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「もし私も死ぬ病気だったら…秋杜は私と萌ちゃんの
どっちを選ぶの?」
酔いに任せて私の口は残酷な言葉を発した。
「バカな質問すんな。だいたい死ぬなんて簡単に言うな。」
それはそうだ……
バカね…私……いい年して……そんなこと言って……
「ごめんね……。」
私は秋杜の首に抱きついた。
「俺は…どうしようもないクソみたいな人間だよ……。
自分がどうしたいのかも 何をしたいのかも見失ってる……。
だから大切なものを巻き込んでしまうんだよな。
まったくさ…かあちゃんが心配した通りだよ。
今さら 後悔したってはじまんねーけどな。」
「私が悪いんだよ。
素直になれなくて…秋杜を孤独にしてた……。
秋杜が自分の生きてる世界を嫌ってるのも早く私に追いつきたいって
思ってることも…全部わかってた……でも
素直になれなかった…私も好きだよって言うのが…
プライドが許さなかった……。
不安もあったの…いつか…いつか秋杜が自分の生きてる世界を
好きになって私は捨てられるんじゃないかって……
それが…今…なんだよね……。」
秋杜の首に唇をつけた。
愛おしい感情が波のように押し寄せてくる。
「傷つけて…ごめん……。
俺が優柔不断でバカでガキで……おまえだけしか見えてなかったのに
まっすぐだったはずだったのに……
萌を支えたいって思ってしまった……。」
「それは同情?それとも愛情?」
「わかんない……。同情だけじゃないけど愛情なのかわかんない……。
萌に対する感情は好きとか愛してるとか俺が春湖に言える
この言葉だけじゃないんだ……。
この世界を嫌って腐って孤独になった俺の中から 本当の俺を…解放してくれた……。
萌がいなかったらきっと…おまえに執着した人生しか送れなかったかもしれない…。」
「そうか……。」秋杜の言葉は胸に突き刺さる。
秋杜は階段を登りだした。
「昨日……帰って来なかった……俺がもうとやかく言う事じゃないけど……」
「うん…心配させたならごめん……。」
「一睡もできなかった……。自分勝手だよな俺……。
大人になりたいな……。もっと心をひろくして愛する人を包み込むような男になりたい。
だけど悔しいけど俺には経験も生きてる年月も少なすぎて……
愛してる人さえ悲しませてるから……。」
「そんなに責めないで……
もし百人の人が秋杜のこと責めても私はわかってる…。
秋杜が誰より一番辛いことも…悲しいことも……。
私だけは秋杜をわかってるから……それでいいじゃん……。」
秋杜の頬から涙がこぼれて私の顔を濡らした。
「春湖 お人よしすぎだぞ……。
そんなにお人よしだとまた悪い男にだまされるからな。」
「秋杜は悪い男じゃないよ……。」
私を静かにベットに下ろして秋杜は部屋を出て行こうとして
言葉を発した。
「春湖を…解放してやれってさ…」
「え?」
「さっきさ…喧嘩したんだ。
知らない男と……。大人の男……タバコと香水の匂いがした。」
「光太郎と?」
酔いは一気にひいて行った。