072
何度も甘いキスをした。
「春湖……もう一回言え……。」
「やだ…言わない……。」
途中 点滴がなくなりそうになって
看護師を呼んだ。
医者も来て 目が覚めた秋杜に
「明日 帰っていいよ。」と言った。
看護師が
「彼女も もう大丈夫だから帰っていいですよ。」
と甘い空気を断ち切った。
そう言えば…明日は仕事だし……
秋杜と目が合った。
離れたくないのに……
「俺も大丈夫だから 帰ります。」と起き上がった。
「君は明日まで入院だ。
お会計して帰ってもらわないと。」
医師は笑った。
秋杜は少しムッとした顔をしていたが
「わかりました。」と答えた。
「あと少しだけいいですか?」私が聞くと
「もう遅いから 5分くらいでね。」と看護師が言った。
「ありがとうございます。」
医師と看護師が出ようとした瞬間だった。
静かになった廊下が少し騒がしくなって 足音が近づいてきた。
「秋杜!!!」
飛び込んできたのは 尚ちゃんと由美ちゃんだった。
「あれ…とうさん かあさん どうした?」
あ…そうだ…連絡したんだった……
「大丈夫なの!?春湖ったら全然連絡くれないんだもん!!」
私は慌てて携帯を見た。
「ごめん…病院についてから切ったんだった。」
気が動転してて 救急車の中から電話したんだった。
「もう~~~死ぬ思いだったわ!!」
由美ちゃんは秋杜に抱きついた。
尚ちゃんは医師から 状況を聞いてふらついていた。
しばらく会話して
ホッとした様子で 秋杜のそばに行った。
「じゃあ…遅いので…静かにしてくださいね。
帰る時 詰め所に声かけて下さい。」
そう言って医師と看護師は出て行った。
「もう車ぶっ飛ばしてきたのよ……。春湖…頼むわよ……。」
「ごめんね…私も動転してたの……もう…何が何だかわかんなくて…
連絡するのが精一杯で……」
「悪かったな春湖・・・おまえもガキじゃないんだから
車の前に飛び出すなよ……何事もなくて本当によかった。」
「悪いな~心配かけて~」秋杜はてれたように謝った。
「よかった~~ほんとによかった~~~」
しばらく無事を喜んで 「帰るか~今日は家に泊まっていいか?」と
尚ちゃんが言った。
「もちろん~~明日会計とかお迎えあるから……
じゃあお願いしていい?」
後ろ髪を引かれたけど ここは両親にお任せしないとと思った。
「もちろんよ。春湖 明日仕事でしょう?
早く帰って寝かせないと……大変!!!
じゃあね 秋杜 明日迎えに来るからね~」
由美ちゃんは私の手を引っ張って病室を出たから 結局秋杜の顔を
きちんと見ることもできずに
もう一回…キスしたかったな…
あれよあれよと………病室を後にした。
車に乗り込んで 安堵感と嬉しさがこみあげてきた。
「春湖 悪かったな~ぼうず心配かけて~」
「ううん…私が悪いんだよ……」
「どうした?」
「ちょっと喧嘩して…秋杜が追い掛けてきたの。
私を見つけて秋杜が……ひかれちゃったの……。
私のせいなんだ……。大人げないから……ごめんなさい……。」
「仲直り……できたの?」
なんだか恥ずかしくなったけど
「うん。仲直りできた。」
「よかったじゃん~~ひかれてみるもんね~秋杜~」
由美ちゃんの言葉に私が驚いていると
「ぶつかったのもさ…演技かもしれないぞ。
あいつがひかれるなんて…ありえないぞ~~」と笑った。
秋杜が無事で…こんな冗談も言える……。
よかった……本当によかった……。
心臓が縮まったけど……心と唇が一つになった夜……
月が輝いていた。