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部屋に入ると一面に街が広がっていた。
「雪解けたな~~」
「そうですね。雪解けは遅かったけど……これからはこの窓は
緑色が増えるんですね。」
「そうだね~。」
光太郎は伸びをしてフーッと息を吐いた。
「報告しなくちゃ……」
「ん?」
「秋杜が戻ってきました……。」
「マジ?」
「光太郎さんのおかげだと思います。」
「殴ったから?」
「噂になったからです。すごく嫉妬して…おさえられなかったって……」
「そっか素直になったんだな~
あの年頃っておかしなとこにこだわったり大人になりたくて
素直になりたくないんだよな~俺もそういうとこあったし……
わかる気がする……。」
「だから噂のことは気にしないで……。
あの噂のおかげで別れようと思っていたの寸前で逆転したんだから……。」
「別れるはずだったんだ……?」
「一緒にいるのが辛くて 離れようって思ったんです。
私が身を引いたら秋杜はもう少し楽に生きれるんじゃないかなって…
それを遠くから見守って生きようかなって……。」
「そういう小細工はしなくていいよ。
好きならそばにいて離れることはない。相手もいつか心が溶けるんだから……
理解できずに捨てられるのくらい辛いことはないからな。」
そう言うと光太郎は私の頭を撫ぜた。
「自覚ないって言われますよ~」
私が笑うと光太郎も笑った。
「だってさ…可愛いもの愛しいものには触れたいだろう?
春湖は俺にとっては…いつも触れていたい女だから……。」
光太郎はルイトに変わっていた。
「なんだかドラマみたいです……。
ドキドキするから……やめてください……。」
「春湖……本当は俺さ……
春湖を俺のものにしたかったな~偽善者ぶって春湖のそばにいて
だけどさ…心の奥にはいつも悪魔が囁くんだ。
おまえのものにしろって……。」
ドラマのシーンのようだった。
「何…言ってんですか……。」恥ずかしくなって目をそらす。
「俺のそばにいて…俺を支えて……春湖……。」
光太郎の言葉に驚いて顔をあげる。
光太郎のアップは夢のようだった。
「冗談やめて……」私が言いかけると光太郎が私を抱き寄せた。
「少しだけ…こうしていて……。
俺に力を…力を与えて……。」
「あの時と……同じですね……。
私を救ってくれたあの時と………。
光太郎さん……何かあったの?」
光太郎は無言で私を抱きしめている。
「春湖を……あんとき奪っちゃえばよかった……。
そしたらさらって行けたのに……。」
「光太郎さん……抱きしめてこの言葉を言う人間を間違えています。」
「ん?そうか……?」
「香澄さんが正解です。」
「え?」
「光太郎さんが本当に支えてほしい人は香澄さんでしょう?」
光太郎は無言になってしばらく間が空いた。
「私を香澄さんの変わりにしてる……。
あなたも素直にならなきゃ……。ほんと秋杜にそっくりだわ……。
俺様なんだから……怖がることないし……
強引に抱きしめれば……香澄さんの氷も絶対溶けるのに……
自分が本当に抱きしめたいと思っている人を
ちゃんと……間違えないで……」
私は背伸びをして光太郎の頭を優しく撫ぜてあげた。