王子Side 165
春湖が階段を音を立てて登って行った。
俺はアホみたいに頬を打たれたまま顔をあげることができなかった。
情けない男にはお似合いの図
アイツがルイト……
何気に見ていたルイトが今日はやけに気になりだした。
そんな時にまたよく出てくる
ルイトのCM……
こんな顔して春湖にささやいてんのか
そう思うと嫉妬で胸が苦しくなる。
俺にはそんな資格ねーのに……
だけどわかっているのに嫉妬が膨らんで混乱させる。
俺は萌を選んだんだ……。
実際 萌にも愛想つかされて だけど だからと言って
春湖に簡単に戻ることは
人間として最低なことだと俺はそれだけはしたくなかった。
あの日 萌に会いに病院に行った。
「春湖さん……秋杜のこと大好きなのね…。」
萌がやつれた顔で笑った。
「普通なら黙って知らない振りするじゃない?
私なら後ろめたくても知らないを演じ通すけど……
なんかほんと 撃沈って感じだわ。」
萌が布団の中に入った。
「秋杜…バカだね……。
なんで来たの?せっかく私が気持ちよくカッコよく
決めようと思ってんのに……。
春湖さん傷つけたんでしょう?ひどいよ……って私のせいだけど
それは全世界の女敵に回すね。」
俺は萌の隣のイスに座り込んだ。
「俺のしてること残酷だよね……。」
「うん…その優しさが実はすごく残酷なのに気づいた。
私のわがままだけど……あんなに春湖さんを愛してんのに……
お人よしにもほどがあるだから私みたいなのは期待してしまうんだよ。」
「そばにいてくれるのは…愛情じゃないんだよね?」
萌の言葉が突き刺さる。
「ごめん……。」
「一緒にいてもらうようになって気がついた。
自分が望んだことだけど…それが一番辛いってこと
体の痛みより心の痛みが辛い……ってこと……。」
「萌・・・・。」
「解放してあげるから…解放して……。
ありがとう私 秋杜に会えてよかった。
楽しかった…辛いことたくさんあったけど…自分が嫌いになったこと
たくさんあったけど…好きになったのが秋杜でよかった。」
萌の細い指が俺の頬を撫ぜる。
「ごめんね…本当に勝手な女で……
私ね…春湖さん好きになっちゃったよ……。
春湖さんに負けるなら本望だって…あの人素敵な人……
そして秋杜のこと愛してる…信じてるんだよ……
幸せにね…秋杜……。」
萌は最後まで笑っていた。
「私たち親友だよね?」
「うん……。」
次の日 どうしても確かめたくて萌の病室の前に来たけど
違う人が入っていた。
それから萌の家にも言ったけど
空き家に変わっていた。
萌との時間は楽しかった。
萌のおかげでいろんなこと知った。
「サンキュー萌・・・・。」
俺は誰もいない家につぶやいた。