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俺がフラフラしてる間に春湖の前に現れた男が
まさか芸能人でイケメン俳優でモデルで……夢の世界にいるルイトだったとは……。
それなら知らない男の方がよかった。
ルイトはあまりにいろんなところで見かける存在で
クラスの女子もキャーキャー行ってたけど いい男で俺には持ってない
大人の男の貫禄があった。
春湖とルイト……
「勝ち目ないじゃん~相手は芸能人でイケメンで
芸能人と恋をするなんて カッコよさすぎ……。」
負け犬みたいに俺の心は萎えて行く。
好きな女が目の前にいて 自分のことを愛してくれてるのに
抱きしめる資格のない自分が情けなかった。
このまま今まで通り わがままな自分で
春湖を抱き締めれば簡単に元サヤに戻れるのかもしれない。
昔の俺ならそう出来たかもしれない。
だけど今の俺には とてもできなかった。
いろんなことを考えてる自分がいた。
春湖は次の日も俺の前に顔を出さなかった。
学校に行くと
「なんかね~ルイトの彼女ってさネットで出てた情報によると
駅前のデパートの受付の女らしいよ。」
心臓が縮まった。
「マジ?帰りでも行ってみる?
一言いってやろうか~あはは~~~~」
それは簡単に特定できることだった。
俺はその帰りに問題の週刊誌を買って歩きながら読んだ。
白黒の写真で春湖は後姿だけど……春湖を疑ってる人が見れば
これが春湖なのは一目瞭然だった。
「ちくしょ……これじゃ顔割れんのも時間の問題だ。
書いた奴しっかり春湖のこと調べてるじゃん…」
家の前につくと朝開けたカーテンが閉まっていた。
ドアを開けると 春湖の声がした。
「大丈夫です……光太郎さんは大丈夫?仕事にさしつかいない?
…………はい……こっちはまだ……
怖くて見てないです………。
そんなことしたらお嫁さんの貰い手なくなりますから………
何をバカなこと言ってんですか………堂々としてます……
やましいことないんですから………何を言ってんですか
一世さんやおねえさんたちに言いつけますから……うふふ……
はい……わかりました……また……」
春湖の大きなため息が聞こえた。
光太郎って誰・・・・・。
昨日怒らせてあれから顔を合わせてなかった。
「ただいま・・・・」
春湖は驚いて飛びあがった。
「あ…もうそんな時間なんだ……。
なんかずっと薄暗いとこにいるから…感覚ないわ……。」
「仕事…まだ休みなのか?」
「うん……さっき課長から電話来て……ちょっと騒がしくなってるから
まだ…来ない方がいいって……もう私だってばれちゃってるじゃんね……」
昨日喧嘩したけど春湖は大人だった。
何事もなく俺にそう言った。
「さっきママと由美ちゃんからも…まさかねって電話きたけど……
まさかですって答えたら……言葉失っちゃって……
でも嘘ばっかだから……それを信じてくれる人なんて少ないんだよね……。
課長家族と一緒だったのに……怖い世界だよね。」
俺はクラスの女たちが特定したことは言わなかった。
「あ…そうそう
ママたちにも言ったんだけど…この騒動がおさまったら
ここ出て行くことにしたから……。とりあえず一人暮らししてた時のものは
物置きにしまってあるから……物件見つけ次第ここ出て行くね。」
春湖の言葉に冷えた牛乳を流し込んでいた体がもっと冷えた。
「そ・・・。」それしか言えない俺
本当にそれでいいのか?
春湖は待ってんじゃないのか?
俺が「出て行くな」って言う事を・・・・・・。
それをわかっていても俺には何も言えなかった。
春湖を傷つけすぎて……泣かせすぎて……俺が守るという
自信も喪失されていた。
幼稚園の時 春湖が両思いだった男から 奪い取ってやると燃えたあの日
五歳違いは俺をものすごいガキにしたのに
それでも今よりずっとカッコよかった。
なのに今の俺ときたら
春湖を幸せにできるのは・・・もしかしたら俺じゃない・・・?
そんな情けないことばから考えるようになっていた。
好きな女一人守れない
この騒動の中で心細い春湖を 元気つけてもやれない……。
情けない男になり下がっていた。