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それから何がなんだかわからなくなった。
なんとか 病院まで我慢して
分娩台に乗って 安心して
消毒をして入って来た秋杜に先生が
「おとうさん 準備はいいかな。」と言った。
私の声はもう悲鳴に近かった。
助産師さんが
「もう少しよ…力を抜いて静かに呼吸しましょうね。」と言ったから
必死にその言葉に従った。
秋杜は私の手を握りしめた。
「よし よく我慢したね~思いっきりいきむよ!!」先生の声に
今まで必死に我慢していたいきみをやっと我慢しなくていいんだって
「ウ”””~~~~~~~」今まで聞いたことのない自分の声だった。
「おとうさん 頭見えてきたよ。」先生の言葉
「さ~~もう一回思いっきりいきむよ!!」
「春湖…頭…見えてきた!!頑張れ!!もう少しだぞ……。」
少しいきんだところで 助産師さんが
「力ぬいて静かに呼吸しますよ。は―は―」
私の胸を静かに優しくなぜた。
なぜか一緒にはーはーしてる秋杜が おかしかった。
「生まれるぞ~~!!」先生の声がして
「オギャーオギャー」元気な泣き声が聞こえた。
「お疲れ様 おっきい男の子だよ~~~これはおかあさん大変だったな~」
そう言うと先生は大きな塊を私の胸の上にあげた。
「キャ……」
愛しさがこみあげる……。
秋杜と私の……愛の結晶だった。
「男か~~俺のライバル登場だな~~」そう言うと秋杜は
目をゴシゴシと拭いて
赤ちゃんの背中にキスをした。
「私がおかあさんだよ……。」
「俺がおとうさん……。」
秋杜は私の額の汗をタオルで拭ってくれた。
「ありがとう……お疲れ様……。」その言葉に胸が熱くなった。
赤ちゃんにおっぱいを含ませると何とも言えない力で
吸いついた。
「あ・・・俺の・・・・」と言いかけて 秋杜が頭をかくと
先生と助産師さんが爆笑した。
「これから…しばらくは赤ちゃんのものよ。」
「あ…はい…そうでした……。」秋杜の言葉にまた爆笑
「秋杜ったら~~」
幸せの塊を抱きしめて 笑いが広がる分娩室。
赤ちゃん…やっぱりあなたはいい子だね……。
おとうさんの愛情を一杯もらって……
あなたの存在がみんなを笑顔にするんだよ……。
私がおかあさん……
これから……よろしくね……
痛いくらいおっぱいに吸いつく赤ちゃんを 複雑な顔で見ている秋杜も
ものすごく愛おしかった。
先生たちが後を向いてるスキに 秋杜にキスをした。
予定日よりずいぶん早い朝
怒涛のように時が流れて
私は愛する人との愛の結晶を胸に抱く………。
母になった……その感動で一杯だった。