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一カ月が過ぎたある日のことだった。


受付に女性がきて

「平野 春湖 さんいらっしゃいますか?」と言った。



「はい…わたくしですが……?」



どこかやつれたような女性は 萌の母親だった。

萌からの伝言を預かって来たという母親は


「娘と申し訳ないのですが会っていただけますか?」と言った。



「私がですか?」



「娘がどうしても今晩お会いしたいというので…ご都合つけていただけますか?

少し急いでいます……。」と言ったから




「今晩…伺います。」気乗りしなかったけど私はそう答えた。


  わがままな奴……



  何の用なの……?


心がざわついた。またイヤな思いをするのは…今は辛かった。

これ以上萌を嫌いになりたくないから……。


仕事帰りにまっすぐ病院に寄った。

エレベーターが開いて

毎日ここに秋杜が通ってきてるんだと思うと複雑だった。



  もしかして…中にいるとか……

  見せつけようとしてるとか……


萌の私に対してのイメージはたっぷり感じが悪かったから…それでも仕方ないので

開いているドアの奥に進んだ。




「あ…来てくださったんですね。

すみません。もう少しで戻りますから……。」



母親はベットの横の棚を開いて カバンに詰めていた。



「退院されるんですか?」恐る恐る尋ねた。



「いいえ…転院するんです。夫と息子の住むところに……。」



「え?」



車いすに乗った萌が看護師に連れられてきた。



私はそこに座っている萌に驚いた。

あの元気そうで勝気そうな萌はそこにはいなかった。

顔色が悪くやせ細った萌が私を見つけて頭を下げた。

可愛い帽子をかぶっている。



  萌…だよね……?


目を疑った………。



看護師と母親に支えられてベットに横たわった。



「じゃあ…ママ先生とお話してくるから……

平野さんゆっくりしていらしてね……。」

母親は看護師と病室を出て行った。



私が言葉を失っていると


「今日は秋杜来ないですよ。検査があるからって言ったから。

すみません…急に呼び出して…だけど春湖さんには会っておきたくて……」



私はベットの横のイスに腰掛けた。



「春湖さん……キレイ……うらやましい………

ずっと生意気な態度でごめんなさい……。嫉妬してましためちゃくちゃ…

だってあの秋杜が人生かけてるなんて言うから…ほんとショックでした……。」


萌は語りだした。

逃げ出すように越してきたこの地で 秋杜に出会って恋をしたこと。

秋杜は本当は孤独なんじゃないかって  殻を破れずに

いじめられて孤独だった自分と重ねたこと。

恋を隠して 友情を全面に出してきた辛さ……。

恋心を悟られたら きっと秋杜は離れて行くって悟った瞬間から戦いは始まった。

好きで好きで…辛くて悲しくて

それでも一緒にいたくて自分を必死におさえてきたと萌は話してくれた。



「好きな人がいるって聞いた時は ものすごくショックでした。

もしかしたらいつか・・・自分をって思って

自惚れてたから…地獄におとされちゃった……あはは……」



「秋杜は春湖さんが好きで好きで…なのに知らんふりをしてる春湖さんが

憎たらしくてごめんなさい…態度悪くて……もう嫉妬です……

それからわざとに…春湖さんを怒らせたくて

秋杜に嘘をつかせることしたり 帰らないでってすがって…ごめんなさい……。」



萌は何度も頭をさげた。



「もう謝らないで……」

やせ細った萌が頭を何度も下げる姿が痛々しかった。



「ううん……たくさん謝らないと……

もうこれが春湖さんに会う最後だから……

ずっと悩んでて……会って謝りたいって思ってた……。

秋杜を…私に貸してくれて…ありがとう……。幸せでした……。

だけど…もう限界かなって……私変わっちゃったでしょ……もうこれ以上

変わっていく私を秋杜に見せるのは…わがまますぎるから……

明日…転院することにしました。

今体調がすごくいいから…一時的に退院できるので……

父と兄のいる岡山に戻ることになりました。」




「秋杜は……知ってるんでしょ?」




萌は首を振った。



「言いません……。手紙をここに置いて行くから

秋杜は明日の夜知ることになります。その時はもう私は岡山にいますから。」



萌の目が潤んできて私はそのキレイな目を見つめていた。


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