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「ただいま~」元気な声が玄関に響く。



  帰って来た!!



心配ごとが一つもなかったら こんなに離れていたからすごくうれしかっただろうに

私の心には不安の雲が覆って 緊張感が増してきた。



「おかえり~~」


できるだけ元気に大きな声で叫んだ。



玄関ホールに出て行くと秋杜が抱きついてきた。



「会いたかった~~めっちゃ…会いたかった~」

秋杜はそういうと私の頬に音をたててキスをした。



「うがい~~うがいしないと~~」

いつものように私は言った。



「春湖~~俺 もう気が狂いそうだった。」


そう言うと私の背中に抱きついて洗面台に向かって一緒に歩きだした。



「ん・・・?春湖 やせた?」



  ドキン



「あ…具合悪かったから……ちょっとやせちゃった。」



洗面所の鏡にうつった自分の顔に目を伏せた。



「どうした?」秋杜の息が耳にかかる。



「ん…やつれてるから恥ずかしいんだもん……。」



恐る恐る顔をあげると 秋杜が鏡越しに私を見ていて目があった。



「化粧…濃すぎ……」


私はまた目を伏せた。



「だって…素顔めっちゃヤバイから……。」



「ヤバくても俺はいいの。

病院行ったか?」



秋杜がうがいを始めた。




「うん……。」




「じゃあ……今日は襲うのやめる。

我慢すっから~体休めて 早くよくなれよ。

でも…キスくらいはいいよな?」



私だって…辛いんだよ……。

秋杜と一杯抱き合いたかったのに……。



甘いキス攻撃 頭がぼーっとしてきて……このまま波にのまれたくなる。




  赤ちゃんいるんだよ……。



私は倒されたソファーの上でお腹をかばうように手をあてた。

咄嗟の行動に 私に母になる準備はできてるんだって確信した。



長いキス……

熱い吐息

溶けてしまいそうな秋杜の唇



「う…ヤバイ…ヤバイ……これ以上も~~たえらんね~~

春湖食えないから ごちそう食う!!」


そう言って私を優しく起こしてくれた。




「ごめんね~秋杜……。」



「治ったら…この分春湖に貸しな~」



  秋杜の笑顔が 眩しい


まだ少年の顔 そんな秋杜が父親になるなんて受け入れられるのかな




「めっちゃごちそう~

春湖 作ってくれたのか?」嬉しそうな秋杜に嘘をつけず



「一世さんが手伝ってくれて私具合悪くて…」



「あ…そうなんだ…なんも気にすることないのに…

俺はおまえがいればいいんだから……」



優しく抱きしめてくれた。


「ごめんなさい……。ホント楽しみにしてたのに……。」


悲しくて泣けてきた。



「なんで泣くの?そればっかじゃねーんだぞ。

俺のことバカにしてる?そりゃ…俺は健康な男子だからな~~

だけど…春湖が一番大事なんだ春湖が喜ばないと つまんないからな~」



いつこの事実を告げたらいいんだろう……



「一世さんのごちそういただこう~

うわ~~カツカレーだ~~春湖 皿 持ってきて~~」



鍋を火にかけた。



「後で お礼の電話しなきゃ…」

秋杜が言った。



「うん…電話する。」



ひさしぶりに会う秋杜は少し背が伸びた気がした。

目に少しかかる前髪をかきあげる。



少年のような顔と大人になりかけた顔と交互に見せてくれる。




「春湖 ご飯入れて~」



秋杜が皿をよこした。



私は恐る恐る 炊飯ジャーを開けた。

息を止めて 素早く皿にご飯を持って 閉めた。



  はぁ・・・はぁ・・・



「何?春湖」 秋杜が私の行動を笑う。



私も笑顔で答える。



自分の皿には ちょっとだけもった。

その時 

「春湖~」


秋杜の声に一瞬 反応した私の鼻に 炊きたてのご飯の匂いが突き刺さった。




   う・・・・ぐ・・・



思わず皿を落とした。




  ガシャ~~ン!!!



皿が 粉々に割れて 私は洗面所に顔を埋めて激しく嘔吐した。

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