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卒業式の立て看板が眩しかった。
スーツに身を包んだ我が子の卒業を祝う親たちの間を
翔夢を抱いた私たち一向が通り過ぎる。
きっと秋杜の姉とかだと思われてるだろうね。
「可愛いですね~」抱かれた翔夢を見て
目を細めてくれた人も多かった。
着席するころには 翔夢は眠りだして ホッとした。
吹奏楽の静かな曲の中 いよいよ高校生として最後の日になった
秋杜が堂々と歩いてきて
その素敵さに私は高校生の秋杜をしっかりと目にやきつける。
長い式が終わって 第二部がはじまった。
一年間の三年生の日常の中に
萌の写真が映し出された時 拍手がひとクラスからわきあがった。
「萌~~」と声が聞こえた。
誰もがきっと萌を知っていれば胸が熱くなるだろう。
萌とはいろんなことがあった。
多分秋杜の心の中には 萌の居場所があって
そこだけは私じゃない違う人が住んでいる。
でも……そこは秋杜の大切な場所だから……私はそれを否定しない。
その秋杜の優しさが好きだったりするから
会場が笑いや拍手歓声に包まれて とうとう静かに寝ていた翔夢が目を覚ます。
「ン~~マンマ~」翔夢はそう私を呼ぶと胸に顔を押しつけて掻いた。
「もうちょっと我慢してね。」
翔夢の赤くなった頬を撫ぜた。
卒業生の退場になって 会場の手拍子も大きくなった。
その音に翔夢がビクついた、
「大丈夫だよ・・・・。」
「マンマァ~~」
翔夢は完全に私の名前を制覇している。
愛しさがこみあげる。
秋杜のクラスがやってきた。
向こう側の秋杜はめちゃめちゃ笑顔で私を見たから
私も笑顔でかえした。
「パッ…パ~~ァ~」その時翔夢がはっきりと言葉にして
秋杜の顔を指さした。
慌てて私は翔夢の小さい口をおさえた。
周りがその声に私たちを注目する。
その時
秋杜が私から翔夢を抱き上げた。
周りがざわついたけど秋杜は私に手を振って
「教室に来て。」と言い残し翔夢をいつものように
片手で抱きながら体育館を出て行った。
「どうしよ……」
私が由美ちゃんを見ると
「もう堂々としてていいのよ。」
そう言って私の背中をたたいた。
翔夢を思いがけない形で秋杜に連れていかれて私は動揺していた。
教室に連れて行ってどうする気なのか……
ママと由美ちゃんと階段を三階まであがる。
各教室は静かになっていて
廊下には親が溢れていた。
その中を歩く私は心臓が壊れそうなくらい緊張している。
秋杜のクラスの前
軽く頭を下げながら
親の間を通り過ぎて 教室の様子をうかがうと
担任が話をしていた。
秋杜と翔夢は同じ顔をしてその言葉に
耳をすましているのが微笑ましい。
「可愛いわね~~」友達同士の親がそう言っている。
「秋杜くんでしょ?国立簡単に入れそうなのに
専門行くって~もったいないわよね。」
そんな声も聞こえてきた。
「赤ちゃん似てるけど…甥っ子くんか何かかしらね~」
その時後側に座ってた子が ドアを開けた。
後から押されて 勢いで私も教室の中に押し込まれる。
高校生の匂いがする……。
何とも言えない制服の匂い・・・・。
「マンマ~マンマ~」私の姿を見つけた翔夢が手を伸ばしたから
私は慌てて 翔夢を迎えに秋杜のそばに行った時
秋杜が急に立ちあがって
「紹介します。俺の愛する奥さんと……息子です!!」
そう言って私の肩を抱き寄せた。
教室の中は一気にシ―――ーンと張りつめた空気に変わった。