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「楽しかったです。今日はありがとうございます。」
家が近づいて私は礼を言った。
「今日は春湖ちゃんの笑顔がたっぷりみられてよかったよ。」
課長が微笑んだ。
「明日も笑顔で仕事頼むね。」
「はい!!大丈夫です。」
嘘じゃなくて…少し元気になった。
「辛いことあったらすぐに来なさいね。
私はいつでも春湖ちゃんを受け止めるからね。」
「ありがとうございます。
心強いです。なんか力が湧いてきました。」
「あ~そうだ~明日のお弁当の買い物してない!!」
一世さんが大声を出した。
「うちの近くにスーパーがあるからそこで買いものしたらいいですよ。
けっこう売り出しとかしてるし~~」
「あ~ほんと~~じゃそこに寄って行こうか~
光太郎も明日朝食べてくでしょ?」
「うん~明日帰るのか~~」光太郎が大きく伸びした。
スーパーに車を止めてチビちゃんたちをだっこして
一世さんと課長が外に出た。
「あの…私ここから一人で帰れますから~」
「そう?」
「もうすぐそこだから……」
「わかったわ~気をつけてね」
私が車のドアを開けると 光太郎も外に出てきて
「じゃあ俺送ってくからその間ゆっくり買い物してて~」
「頼むな~」
課長ファミリーが四人で手を振ってくれた。
私も手を振って歩き出した。
「すみません…近くだから大丈夫なのに……」
「いいよ~もう少し二人でいたかったからさ……」
「光栄だわ。」
今日の空は星がきれいだった。
「帰ったらまた泣くんだろうな~」
「そう言われると…でも…みなさんに癒されて復活できそうです。」
「そっか~~春湖は…どうすんの?」
「どうするって?」
「お子ちゃま彼氏と別れるのか?」
「はい……」
「そっか~」光太郎はタバコに火をつけた。
「でも……私……やっぱり秋杜が好きです。
大好きです……。だから…もう少しだけ…時間がかかるかもしれないけど……
自分の気持ち大切にしてあげたいの。
秋杜の片想いの時期は16年もあったの~
だから私も…片想いしていこうって……納得行くまで…ね…。」
「そっか~~」
「会えてよかった……。
いつもたすけてもらってばっかりだから……」
「次のドラマはウルトラマンか仮面ライダーにしてもらおうかな~」
「ありがとう・・・・。
私……秋杜がいなかったら…絶対光太郎さんを好きになっちゃっただろうな~」
「あはは~いなかったら…ってか~~
それは光栄です~~」
タバコの煙が空に登って行く
「最後にタバコ……吸わせてほしいな~~」
私が言うと 光太郎はまた口にくわえていたタバコを
私の口元に運んでくれた。
今度は深く息を吸って うまく外に吐き出した。
「どうしても辛いことあったらさ…俺んとこ来い……。」
光太郎が私の口からタバコを離した。
「ありがとう……
また助けてもらおうかな~~」
「そうじゃなくてさ……」
私が光太郎の顔を見つめると 光太郎は私の頭をわしづかみにして
前後左右に揺らした。
「ま・・・いっか~~ぁ~~」
光太郎が右手を差し出した。
私はその手を握った。
「じゃあな~いつまでもなくなよ。」
「はい!!!」
光太郎は私に背中を向けて歩き出した。
本当はね…その胸に飛び込みたかったんだよ…
前みたいに体で全部忘れさせてもらいたかったんだよ……
でもね…やっぱそれは…ずるいことだから……
私たちはお互い 違う人を求めているから……
傷をなめ合いたいのかもしれないね……。
秋杜が好き
自分の心に素直になろう……。
私は家に向かって 歩き出した秋杜と顔を合わせる悲しい空間に……。