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秋杜の誕生日が近づいてきたある日のことだった。
由美ちゃんから電話がきて秋杜が話していたのは進路のことだった。
「わかってるよ・・・・まだ考え中・・・。
はいはい・・・わかったって・・・決めたら俺から電話する。」
そう言うと私に受話器をよこした。
「もしもし?」私が電話に出ると
「秋杜?ん?春湖?何あいつ逃げたの?」
「二階行っちゃったよ~」
「あの子は全く……」
「どうしたの?」
「担任から連絡来てね進路がまだ決まってないようだから
秋杜と話すように言われたの。
大学行くとばっか思ってたから なんでいきなり決まってないなんて言うのか
だってこの高校はいったら 大学でしょ?普通?」
「そうね~秋杜なら国立狙えるでしょ~」
「だから先生も何を考えてるのかわからないって言うの。
悪いけど春湖 ちょっとあいつさぐってくれない?
うちの仕事を継ぐったって言ったって 大学行く時間はたっぷりあるんだし~
勉強嫌いとかしたくないって子なら無理強いはしないけど
あの子は出来る子だから……」
由美ちゃんは困惑していた。
私はもしかしたら自分のせいなのかなって思った。
「秋杜~」
二階に上がると秋杜はもうすぐ出かける修学旅行の用意をしていた。
「誕生日の日に帰って来れるからよかった。
今年は一緒にお祝いしようね。」
動いていた秋杜の手が止まって
あ…また萌を思い出させてしまった?
一瞬私も言葉がつまった。
それからまた秋杜の手が動き出して
「うん。夕方になるけどよかったよ。」と言った。
「由美ちゃん心配してたよ。」
「うん。」
「大学行かないの?」
「まだ考え中~」
「行かなかったら他に何するの?」
「考え中~」秋杜は話をはぐらかした。
「もしかして…私のことで進路悩んでるなら…私は大丈夫だからね。
秋杜が卒業するまでだってずっと待ってるから……。」
秋杜は立ち上がって私を抱きしめた。
「春湖のことじゃないよ。
気回すな。」
「ほんと?秋杜の人生の負担になりたくないから……」
「負担になんかなるか?おまえは俺の全てだから。」
ひさしぶりに囁いてくれた甘い言葉だった。
「秋杜…なんかひさしぶり~そんな優しいこと言ってくれるの~」
嬉しくてしがみついた。
「え?そうだったか?」
そうだよ…萌の手紙から秋杜はずっと変だった……
仕方ないって…そう思ってたけど
なんだか急に秋杜が大人びいてしまって寂しかった。
「大好きだよ。」
「俺も……いない間浮気すんなよ……。」
「バーカー私がどんだけ好きだか知ってるくせに~」
「わかってるよ……。」
唇が触れる。
「浮気しないでね。」
「バーカー」秋杜が笑った。
秋杜の部屋の床は少しひんやりしていた。
でもすぐに秋杜の言葉と体温で温められて 私たちは愛し合う。
ひさしぶりだった……。ずっと少し寂しかった。
抱かれていても…キスしていても……
「愛してるよ……」秋杜は何度も囁いた。
だけど今日は
心が秋杜の言葉で……満たされていく……
秋杜によって どんどん潤って行く自分がうれしかった。