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朝の診察で先生から退院の許可が下りた。
「赤ちゃんは産む方向でいいんですよね?」
先生も秋杜が高校生と知って 少し不安げだった。
「はい。卒業したら結婚するので……少しの間は
戸籍上は私だけの子だけど……ちゃんと一緒にいることになってます。」
「しっかりとした子のように思えたから…大丈夫ですね?」
先生も最後の語尾が上がったのは
やっぱり心配しているからだってわかる。
「信じてますから。」
「それはよかった。」先生が笑顔になった。
私は下の公衆電話から家に電話をかけた。
由美ちゃんが出て
退院になったことを伝えた。
「よかったね~~春湖~~!!
なんか美味しいもん作らないと~~~!!
何時に迎えに行ったらいい?」
「昼食はいらないって言ったからその前にきて。
由美ちゃん秋杜は学校行った?」
「学校行ったわ。なんだか昨日も話しの途中で寝ちゃったし
なんだかずい分疲れてるみたいで……」
あの話はできたのかな……
「そう……。」
「今日の夜の便で春パパとママが帰るから
よかったわ いろいろ話したいこともあるし
秋杜にも早めに帰ってくるように言ってあるの。」
いろいろ話ね……きっとあの話……
「じゃあ昨日は秋杜とは 話をしてないの?」
「したら ブチギレたわ~~」
由美ちゃんが困った声で言った。
「とにかく迎えに行くね~待っててよ~」
そう言って電話を切った。
秋杜がブチギレた……なんかホッとした。
きっと離れて暮らすことには 承諾しなかったんだろう
私も闇の存在であっても
秋杜のそばで 赤ちゃんの誕生を待ちたいし
秋杜のそばで 赤ちゃんを育てたいと思ったし
一緒にいたい
離れて暮らすのが正解であっても……
そばにいたい
それが私の答えだった。
秋杜の携帯にメールをした。
『昼で退院します~帰ってくるの待ってるね。』
これを読む時の秋杜の顔を想い浮かべて 嬉しくなった。
用意をしてると
同室の人が
「退院?」と言った。
「はい…。お世話になりました。」私は頭を下げた。
病室の人たちは仲良く話したりしてたけど私はその輪にははいらなかった。
秋杜のことを詮索されるのがイヤだった。
でもいろんな話を三人がしてるのを聞きながら
すごく勉強になったし 思わず笑いそうになったりして
退屈はしなかった。
「つわりがよくなったら 食欲が出て 太るから
気をつけてね。私は上の子の時 体重増えて 妊娠中毒症で入院したの。」
「あ…そうなんですか。
私はまだ妊娠に無知なので…それは……」
その人は詳しくいろんなことを教えてくれた。
「そうなんですか。」
今は三人とも切迫早産で入院している。
私よりもはるか前に母になる人たちだった。
「頑張ってね!!」
「ありがとうございます!!」
多くは聞かなかったけど もっと堂々としていられるなら
仲良くなりたかったなって思った。
秋杜と結婚するまでは 戸籍上は未婚の母だから
またここに入院する時は 一歩距離を置かないといけないのが寂しかった。
子供にも肩身の狭い思いをさせてしまうけれど
それはいつかこうだったんだよって笑って話してあげられることだから
秋杜のそばに帰る
親に理解してもらうには どう話したらいいんだろうか
私もしっかりしなければ……
闇の存在とか言ってらない。
私が守るものは 秋杜と子供と三人の生活なんだから
しっかりしないと
そう言い聞かせていた。