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「大丈夫よ。気をしっかりね。
もうすぐ生れるんだから。」
中年の女性に抱きかかえられた。
「今 救急車来るから安心して。」さっきの女性が言った。
「すみません。ありがとうございます……。」
短くなった激痛の間隔が 育児書で読んでいた陣痛なのはわかった。
「破水して……しまったけど……大丈夫……?」
中年の女性に聞いた。
「大丈夫よ。救急車がきてくれるわ。
すぐに病院に連れて行ってくれるから……」
女性はそういう背中をさすってくれた。
秋杜……早く来て……
書類を渡さなければいけなかった。
私が運ばれてしまったら書類を渡せなくなるから
救急車のサイレンが近づいてきた。
気が狂いそうな激痛が襲いかかる。
数人の救急隊員が降りてきた。
中年の女性が
「陣痛の間隔が短いから すぐ出産しそうですよ。」
そう伝えてくれた。
「頑張って!!私もそうやって子供を三人産んだんですよ。」
そう言って私を救急隊員の託してくれた。
「ありが・・・・とう・・・」
知らない女性だったけど この二人が止まってくれなかったら…
どうなっていただろう……。
「は…春湖!!!!」
秋杜の声がした。
間に合ったよ……
「あ…これ……忘れ物だからね……。」秋杜に手渡した。
よかった……これで安心……
「じゃあ 行ってくるよ……約束守れなくて…ごめんね……。」
学校に行く時間の出産になることを詫びた。
「一人で大丈夫だから早くいきなさい。」
救急隊員がドアを閉めようとした時 秋杜が乗って来た。
「君……いいのか?」厳しい声がしたから
私は慌てて
「弟なんです……。」と答える。
一歩間違えれば きっと秋杜は
「子供の父親です。」そう言いかねなかった。
今まで静かに守り通してきたものを失うわけにはいかなかった。
こんな状況の中での咄嗟の判断に 痛みが引いた短い時間で自分を褒めてやった。
「じゃあ出発するよ。」
救急隊員が言うと けたたましいサイレンを鳴らして救急車が動きだした。
通っている産婦人科の名前を告げるとまた激痛が襲ってきた。
グイグイ……
ものすごい力が下がってきてる。
「生まれちゃうよ・・・・・!!」
手を握った秋杜に私はそう叫んだ。




