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「光太郎さん」
紙袋を手にした光太郎は 髪の毛が金髪だった。
「こんな雪の日に…って見てたら春湖だった。
元気だったか・・・?」
光太郎が近づいてきた。
「はい。元気いっぱいですよ。光太郎さんは?
ミュージカルの方はどうですか?」
「毎日練習公演の繰り返しで 今週からやっと遅い正月休み
どこもいくとこないから 家に帰ってきたよ。
久々に帰ったら やれ汚いとか不潔くさいとか ねえちゃんたちにクソミソに
やられて……いたたまれないからショッピングしにきたよ。」
「厳しいダメ出しですね。」おかしくて笑った。
「送って行くよ。」
「あ…いえ…また写真とられたら大変ですもん……。」
「俺は……少し話したいな。
時間ないか?」
私も光太郎と話しがしたかった。
秋杜になんて言う?
嘘をつくのはもうやめようってでも
秋杜はどう思うだろう。
「ちょっと待っててください。」
秋杜に電話をしたけど つながらなかった。
「車で送るよ。花束が凍っちゃうぞ。
駐車場に車とってくるから ちょっと待ってて。」
「あ…はい……。」
断る理由もなく 私は光太郎の言うまま車が来るのを待っていた。
秋杜の携帯にメールをした。
『光太郎さんと偶然会いました。少しだけ話をして帰ります。
車で送ってくれるので 心配しないでね。
帰ったら 詳しく話すから。』送信
きっと秋杜は おもしろくないんだろうけど……
光太郎とは私も このまま別れるのはなんだか悔いを残す気がした。
車が停まって 光太郎が助手席のドアを開けて
「乗って。」と言った。
私はお腹をかばいながら 光太郎の車に乗り込んだ。
「少し太ったか?」
気にしてることを 光太郎はズバッと言った。
「ひどい……。気にしてるんだから。」
「あ・・・ごめんごめん~~乙女心が俺にはわからないから~~」
妊娠してるの…話した方がいいかな…
少しドキドキしてるのは後ろめたさだろうか……。
「私……来年おかあさんになるんですよ。」思い切ってそう言った。
「聞いた。家にあがるまえの玄関で姉ちゃんたちに言われた。」
横顔が相変わらずキレイだった。
「そうですか…、恥ずかしいんだけど……この花束は今日で仕事が
終わりってことだったんです。」
「だと思ったよ。」
少し沈黙が続いて私は 会話を模索していた。
「あ…光太郎さんは?何か変わったことありましたか。」
「いいや~俺は相変わらず一人で枕を濡らしてるけど……。」
「香澄さんは?」
「そこ……ズバリ行くね~~。」
「答えたくなければ…いいんですけど……。」
なんとなくバツが悪かった。
自分だけが幸せなようで…………。
光太郎は益々 男らしく輝いている。
やっぱり普通の人ではないんだよね……。
光太郎の横顔を盗み見しながら……沈黙が続いた。