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愛してんのに
それは秋杜からはじめて聞いた言葉だった。
私のことを好きなのは 小さい頃からの流れでわかってはいるけど…
秋杜から愛の言葉を聞いたのは はじめてだった。
プライドの高い秋杜が あんなことを言うなんて
それほど自分を愛してくれているんだってうれしくなる。
だけど…だけど悲しいけど
それを受け入れる勇気はなかった。
私だって…秋杜を想う心が募っている。
俺様の秋杜が 私の前では 素直で可愛いくて…たまらないしぐさを
見せる時 思わず抱きしめたくなる。
こっそりあの時 違反した 唇の感触が刺激的だった。
秋杜と抱き合うことは今の私には もっとも簡単で
刺激的で 最高なことだけれど
その後で…ずっと二人が一緒にいられるという約束はない。
もし秋杜と愛を囁き合って 幸せな気分を味わっても
いつか嫉妬に狂った私が秋杜の負担になって
ドロドロとした世界に足を踏み入れて……
二度と顔も見たくないって秋杜にそう思われるのが…怖かった。
でも…でも…
一緒の時間を過ごしていると 私だってどんどん想いは膨らんで行く
私がしっかりしないと
取り返しのつかないことになってしまう気がして
理性が折れそうになっても 必死に支えるしかない……。
秋杜も苦しんでる……
私と同じ……一緒にいることで苦しんで我慢して……
「ごめんね秋杜……。
私が秋杜を待ってればこんなに辛くなかったのに
せっかちでごめんね……。」
きっと私と秋杜はまだ生れる前
愛を誓い合っていて…何かの手違いで私は五年早く生れてしまったのかな……
その日から 二人の間がぎくしゃくしてきた。
私も秋杜をまっすぐ見れずに 簡単な言葉しか交わさない日が続いた。
風呂上がりの幸せな時間も…なくなって…
少しづつお互いに軌道修正を始めたように…距離が広がって来た気がする。
何かを置き忘れてきたような…それが何かわかっている大事なものなのに……
取りに行く勇気がなくて何度もふり向きながら…
忘れようとしてる……。
何が・・・?
秋杜への愛
お互いに求め合っているのに……
私が意気地なしだから…
もっと自分に自信があったなら……
たとえそれが短い期間の幸せだったとしたって 強く抱きしめ合うのに……
ごめんね秋杜……
秋杜も苦しんでいる……
私が素直になれないから
傷つくのが怖いから………。
「いってらっしゃい~」制服姿の秋杜に声をかけた。
「いってきます……」
私の顔を見ないで秋杜は ぼそっと言って 出て行った。