張しました~」
「社長って素敵だよね~~」
「あれ?そうでしたか?なんか緊張しててそんなとこじゃなくて~」
「知ってる?社長の息子って芸能人なんだよ~」
「うわ~~?誰ですか~~?」
「って噂~~社長は言わないみたいで…誰なんだろうね~~」
なんだ~~わかんないのか……
今日はとってもいい日だった。
家に帰って秋杜に 見せよう
手紙は 私の宝物になった。