058
榊原課長とエレベーターが一緒だった。
「おはよう~」いつも元気で爽やかで ネクタイの色とスーツの色がとってもお洒落……。
「おはようございます。課長今日も素敵ですね~」
「うれしいこと言ってもらって~~うちの奥さんも喜んでたよ~」
課長のスーツもネクタイも全部奥さまのコーディネートなんだって~~
「お会いしてみたいな~~。課長の奥さまに~~。」
「あ…じゃあ 今日遊びにおいで。
かみさん 料理教室に行くって言ったからきっとごちそうだよ。
電話してみるから 予定開けといて。」
課長が手をあげて颯爽と出て行った。
「めっちゃ…いい香りだ~~~」
心がすさんでいたから課長の爽やかさに心が洗われた。
そんなこんなで
私は課長のお宅にお邪魔することになった。
「帰りは送っていくから ゆっくりしていきなさい。」
「え~いいですよ、地下鉄で帰れます。」
「送っていくのはこっちにも都合がいいんだ~協力してもらうよ。」
地下鉄の出口に 赤い車が停まっていた。
「いらっしゃい~~春湖?ちゃんだったわね~」
運転席の窓から顔を出した 課長の奥さまは 想像通り美しい人だった。
「すみません。図々しくて……」
私は頭を下げて挨拶した。
「おかえりなさい~~」
課長が助手席のドアを開けてくれた。
「ええ?ここでいいんですか?」
「俺の席はここなんだ~~」
課長が後部座席のドアを開けたら チャイルドシートが二つ
「運転手以外はお世話しなくっちゃ~~」
「あ~すみません。」
シートベルトを締めて 改めて奥さまに挨拶をした。
「平野 春湖 です。奥さま 今日はありがとうございます。」
「私も会いたかったの~~若い女の子とお話できるなんてうれしい。
奥さまなんてやめてね。私の名前は一世って言うの。
名前で呼んで~お友達みたいに~~」
一世さんはそう言って微笑んだ。
「お子さん寝てるんですか?」
「うん~こいつらねなぜか車に乗ると寝るんだよね~~」
「ごめんね~うちあずましくないけど…ゆっくりして行ってね。」
素敵なご夫婦だな~~って感じた。
一世さんは7歳も年上だって言ってたけど
課長と結婚する時 悩むことはなかったのかな……。
素敵な一軒家だった。もう暗かったけど車が入ってくると
灯りがついてプランターの色とりどりのお花が浮かび上がった。
「素敵~~」
「趣味なの~~まだまだセンスないんだけどね~~」
一世さんの笑った顔がキレイだった。
課長は三歳くらいの男の子を抱き上げて 玄関のカギを開けた一世さんが
戻ってきて もう一人のまだ一歳くらいの男の子を抱いてきた。
「今がチャンスだよ~~いっちゃん~~」課長が言った。
「そうね…少しでも静かにしててくれると助かるんだけど~~」
「春湖ちゃん~~入って~~」
一世さんはスリッパを揃えてくれた。
「おじゃまします。」
二人の後をついていい香りのするホールからリビングに通された。
「うわ~~」カントリー風のお部屋に思わず声をあげた。
「これカントリーっていうんですよね~~」
「知ってる?」
「はい 母がはまってました~~~。途中まで~~」
「そっか~~ぁ~~」
隣の和室の布団の上に 二人の兄弟を寝かせて
一世さんは笑顔で戻ってきた。
「トシくん~お風呂先に入ってきて~~
その間 春湖ちゃんにお手伝いしてもらって用意しておくわ。」
「は~~い」
課長が子供のように手をあげた。
私はいつもの課長と全然違うから 思わず目が点になっていると
「ほら~~春湖ちゃんひいてるじゃん~~」
「あ~~これは職場では秘密だぞ~~それでなくても一世女史と結婚して
尻に敷かれてるって噂なんだからさ~~」
「敷かれてるんだよ~~私の長男だから~~」
課長と一世さんがにこやかに微笑んだ。
「素敵~~~」
私はまた叫んでしまった。
「え??」
「いろいろ質問させて下さいね。」私が言うと
「お手柔らかに頼むぞ~~」課長が頭をかいた。