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「少し休んでから下に行くよ。」
そう言って光太郎はベットに横たわった。
「うん……じゃあ私は下に行ってるね。」
「春湖……」
エレベーターに乗ろうとすると 光太郎が名前を呼んだ。
「はい?」
「素直になるってさ…難しいことだよな~。
秋杜は……俺よか何倍も…大人だよな……。」
「日々成長してるんだと思います。」
「あはは…幸せになれよ……。」
「あなたも……。いつも応援してるわ……。」
私は開いたエレベーターに乗ってドアを閉めた。
ため息が出た。
本当は……本当は…光太郎を…好きになりかけてたんだ私……。
だけど…それは間違ってるってわかってたから……
光太郎は前の人をひきずって
私は秋杜をひきずって
寂しいもの同志が……傷をなめあっている……。
だけど光太郎の胸の中はいつもあたたかくて……いい香りがした。
バイバイ……
進む方向を間違えなくてよかった……。
このエレベーターが開いたら……もう引きずらない……。
秋杜のところに帰ろう……。
エレベーターが開くと 社長が立っていた。
「あ・・・社長・・・・。」私は緊張感に包まれた。
「春湖ちゃん…こんな騒動に巻き込んで悪かったな。」
「いえ……」
「デパートにも相手が君だろうっという電話もずい分入ってたり
必要以上に受付を遠目に見てる人が多かったから……他の三人には
申し訳なかったけどそこのとこうまくやってくれてた。
本当に申し訳なかったね。」
「いい経験をしました。そう思うと楽しいです。」
笑顔で答えた。
リビングでは子供たちの走り回る声がしていた。
一世さんを見つけて
そろそろ帰ると耳打ちした。
「食べて行きなさい。春湖ちゃんの分も作ったのよ。」
「ごめんなさい…秋杜が…秋杜が待ってるから・……。」
「あ…そうだったわ。送って行くわ。」一世さんが優しく微笑んだ。
「何か大事な話があるようだから…私はタクシーで帰ります。」
「そう?じゃあ少し待ってて夕飯の分 持って帰って。
秋杜君と一緒に食べたらいいわ。」
「ありがとうございます。」
しばらく子どもたちを遊んだり 社長と話したりしてると
インターフォンが鳴った。
「ごめんなさい~~春湖ちゃん出て~~」
社長の奥さまがそう言ったから玄関のモニターを確認すると
少しぽっちゃりとした眼鏡をかけた女の人がうつった。
「どちらさまですか?」
「パープルレッドの増岡と言います。」と言った。
「少しお待ちくださいませ。」
私はキッチンにいる奥さまに
「パープルレッドの増岡さまですが?」と聞きに行くと
「あら増岡さんって・・・・・」
一瞬シーンとなってから
「あ~~~!!!香澄さん!!??」とみんなが騒ぎだした。
幸子さんが玄関のカギを開けて声が聞こえてきた。
「ご無沙汰しています。あの……ルイトはいますか?」
とても焦った様子だった。
「さっき突然帰ってきて…今部屋にいます。」
「すみません…ちょっと話したいので…いいですか?」
「それは全然~~どうぞどうぞ~」
香澄さんがスリッパに履き替えたら エレベータが開いて光太郎が出てきた。
「香澄・・・・。」
「ルイト!!!何を考えてんの!?」
「心配してくれたんだ~~。わざわざ来てくれて~~
もう俺のマネじゃないんだからさ…気にすんなよ……。」
そう言うとみんなに向かって
「俺……アメリカにわたって一人でやって行こうと思ってんだ。
ミュージカルとか勉強して…向こうで活躍できる仕事をしようと思ってる。」
光太郎の爆弾発言に 家じゅうに緊張感が走った。