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「大丈夫?なんかめっちゃがおってない?」
先輩がカウンターに座った私に声をかけた。
「すみません…具合悪くて…食欲なかったもんで……」
「風邪?」
「お腹の調子が悪かったんです。」
「すごい痩せちゃったんじゃない?」
体重が一気に3キロ減った。
普通なら嬉しくて小躍りするけど 鏡の中の私はあきらかに
病人だったから……
明日は秋杜が帰ってきて誕生日で……
まだプレゼントも買えてないし……。
先輩たちに労わられながらなんとか過ごしたけど
「連休にしてしっかり休みなさい。」そう言ってもらって明日も
休みにしてもらった。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
社会人として…
なんて自覚のたりないことなんだろう。
風邪や病気じゃなくて
これが妊娠だって言ったらそう考えると先輩たちの好意に
申し訳ない気分になる。
帰り道
秋杜のプレゼント……
そう思ったけど…ご飯もろくに食べてない私には
無駄な労力は使う気にならない。
食品売り場のいろんな匂いも今の私には 悪臭でしかない……。
とりあえず近くのスーパーで
またグレープフルーツを買って帰る。
家に帰ると
メールの着信音が鳴った。
秋杜からだった。
『春湖に見せたい写真一杯とったから』
それは真っ青な海だった。
沖縄の海は 色が違う
パラダイスのようだった。
それから夕陽の写真
今日は夕陽を眺めながらの最後の夕食らしい
『春湖と一緒にみたい。
絶対 連れてくるって誓ったからな。
明日 帰るから。覚悟して待ってろよ~』
「秋杜ったら~」
らしくて笑っちゃったけど・・・・
すぐに気持ちは落ちこんだ。
覚悟してって・・・・
私はお腹をおさえた。
だって赤ちゃんがいるから……
「どうしよう…隠し通せることじゃないわ。
なんて言ったらいいんだろう。」
去年は萌のことで一緒にいられなかった誕生日だった。
『おめでとう』それさえも言えなくって……
だから明日は二人の心が一つになって初めての秋杜の誕生日だった。
17歳で秋杜はパパになる・・・・・。
「どうしよう……」
考えたところでいい案なんて出てきやしないし
でも一つだけは譲れない。
「子供は絶対に生みたい……。」
エコー写真を見た。
ご飯粒の赤ちゃん……
世界一大好きな人との間に実った命
「あわてん坊さんなんだから…もうちょっと待ってくれればいいのに……」
ただこのことで秋杜の将来を縛りつけるのが辛かった。
明日 秋杜が帰ってくる……。
本当なら嬉しくて仕方ないのに……気持ちは落ちこんで行く。