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最近張り気味のお腹で 赤ちゃんがよく動いた。
男か女かは秋杜の意向で生れるまでの楽しみにとっておいた。
夜中はトイレに何度も起きて 睡眠不足が続いたけど
育児書にも書いてあったから そんなに心配はしなかったけど
秋杜を送り出すことができない日もあった。
「また…やっちゃったよ……。」
秋杜が出かけて行く時間を5分過ぎたところで飛び起きた。
最近 秋杜が出かけてから目が覚める。
「いってらっしゃい」を三日くらい言えてなかった。
玄関の靴箱の上に封筒が置き去りにしてあった。
あ・・・これ・・・
昨日秋杜が 今日提出するって言って書いていた書類だった。
忘れたらめっちゃ怒られるんだって言ってた。
「忘れちゃったんだ……大変……。」
携帯に電話したけど 秋杜はもうマナーにしてるのか
出なかった。
今なら 間に合う
私は急いでマタニティドレスに着替えた。
髪の毛をポニーテールに結んでスッピンの顔があんまりだったから
だて眼鏡をかけて飛び出した。
眩しいわ~~
久々の日差しに目が眩しくて開けられなかった。
地下鉄の駅までは15分 まだそんなに遠くには行ってないだろう。
早歩きをしたけど秋杜の姿は見えない。
足には自信があるからね。
私は小走りに街を走り出した。
妊婦が走るのだから 周りは驚き顔だった。
気持ちい~~っ
久々に風を感じて 私は自分がもうすぐ臨月の妊婦だって忘れている。
秋杜は絶対 立ち会いたいと言ってて
お腹の子に
「絶対 夜生れるんだぞ~」と言い続けていた。
しばらく走ったとこで携帯が鳴った。
「あ……もしも……」
「春湖?どこ?家にいないのか?」
「あ…秋杜 書類忘れて行ったから今地下鉄の駅の近く。
どこにいるの?」
「家・・・・。」秋杜の言葉に驚いた。
「家?何で~~~!?」
「物置からチャリ出してたんだよ。
今日から急いで帰って来れるようにチャリ通しようって
そこまでこれから行くからさ タイヤに空気入れてからすぐ出るから
そこ動くな。
わかったか?」
私はせっかく気持ちよく走っていたのに……少し残念だった。
「な~~んだ~~裏にいたんだって
私ってバカだよね~」
少し息があがっていたから
何度も深呼吸をした。
その時だった足元になま温い感覚が広がった。
あれ?
まるでおしっこをもらしたように私の足元はべちゃべちゃに濡れている。
あ・・・・・
すれ違う人が怪訝な顔で私を見ている。
急にガタガタと冬でもないのに歯が鳴りだして
「破水?」
そう言葉にしたらいきなり お腹が痛くなってきた。
「誰か・・・・・」
私は歩いている人に声をかけたけど
かかわってられないっていうように見ない振りをして
足早に通り過ぎた。
「すみません・・・・・」
痛みは激痛と変わっていった。
陣痛?
悪寒と痛みで私は地面にしゃがみこんだ。
一人の女の人が
「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。
「す…みませ…ん…。お産が…始まったみたいで……。」
痛みが少しひいた。
「救急車 呼びますね。」
女性の声を聞いてホッとしたら また激痛が襲いかかった。