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秋杜が帰ってくる朝 最高に最悪な体調だった。
フラフラする
でももうダラダラしてはいられないから私は必死に起き上がって
シャワーを浴びた。
17歳の誕生日
去年の分もたくさんおめでとうを言わなくちゃ。
しばらく食事という食事をとってないからお腹がへこんでしまった。
ついこの間までは下着にお肉がのってて
秋杜がそれをつまんで
「食いて~~ぇ~」と噛みついてた。
鏡の中の顔も ひどいものだった……
赤ちゃん…大丈夫かな…栄養とれてないだろうな……
秋杜だってビックリするわ……。
そんな冴えない顔に必死に化粧をした。
ゆるくなったジーンズにベルトをつけた。
秋杜の大好物のカツカレーを作る余力もない……
きっとあの匂いを嗅いだら また激しく嘔吐する自分を想像すると
気が滅入ってきた。
携帯が鳴ったら一世さんだった。
「どう?ちゃんと食べれてる?辛かったら行くわよ。」
優しい声に泣けてきた。
「待ってて~今日夫休みだから子供預けてすぐ行くわ。」
とうとう一世さんにヘルプを求める。
「大丈夫?ここまで食べれないと病院行かないとダメよ。」
げっそりとしてる私の頬を撫ぜた。
「一世さ~~ん……今日 秋杜の誕生日なのに…
私 何もできなくて……どうしよう……。」
柔らかい一世さんの胸に顔を埋めた。
優しい柔軟剤の匂いがした。
「わかったわ!!何 作ってほしいの?」
そう言うと一世さんは私のリクエストをメモに書いて
「ちょっと行ってくるわ。」
そう言うと車で出て行った。
「ありがとう…一世さん……」
私はそのままウトウトとソファーで眠ってしまった。
眠くて眠くて仕方がない……。
それからしばらくしてカレーの匂いで目が覚めた。
「あ……」慌てて飛び起きた。
「また具合悪くなるから どっかに避難してたら?」
キュルキュル・・・・・
「お腹…空いた……すごく食べたい……」
私はカレーが食べたくて仕方なくなった。
「大丈夫?食べれるなら食べてよ!!
体が欲しがってるんだから~~」一世さんは大慌てで小さな器に
カレーを持ってきてくれた。
口にしようとした瞬間に今までいい香りだったのが
鼻の先にご飯の匂いと一緒に交じって 吐き気をもよおした。
慌ててトイレに駆け込んで 空吐きして
苦しくて切なくて……ボロボロになって出てきた。
「病院行こう。ダメだわ。」一世さんが言った。
「はい……」もう切なさが限界だった。
「でも明日にします……。今日…秋杜に話します。」
「大丈夫?」
「はい……。ちゃんと話します……。
赤ちゃん心配だから……明日病院行きます。」
「じゃあ…9時に迎えにくるわ。
多分入院になるから なってもいいように用意しておいて。」
「はい……。」心細くて泣きそうだった。
「彼にも責任があるんだから 一人で背負っちゃダメよ。
年上だからって春湖ちゃんの気持ちもわかるけど……子供は二人の子なんだから
しっかりと彼にも責任とらせないと……
わかってる?」
「はい……心配かけてごめんなさい……」
一世さんは私を抱きしめて優しく頭を撫ぜてくれた。
それからまた私はベットでぐっすりと眠った。
携帯が鳴って出ると一世さんだった。
「もうそろそろ秋杜くん帰ってくるから 起きてキレイにして待ってあげてね。
用意は終わったから 頑張って温めて お皿にもってあげて。
冷蔵庫にケーキーもあるから~きっと
素敵な誕生日になるわよ。」
「ありがとう一世さん……感謝します。」
「じゃあ明日 迎えにくるから用意しておいてね。」
「課長にもよろしく伝えて下さい。」
降りて行くと 食卓の中央に可愛らしい花が飾ってあった。
オードブルの上にサランラップがかかってて
二人分のグラスと取り皿まで用意してあった。
人の優しさにこれだけ感謝したことはなかった。
一世さんとの出会いが私の財産の一つ
「ありがとう…素敵な誕生日にします。」
携帯が鳴った。
秋杜からのメール
『これからタクシーで帰る~』
私は深呼吸をした。ちゃんと話そう……。
鏡の中の私は やつれていたけど…一世さんのおかげで幸せそうに見えた。