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あの後 降りてきた秋杜に


「今日 萌ちゃんに呼び出されたの…。」と言った。


秋杜は戸惑った顔をしていた。


「明日 おとうさんのいる岡山に行くみたいだよ。

そのまま転院するんだって……。」


秋杜の顔色が変わった。



「もう秋杜を解放するって……。

私に返してくれたの……。もう一緒にいるのが辛いんだって…。」



秋杜は茫然としたまま口を開かない。



「どうする?このまま見送る?」



「それとも……」私は一抹の不安を覚えながらその後の言葉を濁した。



「どうして俺に教えたんだ?」秋杜の声は震えていた。



「どうしてって…それでいいのかなって…思ったから……」言葉に詰まる。



「何で…知らない振りしない?そしたら…俺は春湖のところに戻ったかもしれない。」



「じゃあ 秋杜は戻らないの?」恐る恐るその言葉を発した。



わかってた…きっと半分はそうかも知れないって……



「萌のそばに…約束通りいてやりたいんだ……。」




「私がもし…私のそばにいてって言っても?」


秋杜は辛そうな顔をそむけた。



「ごめん………。萌のそばにいたい……。

最初は…同情だったかもしれない……でも萌と一緒に生きてるって時間を過ごしだして

俺は……萌と一緒に最後までいたいって思った。

萌の最後がもうそこまで来ていたとしても……それを俺が見届けたい

萌が幸せだったって思ってくれるように…送り出したいんだ。

痛みで苦しんでる横で俺は何もしてやれないけど…でもそばに俺がいたら

必死に笑うんだ。『秋杜がいるから頑張れるよ』って……。」




秋杜はもう…萌に縛られてるんじゃなくて

自分から一緒にいたいって…そう思ってるんだ。



やせ細った萌を愛おしいって想ってる……。





「萌ちゃんと一緒にいるんだね……。」


私は必死に平静を装う。




「うん……。」




「わかったよ……。秋杜……行っといで……。

もう……私待たないからね……。」




秋杜は私の顔を見つめる。



「わかった?解放してあげる。

秋杜は私から卒業だね……。」





秋杜の涙が頬を零れ落ちた。



「ごめん………。」




「大好きだよ……もっと早く素直になってこうして言えばよかった。」




「俺も大好きだよ。

大好きよりもっともっと……愛してる……。」




「また…いつか…こうして囁き合える日まで…バイバイ……。」




私は思わず秋杜を抱きしめた。

一瞬秋杜の腕にも力がこもった。



「新居 秋杜 くん に卒業証書を作らなくちゃね。」




私は秋杜の胸を静かに押した。




「いってくる……。」


秋杜はそのまま振り返らることなく上着を羽織って玄関を飛び出して行った。




一人になった玄関で私は腰が抜けた。



  秋杜が私から…卒業しちゃったよ……。




顔を覆って死ぬほど泣いて……捨てられた猫のように…孤独で悲しくて……

人恋しくて…思わず



「光太郎~~助けて~~」と叫んだ。

救世主は……もう遠い空の向こう側……。



私はタクシーを呼びつけて一世さんの家に向かった。



  一人でいたくない………。



初雪のキスを思い出していた。

あの時と同じ大きな雪が落ちてくる。



  もう春なんだよ………



いつもあたり前に一緒にいた秋杜が…私の手を離れて……飛び出して行った夜……




俺様王子との溺愛もピリオドを打った。

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