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手際良く作られた料理はオムライスだった。
サラダは色とりどりで 秋杜はなんでもできる子だと思った。
「由美ちゃん…嘘ついたんだね~
秋杜が何もできないって……朝は絶対起きれないとか……」
「すごい嘘だろ?俺もさすがにそれは言いすぎだと思った。
かあちゃんたちは どうしても俺の片想いを叶えたいと応援してくれてた。」
「どうして?私のどこが秋杜は好きだったの?
全然普通じゃん…顔だってこんな丸いし…太ってるし……」
「俺はきっと春湖に執着する人生に決められてたんじゃないかな。
多分かあちゃんの腹の中から出てすぐに春湖を好きになる運命だった。」
「どうしてうちら…同じ時に生れられなかったのかな。
私も…秋杜と一緒の毎日の中で暮らせたらどんなに素敵だったのかな…
萌ちゃんじゃなくて私が秋杜を支えてあげれらのにね……。」
「勝手なこと言ってるってわかってるんだ。
ただ…萌の容体が悪いなら…俺は支えてやりたい……。
萌が一緒にいたいって言うなら いてやりたいんだ。
だけどそれが 春湖を悲しませることだってことも…わかってる……。」
オムライスは美味しかった。
「めっちゃ美味しいよ秋杜~」
食べながら涙がこぼれた。
「春湖……」秋杜も泣きそうになっていた。
「ごめんね…責めるつもりじゃないのに…涙が…勝手に出て…
年上のくせに…大人になれないから…ごめんね……。」
「俺を信じてくれる?
俺は春湖しか愛さない……。心も体も裏切らない……。
だけど…今は萌を支えてやりたい……。」
「大好きだよ…秋杜のそういうとこ……
だけど辛いのは…私の知ってる秋杜は俺様で そんな子だと思ってなかったから
そういう周りの人に優しくなれる手伝いをしたのは萌ちゃんなんだね……。
私は 秋杜の人生に何も教えてあげられてない…それが悲しい……。」
萌に対して嫉妬してる
それは秋杜を惑わしてるからじゃない
私の前で萌を支えてやりたいっていう秋杜が
あまりに素敵すぎて……
秋杜をそうさせた萌に 激しく嫉妬していた。
「今までもどうして五歳も早く生れてきたんだろうって思ってきたけど
今日くらい強くそう感じたこと…なかったな……。
私が秋杜とおなじ視線で見る世界っていったいどんな感じだったんだろ。」
涙とサラダが一緒になって……
「う・・・・やだやだ
カッコ悪いでしょ…私…だからイヤだったんだよね……
こんな私みられるの…すごく恥ずかしいから……。」
こんな姿は秋杜にだけは見せたくなかったのに
涙が止まらない……。
「秋杜…萌ちゃんのとこ…行ってあげて……
私は大丈夫……行ってあげて……
そんな秋杜が…すごくカッコいいから……
悔しいけど……また好きになった……」
「春湖……」
秋杜が立ち上がって…私を強く抱きしめた。
「秋杜…秋杜…大好きよ……」
秋杜の体も震えていた。
二人の振動は一つになって……お互いの心が伝わってくるようだった。
その夜 秋杜は雪の中を出かけて行った。
私は窓からその姿を見送った。
「いってらっしゃい……」
二人が愛し合える時は萌がいなくなった日から?
本当にそれでよかったんだろうか……。
どこかでその日を待つ自分が鬼のように感じられてイヤだった。