054
誕生日の朝
携帯の音楽で目が覚めた。
音楽はしばらく鳴って切れて……三回くらい繰り返した。
また鳴っていると
階段を登ってくる秋杜の足音がした。
秋杜は部屋のドアを閉めるのも忘れるくらい慌てていたのか
秋杜の声が聞こえた。
私は少し部屋のドアを開けた。
「シャワー入ってたんだって…。……寝てないし……。
忘れてない……しつこいぞ………時間通り……うん……
大丈夫だって……」
ぶっきらぼうな対応だけど
誰かと待ち合わせをしている様子だった。
「・・・・普通 その言葉が先だと思うけど?
はいはい…ありがとうございます16歳になりましたよ・・・。
じゃあな…誕生会楽しみにしてるわ~あとで……。」
私が一番先にかける言葉なはずだったのに……
思いがけずに先を越されて
おまけに…誕生会という言葉にも…… すごいショックだった。
今さら…おめでとうなんて…言いたくない……
おかしな意地もあって結局私は 秋杜が出かけるまで
部屋を出られなかった。
秋杜の後姿を窓から見送ってたら涙が流れてきた。
「いやだ…。私…なんでこんなにアイツのこと…好きになってんだろ……
ずっとウザかったじゃん……今さらなんで…
情けないぞ……アイツにそうしなさいってずっと…ずっと言い続けて
アイツを傷つけてきたのに……今さらこんなに辛いなんて……」
私は部屋にしゃがみこんだ。
「好きよ…秋杜……。
今さら遅いけど……こんなに人を好きになったのは…生れて初めて……
好きよ……大好き……行かないで……
私を…一人にしないでよ………。」
素直な胸の内を吐露していた。
秋杜を必要としてる自分
秋杜に愛されたいと思っている自分
まーくんの時とは違う
初めての感覚だった………。
でもやっぱり…私は素直には口には出せないんだろう……
「誕生日おめでとう」
この言葉さえ秋杜に言えなかった。
素直になれない…私
だから今こんなに切なくて苦しいの……。
もう…遅いんだよね……。
誕生日に誰かとお祝いをする秋杜……秋杜が遠くに行ってしまった気がした。
あんなにそばにいたのに……
手を伸ばせばそこに秋杜はいたのに……
素直になれなかった自分………。
年上だから?
何に私はこだわってきたんだろう。
こんなにこんなに悲しいなら……おかしなこだわりを捨てるべきだった。
臆病になっていた自分
秋杜の前ではいつも有利でいたかった自分
いつの間にか道を誤ってしまったのかもしれない……。
「バカだね…春湖……
いいじゃん……いつか秋杜にふられたって……
そんときにプライドを持ってれば お互いに自分の生きる場所で
幸せ見つけようねってかっこよく背中を押してあげれば……
今…愛してもらえればよかったんだよ……バカだね…もう遅いけどね……。」
自分の本当の心の中と向き合ったような気がした。