048
秋杜との生活が 刺激的なほど 距離を感じるしかなかった。
相変わらず髪の毛を洗うと 秋杜がドライヤーを持って待っていた。
由美ちゃんから 朝は全然ダメと聞いて ここに住みこんだけど
秋杜は予想を反して 朝も私の髪の毛を楽しそうに ドライした。
秋杜に触れられるたびに心はときめいて…そして辛かった。
秋杜への想いは募り悲鳴をあげている。
私が化粧を落とすと 秋杜は嬉しそうにしている。
多分仕事へ出かける私との 距離を秋杜も感じているのかもしれない。
「春湖はそのままが春湖らしい……」
そう言うと秋杜はいつものように 乾ききった髪の毛に顔を埋める。
秋杜は私の距離を縮めようと必死に見えてきた。
そんな日々が続いて季節は秋になって…もうすぐ冬がやってくる。
相変わらずの毎日に変化が現れた。
その日は本当に腐っていた。
売り場で不快な思いをしたという客が 受付でそのうっぷんを吐きだしてきたけど
たまたまその時 先輩が席を立っていて私は一人で
そのわけのわかんない客の応対に四苦八苦していた。
マニュアル通りに クレームに対しての詫びをしているのに
客は一向に怒りがおさまらない。
上司に連絡すると言えば 私に言ってるんだと激高する。
私の前を通り過ぎる客が おもしろそうに見物しながら通り過ぎた。
あまりのクレーマーぶりに私もキレかけてきた。
「何なの?その態度は?」
どう言っても引かないクレーマーに対応する言葉がなくなってきた時
客がそう言った。
「では…他になんて言えば……」と言いかけた時だった
「お客様…どうなさいましたか?」
現れたのはうちの課の上司だった。
あまり接点はなかったけど 人気のある上司だった。
突然現れた社員に クレーマーは驚いてしどろもどろになってきた。
「お話 ゆっくり聞かせていただきます。どうぞこちらへ……」
上司が言うと慌てて
「このバカ女の教育もしっかりやりなさい!!」そうヒステリックに
言い放って去っていった。
バ・・・バカ女?????
ちょうど先輩が戻ってきて
「何かあったの?」と私に聞いた。
「せんぱ~~い・・・・」もう私は声をあげて泣き出しそうになった。
その時上司が
「平野くん 来なさい。」そう言って私の腕をとった。
「ここ頼むね。」上司は先輩にそう言うと私の腕を引いて
従業員入り口に入れられた。
こらえきれない涙がボロボロって落ちた。
研修室に連れていかれて
私は座らせられて 用紙を一枚前において
「経緯を書きなさい」と言った。
私は涙で滲んだ目でその用紙を見つめた。
こんなに悔しい思いをしたのは生れて初めてだった。
納得のいかないことで情けなくなって
自分は何をしてるんだろうって…虚しくなった。
私が書きあげた報告書に目を通した上司が
私の肩を優しく叩いた。
「平野くんもこれでデパート社員の一員だね。」
私は上司の顔を見上げた。
また目が潤んで 恥ずかしいけど涙が落ちた。
「よく耐えた えらいぞ。
この根性なら ちょっとやそっとのクレームの対応は安心して任せられるな。
これからもうどうしてもダメだと思ったら
俺呼んでくれていいから。」
社内用のPHSの番号を教えてくれた。
「はい……。」上司の優しさが 心に浸透していった。