001
病室に向かう廊下で 尚ちゃんに会った。
「おめでと~~尚~~」
三人は手をとりあって喜んだ。
尚ちゃんとパパはサッカー部のチームメイトで ずっとずっとちっこい頃からの大親友。
そしてその尚ちゃんの奥さんの由美ちゃんと うちのママが中学からの同級生で
ほぼ同時期の高校生から 付き合いが始まって
いつも四人で遊んでいたという 仲良しカップル。
「春湖~~お待たせしたけど~春湖の彼がやっと生れたよ~」
尚ちゃんが私を抱き上げる。
「無理~春にはゆうくんがいるから~~もう結婚すんだからね~」
私が足をバタつかせると
「俺もさっき聞いてめっちゃ動揺中なんだけどさ・・・・」
パパが口を尖らせた。
「ダメだぞ~~春湖はうちの王子と結婚すんだからな~~ぁ~」
尚ちゃんがそう言って私のほっぺにキスをした。
尚ちゃんと由美ちゃんはずっと子供ができなくて
私のことをもう一人のパパとママのように可愛がってくれていたから
私も二人が大好きだった。
由美ちゃんのお腹の子が男の子とやっとわかったら
みんなで王子と呼んだ。
「尚ちゃん 春は無理だから 王子と同じ年の赤ちゃん見つけてね。」
私は尚ちゃんのキスの嵐から逃れるように顔をよけた。
ゆうくんは あさがおくみの人気者で 瞳ちゃんや美穂ちゃんとか飛鳥ちゃんとか
とにかくたくさんの女の子がみんな大好きな
競争率めっちゃ高い戦いの中で
おとといブランコで 告白されたんだもん~~
絶対 ゆうくんと結婚するから~~
それに尚ちゃんちの王子は まだ赤ちゃんだし
「春~年下には興味ないよ~~」と言った。
そう・・・ずっと私は 年下には興味無~~
王子はめちゃ可愛かったけど……私は忙しかったから~~
でも由美ちゃんのおっぱいを吸ってる王子は 可愛かった。
「由美ちゃん~~春も赤ちゃん欲しい~~。
ママ 春にも妹 産んでよ~~。」とママに言った。
結局私にも王子にも 妹弟はなく
一人っ子のわがまま放題で 生きていくのだった。
「春湖 ダッコしてみようか~~」由美ちゃんがベットに私を座らせて
壊れそうな王子を抱かせてくれた。
「うわ~~ぁ~」私は大興奮で満面の笑み
パパと尚ちゃんは デジカメやら携帯やらビデオカメラを回した。
その時だった。
小さな王子の目がしっかり開いて じ――っと私を見つめた。
「由美ちゃ~~ん 王子が春を見てるんだけど~~」私は慌ててそう言うと
みんながどれどれと近づいてきて
「うわ~ぁ ちょっと~~」と大騒ぎ。
「王子~春湖だよ、 王子の将来のお嫁さんだかんな~~」
尚ちゃんが言った。
みんなが爆笑してる中で 私だけは・・・・
王子の目に吸い込まれそうな気がした。