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「それでいいの…?」
私は萌に聞いた。
「はい……もう秋杜を苦しませるのは…やめます。」
キレイな涙がポロっと落ちた。
「秋杜のために…いなくなるの?」
「もう解放してあげます……。充分だから……。
ごめんなさい…春湖さんにも辛い想いさせてしまって……
秋杜の優しいとこ…自分でしむけておいて…だけど
罪ですね……。私が第三者なら……イヤな女だなって思うわ。
ある意味脅迫ですもの……死ぬまで一緒にいて…なんて……。」
萌は話すたびにポタンと涙を落とした。
「秋杜が辛そうなの。
そんな秋杜を見てると辛くなる……。
春湖さんのところに戻りたくて…だけど…私がいるから
戻れない……それを承知で秋杜に一緒にいてって言ったけど
やっぱ…一緒にいるの辛くなる。
私はやっぱり秋杜が好きだから……あなたのこと考えてる秋杜を見てると
正直辛かったりする……。」
萌も辛かったんだ……。
「幸せになってください。
秋杜のこと…泣かせないでください。
ずっとあなたのこと…好きだったんだから……。
うらやましいな~春湖さんは~秋杜と一緒にいられるんだもん……
秋杜の小さい頃のことや…秋杜の好きな食べ物や…秋杜のことたくさん知ってて…
秋杜の唇は柔らかい?熱い?
私の知らないことたくさん知っててうらやましいです。
これから先もたくさん時間があるんだもん……」
雪がハラハラと落ちてきた。
病院を出て地下鉄の駅まで歩く道……
「これでいいのかな……。
これが正解なのかな……。」
萌が秋杜を解放した………。
だけど…しっくりしなかった。
秋杜は何も知らないから………
知らない振りしてればいいじゃん……
時間が過ぎれば……秋杜は私のところに戻ってくるじゃん……
それでいいんだよ。
だって……それを待ってたんだもん……。
そうだよ……
秋杜は私の彼氏だもん
でも…でも……どうしてもスッキリしなかった。
やっぱあの時 秋杜を萌のところに行かせたのは…間違いだったのかもしれない……。
白い雪が私の心の汚い所で溶けて行く……。
萌の流した涙のように……。