049
上司の名前は 榊原 利和と言って 総務の課長だった。
まだ若干35歳にして デパートの中でも一目置かれる存在らしい。
東大卒 英語 中国語 韓国語 ができて 海外出張も多いエリートだった。
今まで通り過ぎると会釈だけしていたが この間の出来事から
笑顔もつけて会釈した。
大人で優しくて…包容力があって……
課長と目が合うとうれしくて
つまらなかった社会人生活が少しだけ楽しくなった。
「最近さ……その名前よく出てくるよな。」
そんなこともあってテンションアップだった私はついつい
日々の出来事を喋りすぎていた。
「え?」
「課長~課長がね~~~」秋杜が声色をおんなにしていった。
「あはは~~」私は大爆笑してお腹を抱えた。
秋杜は立ちあがって
後から私を抱きしめた。
「な…何よ……。」
「俺のまえで他の男の話するな。」
秋杜の力が強くなって苦しくなる
「苦しいって……秋杜痛いよ……」
「春湖が悪いんだぞ……俺のまえでそいつのこと話す時
いつもうれしそうだから……」
秋杜の頬が 私の頬に触れて 倒れそうになった。
「秋杜ったら……ヤキモチやいてんだ……」
わざとに挑発したのは 頬が赤く燃えるように熱くなったから
「ヤキモチ……
春湖に対しては なんでもヤキモチやくよ。
今まで俺は…どれだけ嫉妬してきたんだろう……」
そうだった…幼稚園の時からラブラブだったゆうくんとの仲を
引き裂いたのも幼い秋杜だった。
「春湖以外にこんな気持ちになったことは一回もないし……
俺はいつも冷静でいられるのに……
なんで春湖の前だけ……かっこよくいられないんだろう……」
いつも強気な秋杜が意外な言葉を吐いた。
「おまえのまえでは世界で一番かっこいい男でいたいのに……
俺はいつまでも子供になってしまう……」
胸が…キュンキュンして痛いほどだった。
秋杜の言葉に 感動してる私だった。
可愛くて…愛おしいと思ってしまう……。
「俺に足りないのは おまえより生きてる時間が少ないこと……
おまえにとってはガキとしかうつらないこと……
こんなに…こんなに愛してんのに……」
愛してんのに……
その言葉を言って秋杜はすごい勢いでリビングを出て行った。
その背中を見送りながら
私も鳴りやまない心臓の音を聞いていた。