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「どうして?光太郎と?」
私は慌てた。
光太郎と別れてからの短い時間で何が起きたのか…
私にはまるっきり謎だった。
それに二人は顔を知らないし……。
「すっげームカついた。
春湖にタバコを吸わせた……。
昨日から一緒にいるヤツだってすぐにわかったし……。
だからそいつが戻って来た時に 目があったから……睨みつけた。
アイツどっかで見た顔だけど…思いだせない……。」
「あ…課長の奥さまの従弟なの。
そ…それで光太郎に殴られたの?
秋杜も…殴ったの?」
心臓の血が引いて行った。
明日は大事な撮影が夜からあるから帰るっていってたっけ……。
秋杜は私と光太郎の後から歩いていたらしい。
多分 第三者から見ると少しいちゃついているように見えたのかもしれない。
制服姿の男子高生に睨まれてたら それが秋杜だって
光太郎にもわかるだろう。
「おまえ秋杜か?……」光太郎が秋杜にきいた。
「テメー誰よ?春湖の何?」
「別れたんだろ?なんだっていいだろう。
ガキが・・・・早く消えろ。」
光太郎が凄んだ。
そりゃ俳優だから…どんな役でもこなすだろう。
「テメーに言われる筋合いねーよ。コラ……」
俺様秋杜だって負けてない。
一人っこでいじめられたら困るとか言って 尚ちゃんが
空手とかやらせてたから……
「大事な女泣かせるようなやつに春湖はやれない。
っていうか…まだお子ちゃまだからな……
おまえみたいな女の経験もなさそうな奴にこんなこと言っちゃ悪いか?」
「黙れ・・・・・。」
「春湖は俺が守るから……おまえはおまえが選んだ女を
最後まで守ってやれや。
一人くらい大事にできんだろ?なんぼケツ青くたってよ
あん?クソガキが……」
秋杜の怒りは頂点に達していた。
ちょうどいらついてもいたからもう秋杜の拳は
光太郎の頬めがけて打ったが うまくかわされて反対に
秋杜の頬に光太郎の拳がヒットした。
「ガキが・・・・。
いつまでもガキでどうすんだ。
泣いてる女を喜ばすこともできねーんならもう
恋なんてすんじゃねー!!
春湖は 俺がもらうからな!!」
そう言うと光太郎は大股で歩き出した。
秋杜の唇が腫れてるのは…光太郎に殴られたんだ。
「春湖……やっぱり男に女は守られたいんだよな……。
俺は春湖を泣かすばっかで……守ってやることもできない……。
自分が今…どうしたらいいのかわからない……。
自分のことで精一杯で……おまえのことまで考えられない……
嫉妬したり…我慢したり
辛いんだ……。めっちゃ辛い……。おまえといるの……。」
秋杜の横顔が苦しそうだった。
「出て行くよ…私……。
近いうちに……由美ちゃんに電話して……そうしよう…。
私も辛い…近くにいても抱きしめてもらえないなら…
遠く離れていた方がいいかもしれない。」
一瞬振り返って秋杜が何か言いかけたけどそのまま出て行った。
それでも好きだよ……。
こんなに好きになるなんて思わなかった。
「秋杜が辛そうなのが……私にとって一番悲しいことだから……。」
こんなに愛し合ってるのに…広がる距離に私たちはどうしようもなかった。